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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 安寧の地
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急襲

 車を運転するアキがバックミラーで後ろの様子を見ると、ルー・ルシアンが黒宮アキトから盗み取った破邪の指輪の欠片を調べていた。


「何やってるんです?」


「誰が黒宮アキトを操ってるかを調べてんの。記憶を完全に消したはずなのに、彼は少しずつ以前の黒宮アキトに戻りつつある。せっかく私が命懸けでやり遂げたのに、骨折り損にしたくないのよ」


「そんなにあの子って重要な人物なんですか? 祓い士にとって」


「黒宮アキトは存在自体がイレギュラーな人物。未来からやって来たまでは分かっているけれど、その出自は謎に包まれてる。人間なのか、それ以外の何かなのか。どちらにせよ、確立出来ていない今の黒宮アキトは家の当主や五賢人達にとって利用しやすい最高戦力。上手く言いくるめば、祓い士の世界を壊す事だって出来る」


「ふ~ん。そんな子には見えなかったけどな~」


「こっちの世界で出来た友達のおかげで、多少は人間らしさが生まれたんでしょうね。以前の黒宮アキトなら、今頃私達三人共死んでる……へぇー、なるほど」


 欠片を黒宮アキトに渡した人物、そして欠片の持ち主の解析が終わると、ルー・ルシアンは欠片を砂に変えて床に散らばせた。バックミラーから見えるルー・ルシアンの様子の変化にアキは気付きながらも、その意味までは分からず困惑した。

 アキは再び前に視線を戻すと、助手席に座っているサヤカが肩を指で叩いてくる。視線は前に向けたまま、助手席の方へ体を傾けたアキの耳元でサヤカが囁く。


「ねぇ、なんか嫌な予感がしない……?」


「嫌な予感?」


「面倒事に巻き込まれる前に、どっかに転移しちゃおうよ……」


「……そうすっか」


 雇い主であり、命の恩人でもあるルー・ルシアンを置いていくのは気が引ける行為であったが、恋人であるサヤカに賛同せざるをえなかった。アキは車を橋の下で停め、シートベルトを外しながらお腹を抑える。


「あー、痛い痛い! 急にお腹が!」


「だ、大丈夫!? ルーさん! アキがお腹を壊したみたいなので、ちょっと降りてきます!」


「あら、大変。家に薬が残ってるから、アキちゃん連れて行きな。車は私が運転してくから」


「はい、ありがとうございます。ほら、アキ。行くよ」


 サヤカはアキの肩に触れ、転移術でルー・ルシアンが追ってこれない場所へと転移した。二人がいなくなり、ルー・ルシアンはタバコを口に咥えながら、渋々運転席に移動して車のエンジンをつける。

 車を発進させて橋の下から出るや否や、後方から凄まじい殺気が迫り来るのを察知し、ルー・ルシアンは運転席から外へ飛び出した。

 その直後、さっきまで乗っていた車が勢いよく吹き飛ばされ、その余波でルー・ルシアンは河川敷の川へと落ちていく。川から陸へ上がると、離れた場所で車が黒い煙を上げながら炎上しているのを目にした。


「あーあ、まだ買ったばっかなのに。こりゃまた赤字だ……で? 何の用かな、黒宮アキト君」


 ルー・ルシアンは川の水で濡れたタバコに火をつけながら、河川敷の坂の上に立つ黒宮アキトを見上げる。公園で見た時は丸め込める程の隙があった黒宮アキトであったが、今見上げている黒宮アキトにそんな隙は無い。いつでも応戦出来るように、ルー・ルシアンは破邪の指輪に予め術をストックしておき、その時を待ち構える。


「さっきも言ったけど、君は祓い士の世界にいるべきではない。こっちの世界で過ごしていた方が良い。祓い士にとっても、君にとってもね」


「返してもらおうか。オレから盗んだ物を」


「あらヤダ! 君の初心な心をお姉さんが盗んじゃったって!? いや~、私もまだまだイケるって事かな~!」


「無駄な殺しはしたくない。オレが殺すのは五賢人だけだ」


「五賢人を殺す、か……君、自分が言ってる事の重大さを理解してる? 五賢人は祓い士のルールであり、祓い士の食い扶持でもある。祓い士全員から敵とみなされる行為だよ?」


「敵になるなら、倒すまでだ」


「……君、やっぱり存在してちゃいけないね。自分勝手過ぎるよ」


 風がそよぐ河川敷にて、睨み合う二人。逃走も待ったも無しの緊迫した空気が流れる中、相手がどう動いてくるかを探り合う。黒宮アキトは常人離れした身体能力と力による体術。ルー・ルシアンは経験と知識で多彩な術を使う。どちらも一撃で相手を倒すのに十分な能力と力を持っている。

 瞬き一つつけない睨み合いの中、先手を打ったのはルー・ルシアンであった。ルー・ルシアンは川に落ちた際に施していた術を発動し、川を自在に操って黒宮アキトを襲う。黒宮アキトは空中から襲い掛かってくる蛇の姿をした水の口から逃れる為に走った。最後の一匹である水の蛇の口から逃れると、空中に高く飛び上がるが、その行動を読んでいたルー・ルシアンは既に追撃を仕掛けていた。

 ルー・ルシアンは右手を銃の形にして空中に飛び上がった黒宮アキトに光の弾を発射する。向かってくる光の弾を黒宮アキトは腕や足で弾いていくが、光の弾は消滅せず、尚も空中を飛び交いながら黒宮アキトへ飛んでいく。

 黒宮アキトが空中で光の弾を対応している隙に、ルー・ルシアンは結界術の準備を終え、発動する。周囲の景色が暗闇に包まれたのを目にした黒宮アキトは、これ以上術を展開される前に仕留めようと、光の弾を蹴り飛ばしながらルー・ルシアンのもとへ急降下していく。


「五月雨、展望の戒、神薙……結界術、三位一体」


 ルー・ルシアンの術が完全に発動すると、地面には小石が敷き詰められ、全身を濡らす大雨が降り、周囲には大量の鳥居が現れる。

 術が発動してしまった事を理解しながらも、黒宮アキトは構わずルー・ルシアンへと急降下していき、落下の勢いを利用した蹴りを当てた。黒宮アキトの蹴りはルー・ルシアンの体に当たり、そのまま地面へと突き刺さるように倒れていった。

 確かな手応えを感じる瞬間、不思議な事が起こった。蹴ったのは黒宮アキトで、蹴られたのはルー・ルシアンの方。ダメージを負うのはルー・ルシアンが当然の事であった。

 しかし、実際にダメージを負ったのは黒宮アキトの方で、黒宮アキトは口から血を吐き出しながら吹き飛んでいった。全身に走る痛みに体を震わせながら、黒宮アキトは立ち上がろうとするも、増幅する痛みに立ち上がる気力が削がれてしまう。

 立ち上がる事に苦戦する黒宮アキトとは裏腹に、容易に立ち上がってみせたルー・ルシアンは新しいタバコに火を点ける。黒宮アキトが立ち上がる事に苦戦している様をルー・ルシアンはタバコを吸いながら眺め、今起きている事の説明を淡々とし始めた。


「私は盗むのが得意でね。物はおろか、他人の術だって盗めてしまうんだ。自身には回復の効果を与え、敵には痛みを増幅させる松田家の五月雨。敵の動きを予測し、術者への攻撃を跳ね返す園田家の展望の戒。祓ってきた怪異や邪奇醜を手駒として召喚する神薙家の神薙。それら三つの家の結界術を合わせた私独自の術、三位一体。これが発動してしまえば、神薙夏輝でも突破は不可能。つまり、君の負けだよ」

 

 痛みが増幅し、黒宮アキトの体から血が噴き出す。黒宮アキトの周囲の地面は、既に黒宮アキト自身の血で真っ赤に染まっていた。血の消耗や、痛みによって削れる気力で、黒宮アキトが死にかけているのは明らかであった。

 最早勝負にならないと悟ったルー・ルシアンは吸っていたタバコを足で揉み消し、三位一体の術を解こうとする。

 しかし、それを否定するように、黒宮アキトは立ち上がってみせた。全身は震え、尚も血を噴き出しながらも、黒宮アキトは立ち上がってみせたのだ。


「誰が負けだって……? オレはまだ、立ってるぞ……?」


「っ!?……ほんと、存在しちゃいけないよ……君みたいな怪物は……!」

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