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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 安寧の地
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無敵の弱点

 三家の結界術を合わせたルー・ルシアン独自の術である三位一体。発動すれば既に勝利は決まったも同然の強力な術ではあるが、その分リスクも存在する。祓い士は自らの時間、つまりは寿命を削って術を発動する。常人とは別格の寿命を持つ祓い士が、戦死以外で平均的に50代で亡くなるのは、主に術の発動により寿命が底を尽きたのが原因だ。

 そして、ルー・ルシアンが発動した結界術は、祓い士が使う術の中で二番目に寿命を多く削る術である。更にルー・ルシアンが使うのは三家の結界術を合わせた独自に開発した術。先人者がいない独自故に、術によって寿命が削られる量がどれ程のものかは不明だ。五月雨の効果で今は実感していないが、三位一体を解いた途端、術の負荷は一気にルー・ルシアンの体を襲う。

 それでも、ルー・ルシアンは三位一体を使うしかなかった。20年前に祓い士達の世界に突如現れ、多くの邪奇醜と祓い士を単身で殺してきた黒宮アキト。以前までの力のほとんどが失われているが、不死とも思わせる精神力と気力の高さは変わってはいない。ブランクがあるルー・ルシアンは体術を行えず、黒宮アキトと戦うには過剰な術による攻めしかなかった。

 しかし、三位一体を使っても尚、黒宮アキトは立ち上がってしまう。全身から血を噴き出しながら、眼は敵であるルー・ルシアンを捉え、頭では冷静に打開策を練っている。

 ルー・ルシアンは表情には出さなかったが、内心では非常に焦っていた。ルー・ルシアンは黒宮アキトを驚異的存在と認識していながら、対処可能な存在とも思っていた。幼児に戻り、記憶を消され、今は10代後半の若者。マトモに戦えるなど思っていなかった。

 だが実際は違う。最初の車を襲撃してきた時の思い切りの良さや、現在の下手に手を出してこない冷静さから、若者でありながら既にいくつもの修羅場を潜り抜けてきた経験が備わっている。

 ルー・ルシアンは選択を誤っていた。時間を掛けて相手を知り、対応を練るべきであった。一瞬で終わらせようと三位一体を発動したのは間違いであった。後悔とブランクのある自身に苛立ちながらも、ルー・ルシアンは気を取り直し、黒宮アキトを退ける手段を考え始める。

 双方動く事なく、再び睨み合いの時間が流れていくと、黒宮アキトが右手を差し伸べてきた。


「盗んだ物を返せ……!」


「盗人が盗品を返すと思う? 自慢じゃないけど、私は祓い士の世界一の盗人よ?」


「結界術は体に無茶をさせて発動する術だ。それをあんたは三つの結界術を合わせた神業で発動した」


「おぉ、ご明察」


「馬鹿だな、あんた」


「……どういう意味かしら?」


「結界術ってのは強力な術だが、体に負荷をかけ過ぎる。結界術を発明した祓い士はロクに実戦経験の無い馬鹿だ。そんな馬鹿が開発した術を更に負荷がかかるようにしたあんたは、大馬鹿さ」


「私を怒らせて術を使わせて自滅を誘ってるつもり? なら残念。伊達に長く生きてないのよ」


「ブランクがあるな? それも長い間」


「……」


 黒宮アキトはフラフラとした足取りで歩き始めると、すぐに元の歩き方に戻り、ルー・ルシアンを中心に歩き回っていく。


「術の発動タイミングと、発動までの時間稼ぎは見事だった。だが、初めて戦う相手に初めから大技を使い、まだ息があるのに勝った気でいたのは酷過ぎる。オレの推察では5か6年程のブランクがあると見える。強敵との戦いはもっとか」


「……強敵? 君は自分を強敵だと思ってるの? 随分と自己評価が高いわね」


「事実だ。現に、あんたは手を出してこないじゃないか。ただ歩き回ってるだけのオレに」


「五月雨は術者には回復の効果を持っているけれど、敵に対しては痛みを増幅させる。手を出さずとも、いずれ力尽きるでしょ?」


「もう慣れたよ。そして攻略法も分かった。あんたが使っていない神薙を除いた二つの結界術は」


「デマカセを」


「なら見せてやるよ」


 突如、ルー・ルシアンの視界から黒宮アキトの姿が消える。黒宮アキトが消えたと自覚する直前、ルー・ルシアンの後頭部に衝撃が走った。五月雨の効果で痛みは一瞬で消えたが、確かに痛みを感じた。

 ルー・ルシアンが振り向くと、そこには既に殴り終えた拳を突き出したままの黒宮アキトが立っていた。


「展望の戒、だったか? 相手の動きを予測して攻撃を跳ね返す。一見無敵の術に思えるが【相手の動きを予測】という部分が欠点だ。この術の発動条件は相手を視界で捉えてなければいけない。視界や意識の外からの攻撃には術は発動せず、無防備になる」


「……フフ、ご丁寧にどうも」


「そして次だ」


 再び黒宮アキトは姿を消した。術を使う上で必須の破邪の指輪を持っていない黒宮アキトがどうやって姿を消しているか。答えは単純明快。素早く、そして静かに動いていた。足音を立てる前に次の一歩を踏み、相手の動きを常に直感で察知しながら動くという常人離れした技。

 その技に気付く訳もないルー・ルシアンは、次に何処から黒宮アキトが現れるかを周囲を見渡していた。どれだけルー・ルシアンが素早く周囲を見渡そうとも、その更に上の素早さで黒宮アキトは動く。

 そして遂に、黒宮アキトは仕掛けた。先程の手加減をしたパンチではなく、今度は本気の飛び蹴りをルー・ルシアンの視界外から放ち、見事的中させた。蹴りはルー・ルシアンの後頭部に当たり、その威力は凄まじく、ルー・ルシアンは吹き飛んでいった。

 吹き飛ばされたルー・ルシアンが立ち上がろうとした矢先、背中に黒宮アキトが乗ってきて、ルー・ルシアンの髪を鷲掴んで何度も顔面を地面に叩きつけ始めた。絶え間なく、そして変わらぬ勢いで叩きつけられていくと、五月雨の回復効果が間に合わなくなり、徐々にルー・ルシアンは痛みを感じるようになる。

 そうして、ルー・ルシアンの顔面から出た血が地面を染めた頃、黒宮アキトは手を止め、ルー・ルシアンの背中の上から離れた。


「五月雨の回復効果は凄いが、だからといって無敵になる訳じゃない。死に繋がる一撃を何度も喰らっていけば、いずれ回復が追い付かなくなる。五月雨と展望の戒。双方の利点を上手く合わせているが、あんたは肝心な初心を忘れてる。術はあくまでトドメの一撃か最後の手段であり、邪奇醜や怪異との戦いでは体術が基本。基本が出来ないあんたが、オレに勝てるはずないんだよ」


「……フ……フフフ……本当に、口が回るね、君は……」


「あんたを殺す気なら地面にもう一叩きしてたさ。さぁ、盗んだ物を返してもらおうか」


「残念だけど、もう欠片は無いよ……砂に戻してある」


「……そうか。じゃあ、まぁいい。とにかく結界術を解け。このまま発動したままじゃ、解除した後のあんたの身が持たないぞ?」


「……聞いてた話と違う……君は残忍で、暴力的で、人の形をした化け物だと」


「同じ事を誰かさんが言ってたよ」


「……そうか……ハ、ハハハ……無駄じゃ、なかったんだ……」


「どうでもいいが、早く術を解け。手遅れになっても知らないぞ?」


「そうだね。面倒見なきゃいけない子もいるし、死にたくはないよ」


 ルー・ルシアンは体を仰向けにして、自分を見下ろしている黒宮アキトに手を伸ばした。黒宮アキトはため息を一つ吐くと、ルー・ルシアンの手を握って立ち上がらせた。

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