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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 不幸を招く少女
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暗闇に灯る光

 草木が揺れる夜に、大人達が火を掲げて一人の子供を追っていた。追う者達は目を血走らせ、夜の闇に灯す火の明かりで微かに見える背中を追いかけていく。

 追われる者は一心不乱で逃げる。どの方向を進み、何処へ向かっているかも分からずに、夜の闇の中へと逃げていく。

 しばらくの逃走劇の後、大人の一人が同じ追う者達の足を止めさせた。その理由は、子供が森の中へ逃げ込んだからである。大人達は荒れていた息を整え、森の奥へと逃げ込んで見えなくなった子供を憐れみながら、自分達が帰る場所へと帰っていった。

 一方、森の中へ逃げ込んだ子供は、地面から出ている木の根っこに足を引っ掛けて転び、その場にうずくまっていた。立てなくなる程の痛みではなかったが、その痛みは身体よりも精神にダメージを与えていた。


「ぅぅ……ど、どうして……なんで……!」


 後悔と絶望に涙が流れ落ちる子供。その負の感情に惹かれて、夜の森の中で息を潜めていた怪異達が姿を現す。形は人間であるが、その姿は黒く塗りつぶされており、体の一部が欠損していた。


「カラダ。カラッポダ」


「アシモアル。ウデモアル。アタマモアル」


「クレ。クレ。カラダ、クレ」


 自身が失った体の一部を手に入れようと、怪異達は子供に手を伸ばす。夜の闇とは違う黒い物体に遅れて気付いた子供は後退りするが、既に周囲を囲まれてしまい、大木を背にして怯えるしかなかった。


「嫌だ……死に、死にたくない……死にたくないよ!!!」


 懇願する子供の声を聞き流し、怪異達は尚も子供へと近付いていく。怪異が近付く度にイメージされる無残な殺され方に呼吸が乱れていき、視界が歪み始める。 

 怪異達の顔が夜の闇の中でもハッキリと見える距離にまで近付かれてしまうが、怪異達はどういう訳かそこから近付いてはこなかった。やがて子供から背を向け、暗闇に包まれた木々の間へと注目し始める。

 子供は何が起こっているか理解出来ず、怪異達が向いている場所へ意識を集中させると、暗闇に包まれた木々の間から何かが近付いてくる気配を察知した。その気配を感じ取った瞬間、さっきまで怪異達に感じていた恐ろしさが何処かへと消えた。


「暗闇にこぞって団欒か? 怪異らしい会合だな」


 その声の後に、暗闇に包まれた木々の間から黒宮アキトが姿を現した。月の光も届かない森の中でも、ハッキリと目に映る不思議な存在感があった。

 黒宮アキトが現れると、子供の周囲に集まっていた怪異達が明確な怯えを見せ始め、闇の中へ散り散りに消えていく。一瞬の内に、まるで今まで夢を見ていたかのように、子供の周囲には誰もいなくなった。ただ一人、黒宮アキトを除いて。


「……あ、あの」


「ついてこいよ。死にたくないんだろ?」


 そう言うと、黒宮アキトは子供を待たずに再び暗闇の中へと戻っていった。このまま立ち止まっていれば、また怪異達に襲われる事を危惧した子供は、黒宮アキトの後を追いかけていった。

 暗闇の中に入ると、当然として視界が真っ暗になるが、前方を歩く黒宮アキトの存在を感じ取れた。


「あの……そこにいるんです、よね? えっと……」


「アキトだ。お前は?」


「……」


「言えないか。夜の森に入るのは自殺したい奴か、後ろめたい何かを抱えた奴だけだ。詮索はしない」


「い、いえ! 僕はイチ。助けてもらったのに、すみません……アキトさんは、祓い士の方なんですか?」


「家の名を持っていない祓い士がいると思うか?」


「いえ、確かにそうですけど。でも、怪異達はアキトさんを見て逃げていったので」


「あの怪異は弱い奴を狙う事でしか存在を現せない雑魚だ。強い想いも抱けずに死んでいった末路だよ」


「やっぱり、アキトさんって祓い士ですよね? 怪異をよく知っているようですし」


「残念だが、本当に違う。ただの連れの受け売りだ」


 暗闇の中、二人が会話を交わしていると、奥の方で焚火の明かりが見え始めた。焚火のもとへと行くと、西連寺マコトが木のツルでお守りを作っていた。そのお守りを作り終えると、西連寺マコトは帰ってきた黒宮アキトに笑顔を向けるが、その傍に立っているイチを見た瞬間、笑顔が消え去った。その西連寺マコトの表情の変化に、イチの背筋にゾクリと寒気が走り、思わず黒宮アキトの後ろに身を隠してしまう。

 しかし、その行動が西連寺マコトの機嫌を更に損ねてしまった。誰の目から見ても不機嫌になっていたが、黒宮アキトは西連寺マコトの変化に気付けず、呑気にイチの事を紹介し始めた。

 

「こいつはイチ。さっき怪異に襲われそうになってた」


「……そうですか。で? 何故野良犬を拾うような真似を?」


「野良犬って。こいつの名前はイチだって言ったろ? 死にたくないって言ったから連れてきただけだ」


「それはそれはお優しいこと。それに、随分と懐かれているじゃありませんか」


「……お前、怒ってんのか?」


「怒ってません」


「怒ってるだろ?」


「いいえ、怒ってません。ただこの場に相応しくない存在を邪魔だと思ってるだけです」


「怒ってんじゃん。お前子供嫌いだったか?」


「兄様の傍に近付く者が嫌いなだけです。特に女性の方は」


 西連寺マコトの言葉を聞き、黒宮アキトは自身の背中に隠れているイチの顔を見た。土で顔が汚れているが、根底にある可愛らしさが表情や潤んだ瞳に表れている。

 イチが女の子だと理解した黒宮アキトは、ようやく西連寺マコトの機嫌が悪い理由に気付き、自分に向けられている好意の重さにため息を吐いた。西連寺マコトの機嫌を取り戻す方法はいくらでも思いつくが、その全てにめんどくささと嫌悪感があり、機嫌取りを諦めた黒宮アキトはイチを抱き寄せながら焚火の前へ座る。

 すると、西連寺マコトに残っていた僅かな理性が吹き飛び、焚火の火が激しく揺らぐ程の殺気が解き放たれた。その殺気にますます西連寺マコトに怖がるイチは、ますます黒宮アキトへと縋っていく。

 もう何をしても状況が悪くなるだけだと直感した黒宮アキトは、朝が訪れるまでの間、激しく揺らぐ焚火の火を目で追いかけていった。

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