支度
西連寺ソウジの転移術によって異界から戻ってきた黒宮アキト。戻ってその場所は、長い間人の出入りが無い荒れた地であった。木や雑草が意気揚々と生え、異界で見たミイラの像が黒宮アキト達の傍に置かれている。
「この像こそ、異界への道標。これを使い、お前を異界へと転移したんだ」
「異界への入り口、か」
黒宮アキトは像をしばらく眺めた後、おもむろに像に手を触れ、破壊した。
「これで異界に入る事も、出る事も出来なくなったな」
「……それで、これからどうするのだ? 黒宮家で何を得たのだ?」
「倒すべき相手の正体だよ。これからオレは、五賢人を殺しに行く」
「五賢人……奴らの居場所を知っているのか?」
「まだ知らん。まずは準備をしないとな。五賢人の居場所と、目的を達成する為の強力な武器を。相手はこの世界を牛耳っているご賢人、そして御三家だ。身一つでは、到底敵わない。反則級の武器の一つや二つ、持っていても文句は言われないだろう」
「アテはあるのか?」
「神薙家に行く。五賢人と最も関わっていたのは奴らだからな。だがまずは武器の調達だ。一つはアテがあるが……」
「武器なら、私に任せてくれ。西連寺家には裏の貯蔵庫がある。そこからいくつか下ろすとしよう」
西連寺ソウジは黒宮アキトの肩に触れ、貯蔵庫へと転移する。貯蔵庫へ転移してくると、そこは洞窟となっており、松明の火に導かれるように二人は先へ進んでいく。
奥へ進んでいくと、鉄製の巨大な門が待ち構えていた。黒宮アキトは門を開こうと力一杯押してみるが、まるで鉄の塊かのように動かない。押して駄目ならばと、黒宮アキトは助走をつける為に後ろへ下がっていくと、門の傍に立っていた西連寺ソウジが岩壁にある隠し扉を開いた。
微笑ましいといった表情で見てくる西連寺ソウジの視線に、黒宮アキトは頭を掻いて、出来るだけ西連寺ソウジの目を見ないように隠し扉の中へ入っていく。
中へ入ると、そこは広いガレージのような見た目をしており、壁に掛けられている銃器が白い照明に照らされていた。
「銃? こっちの世界に持ち込んできていいのか?」
「外の世界の文化は、この祓い士の世界では禁忌に指定されている……だが、それを決めたのは五賢人だ。我々がこれから相手にする敵だ。敵が決めたルールに従う馬鹿はいない」
「……あんたは、初めから五賢人を敵と見なしていたのか?」
「長く生きていれば、当たり前のように受け入れていた物事が間違いだと気付く。我々には五賢人によって用意された道がある。安心の為に道を進む者。危険を冒して道を踏み外す者。私は後者だ……アキト、君はどちらだ?」
「どちらでもない。オレにはオレの道がある」
「その道の先には何がある? 自由か?」
「いや、死だ。自由はオレ自身だ」
「そうか、そうか……では死へと進む自由よ。暗雲を晴らす武器を見定めようではないか」
そうして、西連寺ソウジは壁に掛けてある銃器を一つ一つ丁寧に黒宮アキトに説明をしていく。銃に触れた事が無かった黒宮アキトだったが、持ち前の直感とセンスで銃の扱い方と特徴を理解した。大人数を相手に戦える物、緊急時に瞬時に扱える小型の物。この二つに当てはまる物を見定め、選び抜いた二つの銃器をテーブルの上に置く。
「散弾銃と拳銃を選んだか。カスタムはどうする? 弾はどれくらい必要だ?」
「このままでいい。弾も最低限だ。あくまでこの二つは神薙家の地下へ行くまでの使い捨てだ」
「アテが一つあると言っていたな。それは何処に?」
「朝ヶ丘に置いてきた。だから一度、オレは朝ヶ丘に戻る。それまでに手入れをしておけ。途中で使い物にならなくなったら、困りものだからな」
「なら、これを持っていけ」
西連寺ソウジは破邪の指輪から取り出した宝玉の欠片を黒宮アキトに手渡した。
「本来ならば指輪が必要だが、それがあれば歪みを通っていける」
「助かる」
「朝ヶ丘に通じる歪みなら、私の領地の近くにある。お前がマコトと共に帰ってきた場所だ。憶えているな?」
「ああ……それからマコトについてだが、あんたから伝えておいてくれ。追いかけてくるな、と」
「聞かなければ?」
「子を鎮めるのは親の役目だろ? 頼んだぞ」
西連寺ソウジの返答を聞く前に、黒宮アキトは貯蔵庫から出ていった。洞窟を抜け出すと、そこは西連寺の領地から少し離れた場所にある森であった。朝ヶ丘に通じる歪みまでの距離は、ここから遠くはない。
歪みの場所へと向かいながら、黒宮アキトは右手首に掛けられた手錠に念じ、冬美を呼び出した。
「冬美、神薙家の位置はここからどの方角だ?」
『北に進んでいけば、渓谷に立つ鳥居がある。その鳥居を潜った先が、神薙の領域よ。でも気を付けて。鳥居を潜った先は、神薙家へと辿る道を惑わす幻影に包まれている』
「正しい道のりを知ってるか?」
『もう10年以上も幽閉されてるのよ? 私が知ってる道のりなんて、過去のものになってるはず。あなたの直感に従いなさい』
「要するに運頼みって訳か。まぁ、なんとかなるか」
『待ってるわよ、アキト……今度こそ、私に相手に来てね……』
朝ヶ丘に通じる歪みに到着すると、冬美は消えていった。黒宮アキトは西連寺ソウジから渡された宝玉の欠片を手に、歪みへと手を伸ばす。
現れたゲートに飛び込むと、そこは朝ヶ丘であった。道には車が通り、端の道で友人と話をしている子供達が笑いながら歩いていく。周囲に建っている家から漏れ出している生活音から、それぞれの日常が伺える。
まさに、ここは平和に包まれていた。明確な敵の存在がいない退屈な世界に戻ってきた黒宮アキトは深呼吸をした。
「……やっぱり、オレには似合わない世界だな。ここは退屈ばかりだ……」
自分には不釣り合いな平和な世界に苦笑を溢すと、この世界で拠点として過ごしていた家へと黒宮アキトは向かった。




