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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 安寧の地
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 ルー・ルシアンの信用を勝ち得た黒宮アキトは家に招かれた。外観はツタに覆われ、ガラスは蜘蛛の巣や曇りがかかって中の様子が見えない。外から見れば、人が住んでいるとは思えない廃れ具合だ。

 だが中に入ると、そんな考えは覆された。吊り下げられた照明が部屋を照らし、家具や置物はアンティーク品で揃われており、俗に言うオシャレな空間であった。

 

「適当に座って。今コーヒーを淹れるよ」


「いや、コーヒーは自分で淹れる」


「ここは私の家。郷に入っては郷に従え」


「オレはオレの好きに動く。他人の家だろうがな」


「そう。じゃあ、冷蔵庫にある缶コーヒーでも飲んで。アキちゃんのだけど……どうして誰も私のコーヒーを飲まないんだろ?」


 ルー・ルシアンは挽いておいたコーヒー豆でコーヒーを淹れ、黒宮アキトは冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して部屋の隅に座った。黒宮アキトは缶コーヒーを一口飲み、ふとルー・ルシアンの方を見ると、懐疑な目をしていた。


「なんだよ?」


「あー、適当に座ってとは言ったけどさ……普通、椅子に座らない? それかソファ。最悪テーブルの上でも」


「ここが落ち組んだ。隅で座っていれば、動きたい気持ちを抑えつけられる」


「多動性だったりするの? それとも暴れたい欲望に満ち満ちているとか?」


「そんな事はどうでもいいだろ。優雅にティータイムをしたいところだが、あいにくオレには時間が無いんだ。だからさっさと要件を話せ。何故オレを招いた?」


「一緒にティータイムを楽しもうと」


 場を和ませる為か、ルー・ルシアンは冗談を言った。しかし、それが黒宮アキトを苛立たせ、目に殺意が籠り始める。ますます空気が悪くなってしまった結果に、ルー・ルシアンは若干の気まずさを覚えながら、コーヒーを一口飲んでから本題を話し始める。


「……本当に、五賢人を殺そうとしてるのかい?」


「ああ。その為にも、まずは冬美を神薙家から救い出す」


「救うって? まったくの逆だよ。冬美は神薙家に守られてる。神薙家が冬美に罰を与えている事で、冬美は生き永らえてるんだ。神薙家の外に連れ出せば、それこそ身を危険に晒す事になる。そうなれば君もただじゃすまない。神薙家に侵入し、罪人を放ち、更には五賢人の殺害を企てる。大罪人だ。祓い士全員が敵になるんだ」


「冬美の話では、五賢人が邪奇醜を操っている。今祓い士の世界では邪奇醜による侵略が始まっている。話を聞けば、いくつかの家は分かってくれるはずだ」


「罪人の話を誰が信じるっていうの? それに相手が悪い。五賢人に逆らうリスクは当主であれば承知の上よ。誰があなた達に協力するの?」


「既に一人いる。西連寺家の当主、西連寺ソウジ。あんたの昔の友人だ」


 西連寺ソウジの名を口にされた瞬間、ルー・ルシアンは頭を抱えた。ルー・ルシアンの頭の中で後悔と疑問が渦巻く。西連寺ソウジならば上手く隠してくれると信頼して黒宮アキトを預けたが、まったくの見当違いであった。西連寺ソウジは目立つ行為は避け、世渡り上手な男としてルー・ルシアンは記憶していた。

 だからこそ、西連寺ソウジが黒宮アキトに協力する意味が分からなかった。五賢人を殺す事は、頭の中で考えただけでも罪になる。実行しようと企て、動き始めるとなれば大罪人だ。黒宮アキトに協力したとなれば、当然西連寺ソウジも罪人になる。

 黒宮アキトのように五賢人に因縁があるのなら話は別だが、西連寺ソウジは当主として五賢人に仕えてきた。五賢人を殺す事にリスクはあれど、リターンは無い。その事を西連寺ソウジが忘れるはずもないと、ルー・ルシアンは理解していた。

 だからこそ、理解が出来なかった。西連寺ソウジは黒宮アキトを利用し、何を為そうとしているのかを。

 

「……ソウジ君は何故、君に協力するのかを話してくれたかい?」


「気付いたと言っていた。長く生きていれば、当たり前に感じていた事が間違いだと気付くと」


「それを信じるの?」


「信じる信じないは関係ない。オレはオレがやると決めた事をやるまでだ」


「今からでも考えた方がいい。五賢人を相手にするというのは、怪異や邪奇醜を相手にするのとは訳が違う。未来永劫、あなたに安寧は訪れない」


「安寧? オレにいつ訪れたっていうんだ。昔も今もこの先も、オレに安寧は訪れない」


「あの二人! この世界で出来た友達がいるでしょ! 実際に会ったのは初めてだったけど、二人はあなたを心の底から信頼している! 二人のもとに戻ってこう言えばいい「やっぱりこっちの世界で生きる事にした。これからもよろしく」って! 怪異を祓う事以外、祓い士達はこっちの世界には不干渉。平和に余生を過ごせる!」


 ルー・ルシアンは黒宮アキトに必死に訴えた。自身の経験から、罪人として祓い士の世界で生きる辛さと厳しさを知っているが故のアドバイスであった。

 だが、黒宮アキトに一切の変化は起きず、数秒の沈黙の後に口を開く。


「オレはやる。逃げやしない」


「ハッ! 何から逃げるっていうの!?」


「オレからだ」


「分からず屋!……ねぇ、これが最後のチャンスなのよ? 戻れば地獄、留まれば平和。選択の余地はないでしょ?」


「俺は地獄の中で生きてきた。郷に入っては郷に従え。オレはオレのルールに従う。邪魔する奴や気に入らない奴は皆殺しだ」

 

 揺らぐ事の無い真っ直ぐとした黒宮アキトの目に、ルー・ルシアンは圧倒された。これ以上何を言っても、何をしても、黒宮アキトの考えが覆る事は無いと悟ると、ルー・ルシアンは飾っていたアンティークの腕時計を手に取った。


「……この腕時計は破邪の指輪と違って、時間を指定して歪みを通れる。長い間使ってないから、正常に使えるのは一度だけ。その後はランダムな時間軸の世界に繋がるようになる」


「一度で十分だ」


 黒宮アキトは残っていた缶コーヒーを飲み干し、ルー・ルシアンから腕時計を受け取ろうと手を伸ばす。しかし、ルー・ルシアンは腕時計を手放そうとせず、最後にもう一度黒宮アキトへ選択を迫った。


「五賢人を殺したとして、あなたに味方する者は誰もいない。そうなれば、あなたの友人には二度と会えない」


「……自分の思うがままにやれ。あいつらから言われた言葉だ」


「……分かった」


 ルー・ルシアンが腕時計を手放すと、黒宮アキトはすぐに出口へと歩いていった。


「黒宮アキト!」


 黒宮アキトが家から出る際、ルー・ルシアンが呼び止めてくる。


「約束して。五賢人を殺す時は、なるべく長く苦しむように殺して」


 その言葉を背に受け、黒宮アキトは顔だけをルー・ルシアンの方へ振り向き、頷いた。家から飛び出し、西連寺家から近い場所に通じる歪みがある場所へ辿り着くと、ルー・ルシアンから受け取った腕時計を使って、こっちの世界に来た時の時間に合わせて歪みへと入っていく。

 祓い士の世界に戻ると、黒宮アキトは腕時計の効果が正常に働いているかを確かめる為に冬美を呼び出した。


「冬美。オレが外の世界に行ってからどれくらい経った?」


『どれくらいって……そもそも、まだ行ってないでしょ?』


「……そうか。流石は稀代の盗人様からの贈り物だ」


 腕時計をポケットの中に入れると、黒宮アキトは西連寺ソウジが待つ貯蔵庫へと駆けていく。

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