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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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黒宮アキト

 腹部に致命傷を負った黒宮アキト。自身の体温が失われていくのを確かに感じながらも、不思議と寒さは無く、檻の中から抜け出したかのような解放感に心地よさを覚えていた。

 黒宮アキトは思った。このまま時が流れていくのも悪くはない、と。そう思えたのは、今までの死線の中で見る事が出来なかった走馬灯を見る事が出来ていたらだ。外の世界で出会った友人、宮本達也と斎藤響と過ごした日々。騒がしくも楽しかった西連寺マコトとの共同生活。外の世界で過ごした半年間は、黒宮アキトの人生を彩るのに十分な時間であった。

 だからこそ、黒宮アキトは死が訪れるのを待っていた。過去に振り回されるより、今を生きて得た想いのまま死んでいきたいと。幸せな思い出が色褪せない内に、その思い出に浸っていたい。黒宮アキトも人間だった。

 

『アキト……』


 静寂の中で聞こえてきた声に、黒宮アキトは閉じていた目を開いた。黒宮アキトの目の前には、冬美が立っていた。無論、本物の冬美ではなく、二人の手首に掛けられた手錠の繋がりが見せる幻影である。


「……お前か……結局、何も出来やしなかった……恰好がつかねぇよ」


『……死んじゃうの?』


「ああ、死ぬさ」


『死なないでよ……まだ、私と再会出来ていない……!』


「そうだな……未練はあるさ。この祓い士の世界に起こってる異変や、お前とオレの関係……それから、アイツとの約束を果たせなかった事……」


 黒宮アキトが交わした西連寺マコトとの結婚の約束。初めは冬美と再会する為の手段の一つに過ぎなかった偽りの約束は、今では本当の約束になっていた。黒宮アキトは、西連寺マコトに恋をしている。

 しかし、恋を知らない黒宮アキトは、自身の胸に芽生えた想いが分からなかった。恋をしていながら、恋を自覚出来ていない。


「……なぁ、もういいだろ? 死ぬ時は独りきりがいいんだ。その方が、静かに死ねる」


『……私……この祓い士の世界で起きている異変の元凶を知ってる』 


「……ハハ、ハ……人が死ぬって時に、とんでもない事を打ち上げやがったな」


『知れば、あなたが私のもとへ来てくれないと分かってたから』


「……言えよ、全部。どうせ死ぬんだ、聞いた所でどうしようもできない」


 死にかけている黒宮アキトに、冬美は容赦なく語り出す。


『あなたは邪奇醜が何者かに操られていると言っていたわね? それは当たってる。邪奇醜を操っているのは、この祓い士の世界の管理者である五賢人。そして手引きをしているのは、神薙家・焔家・天真家の御三家』


「ハハ……マジかよ……」


『今から20年前。彼らは野望とも言うべき目的があった。彼らの目的は、第二の神薙夏輝を生む事。現状、御三家を除いた祓い士の中で、特筆した強さを持つ者はいない。原因は、数が多くなったから。怪異や邪奇醜の退治を一人でこなしていた時から時代は流れ、現在は集団で行うようになった。例え弱い敵だとしても、その体制を変えようとしない。いつしか祓い士達は修羅を忘れた』


「時代は変化するものだ……」


『そうね、そう思う。でも、彼らはそう思わないみたい。祓い士の未来を危惧した彼らは考えた。どうすれば再び祓い士の力が強くなるかを……策を講じている間に、とある家から一人の異端者が現れた。赤い瞳の祓い士、黒宮アキト……そう、あなたよ』


「オレ?……いや、待てよ。俺は16だ。お前が言ってるのは20年前の事だろ?」


『そうね、その事も説明しないと。アキト、あなたは既に一度死んでいるの。今から10年前のあの日、あなたは殺されたのよ』


「……」


 黒宮アキトは何も言えずにいた。今まで死にもの狂いで戦ってきた自分自身が、既に死んでいるという事実に。困惑する黒宮アキトに、冬美は続けて語る。


『あなたは20年前、黒宮家という所在不明の家の名を持って祓い士の世界に現れた。あなたは祓い士とも異形とも違う力で、各地で次々と怪異や邪奇醜を殺し回った。強く、そして謎に包まれたあなたに、彼らは強い興味を持った。あなたと接触を試みようと神薙家から一人の女が送り出された。それが私。私はあなたと接触し、神薙家と手を結ぶように説得を試みた……結果は最悪だった。自由に生きる事を望んでいたあなたは私との交渉を断り、挙句の果てに私を半殺しにした』


「酷い奴だな……」


『本当ね。初対面の女性にする事じゃないわ……でも、私はあなたに惹かれた。戦いを通じて、あなたから感じられた力と意思。何者にも縛られない自由を持っていたあなたに、私は恋をした。それから私は何度も会いに行った。その度に戦う事になって、その度に死にかけたけれど……14度目の時、遂に私達は戦わなくなった。友人のように語る事も、恋人のように肌を重ね合う事も無かったけれど、あなたの近くにいられた』


 黒宮アキトの近くにいられた当時の事を思い返し、冬美は自然と微笑みを浮かべた。冬美にとって、立場や使命を忘れる唯一の憩いの場所が、黒宮アキトであった。


『幸せだった。私は初めて、神薙家の祓い士ではなく、一人の女としていられた。ずっとあなたの近くにいたかった……でも、そんな幸せな時間は、長くは続かなかった。いつまで経っても交渉に応じようとしないあなたに対し、五賢人は強硬手段に出た。あなたを罪人に仕立て上げ、無理矢理にでも引っ張り出そうと行動し始めたの。祓い士にとって、五賢人の命令は絶対。御三家も例外ではない。私達祓い士は、たった一人の男を捕らえる為に、全勢力でぶつかった。あなたは強かったけれど、数千の祓い士を相手に一人ではあまりにも分が悪い。10年の年月が流れた末、遂にあなたは負けた。私と、神薙夏輝によって』


「……」


『任務は達成。後は五賢人のもとへ送り届けるだけ……そこで、思わぬアクシデントが起きた。神薙夏輝が、あなたにトドメを刺したの。どうして五賢人からの任務に背いたのかは分からない。理由を聞こうにも、あなたにトドメを刺して以降、神薙夏輝は姿を消している。いずれにせよ、第二の神薙夏輝を生むという企みは白紙になり、甚大な被害による負債を抱える結果となった。実力者がほとんど殺され、いよいよ祓い士の存亡が危ぶまれていた時、五賢人は禁忌を犯した。死者を現世へと呼び戻す禁忌に。その任務は神薙家が請け負った。神薙夏輝が消息不明となり、私が術を発動する役目を任された。結果は成功。見事、黒宮アキトは蘇った……ただの、人間として。蘇ったあなたは、純粋で無垢な子供だった。災難は続いた。盗人ルー・ルシアンが、屋敷からあなたを盗み出した。ただの人間になってしまったあなたを追う術も無く、責任を問われ、私は地下に幽閉される事になった。私は暗闇の中であなたを想い続けた。暗闇の中で孤独に蝕まれた私は次第に心が壊れていき、あなたを想う気持ちが呪いになってしまった』


「……この手錠は呪いか」


 二人は自身の手首に掛けられた黒い手錠に目を向けた。手錠に付いている切れた鎖は、まるで手を伸ばしているかのように、もう片方の手錠に繋がろうとしている。


『……最初は、姿を一目見るだけでいいと思っていた。でも、あなたの姿を見てしまった瞬間、抑えきれなくなった……! 私は自分の孤独を消し去ろうと、あなたを巻き込んだの……! あなたに私を救ってほしかった……!』


「……お前がこうなる事を五賢人は見抜いていたのか?」


『……そう、かも……私がアキトに対して特別な感情を抱いているのを知っていて、それを利用しようと……私は、利用されていた?』


「実際、オレはここに戻ってきた。そして力も取り戻しつつある」


『そんな……私は……私は……!』


「……まぁ、いいさ。過ぎた事を気にしても、もうどうしようも出来ない。大事なのは、これからどう動くかだ」


 黒宮アキトは立ち上がり、両手で顔を覆いながら泣いている冬美の頭に手を置いた。幻影故に実際の感触は感じられなかったが、黒宮アキトの気持ちは確かに冬美に届いた。


「もう死んでもいいと思っていたが……それはまた別の機会にしよう。今のままじゃ、死んでも死にきれねぇ……!!!」


 黒宮アキトは怒りを覚えていた。五賢人によって失われた命の数々、自分と冬美が五賢人によって利用されていた事に。

 激しく燃え滾るその怒りは、黒宮アキトに再び活力をもたらし、腹部に追っていた傷が完治した。


 



 橋の前で、未だに西連寺ソウジは立ち尽くしていた。自分自身が行った事が本当に正しかったのかと、何度も自分自身に問いかけ続けていた。

 すると、自分のもとへ一人の足音が近付いてきているのを耳にする。足音がする方へ顔を向けると、そこには自身の記憶とは違う黒宮アキトの姿があった。


「アキト……なのか?」


「ここにはもう用は無い。急がないと、奴らが復活する。指輪の無いオレじゃ、奴らを祓う事は出来ない。また奴らと戦うのも時間の無駄だ。早くこの異界から転移するぞ」


「あ、ああ……」


 黒宮家の屋敷で何が起こったのか、黒宮アキトの容姿や表情の変貌ぶりに驚きつつも、罪悪感を覚えていた西連寺ソウジは素直に従う事しか出来なかった。

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