死に際
ランとカクが合体し、ランカクとなった。変異したランカクの姿は、額に長い角が二本生えており、肌は青く染まり、握っていたフックが手の平に埋め込まれている。
「フフフ……アハハハ……!」
不敵な笑みを溢しながら、黒宮アキトへと近付いてくるランカク。ランカクの仲間であるラジンの変異化した時の強さを体験していた黒宮アキトは、まずはランカクの動きを観察しようと構えを解く。一定の距離を保ちながら、お互い相手が手を出してくるタイミングを見計らう。
いつまで経っても手を出してこない黒宮アキトにシビレを切らしたランカクが、体を素早く振り被って前へ飛び出してきた。低姿勢から襲い掛かってくるランカクが初手に放つ攻撃を直感で予知した黒宮アキトは、間合いに入ってくるランカクの顔にパンチを放つ。
黒宮アキトが放ったパンチが当たる瞬間、ランカクが分裂し、ランとカクになった。ランカクに放っていた黒宮アキトのパンチは空振り、隙だらけの黒宮アキトにランとカクは手の平に埋め込まれているフックを刺し込もうとする。
ランカクが分裂出来る事を読んでいた黒宮アキトは、地面に手をつき、両サイドにいるランとカクに蹴りを放つ。ランとカクをのけぞらせると、黒宮アキトは体を起こしながら振り放った裏拳でカクを吹っ飛ばす。そして未だ間合いに立っているランにパンチの連撃を浴びせ、フックが埋め込まれている方の腕を取って肘の関節を外すと、その場に投げ飛ばし、うなじに足を振り下ろして潰す。
「アハハハハハ!!!」
黒宮アキトはランを無力化させると、狂った笑い声を上げながら迫ってくるカクに視線を移す。カクは左手を前に突き出し、チェーン代わりの束ねられた血管でフックを黒宮アキトへ伸ばす。
伸びてきたフックを掴んだ黒宮アキトは、フックに付いている血管を腕に巻きつけ、自分の方へ向かって来るカクを引っ張った。引っ張られたカクの体は左手を突き出した状態で宙を浮かんでいき、黒宮アキトは上から振り下ろした肘打ちと下から振り上げた膝蹴りでカクの腹部を挟み込んだ。声の代わりに吐血したカクが二度咳込むと、そのまま体の力が抜けていき、動かなくなった。
カクが死んだ事を確信した黒宮アキトは、カクを地面に落とし、右腕に巻き付けていた血管を解くと、最後の一人であるサカキを殺そうと寺へと戻っていく。
寺に戻ると、刀を突きたてながらアグラをかいたサカキがいた。サカキは寺に戻って来た満身創痍の黒宮アキトの姿を見ると、安堵の溜め息を吐いた。
「随分、苦戦したようだな」
「デブに関してはな。双子の方はそうでもないさ」
「まぁ、ランとカクは元々真剣勝負には向いていない。あいつらは闇討ち専門だからな」
「残るはお前だけだ」
「いいや、お前もいる。俺が死んでも、お前が生きている限り、鬼の五人衆は終わらない。黒宮アキトが生きている限り、俺達は不滅だ」
「あんたらとの縁はここまでだ」
「例え死に分かれても縁を切る事は出来ない……アキト、お前が俺達に言ってくれた言葉だ」
黒宮アキトは飛び出した。それと同じタイミングで、サカキはしゃがみ込んだ低姿勢で抜刀の構えを取る。お互いの距離が縮まっていき、自身の間合いに入った瞬間、サカキは抜刀した。鞘から刀が抜かれる寸前で黒宮アキトはスライディングし、抜刀された刀の一振りを間一髪で避け、スライディングで近付いた勢いのままサカキを押し倒してマウントを取る。
サカキにマウントを取った黒宮アキトは顔面にパンチを振り下ろす。サカキは左腕で上手くガードし、 次の攻撃が来る前に刀の頭で黒宮アキトのコメカミを叩き、怯んだ隙にマウントの体勢から逃れる。サカキはすぐに体勢を整え、黒宮アキトに斬りかかると、黒宮アキトは傍にあるサカキの刀の鞘を手に取って、サカキの刀の一振りを防ぐ。
「ハ、ハハハ!!! これだ……! 生と死が行き交うこの緊張感が、生を実感させる! 俺は今、長い沈黙から蘇った!!!」
「うるせぇよ……!」
黒宮アキトはサカキの腹を蹴り、防いでいた刀を振り払って、サカキの喉元に鞘で突きを放つ。サカキは左手を喉の前に置いて直接鞘が突き刺さるのを防ぐが、それでも黒宮アキトが放った突きの威力は強力であった。
一度距離を取ろうと思ったサカキは刀を振って黒宮アキトを後ろに下がらせると、一撃で決める戦法を変え、手数で攻め込む戦法に変えた。
先程よりも素早く、そしてあらゆる角度や体勢から迫ってくる刃の数々を避け続けていく黒宮アキト。遂に壁際まで追い込まれると、トドメの一撃と言わんばかりにサカキは突きの体勢を取った。
攻め込むチャンスと見た黒宮アキトは、突きが放たれた瞬間にしゃがみ込み、下からサカキの喉元に鞘を突き上げた。サカキは両手を使って刀を握っていた為、今度は防ぐ手段が無く、黒宮アキトが放った突きによって喉元を潰された。
サカキはおぼつかない足取りで後ろへ下がっていき、後ろへ倒れそうになると、刀を床に突き刺して堪えた。喉を潰され、呼吸が出来なくなって意識が薄れていくサカキが見たものは、トドメを刺そうとこちらへ向かって来る黒宮アキトの姿であった。
(ここで、終わり……いや、まだ終わらない……終わりたくない!)
既に限界を迎えている体に無理を強いり、サカキは変異化する。万全の状態でなかった為、右腕だけの変異化であったが、十分であった。意識が薄れて正常に判断出来ない思考と視界を捨て、己の経験力を信じ、刀を振った。
その直後、喉に冷たい感触を覚え、その感触がうなじから外へと流れていくのを感じた。死の間際、サカキは自分が振った刀の一撃が当たったのかを確認しようと目を開けようとするが、それは叶わなかった。
「……」
「……やられた」
黒宮アキトの腹部は斬られていた。その場に座り込み、上半身だけを弓のように起こして斬られた傷が開かないようにする。それによって、斬られた腹部の傷はそれ以上開く事は無かった。
しかし、傷を塞ぐ事は出来ていない。傷から漏れ出してくる大量の血が床に零れ、傷口を抑えていた手の平に血と鉄臭さが染み込んでいく。
「誰もいない……誰にも知られない……死ぬには、丁度いいかもな」
再び静寂に包まれた寺の中で、黒宮アキトは目を閉じ、静かにその時を待った。




