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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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故郷

 老若男女の雄叫びに高まる高揚感。潰す音、裂く音、砕く音。何も感じられなくなった虚無感。暗闇の中で感じた懐かしさは、空に打ち上げられた花火のように遠ざかっていき、やがて黒宮アキトは目を覚ました。

 

「起きたか? 忘れていたよ、転移術が苦手だった事を。初めてやってみせた時も、気を失っていたな」


「……ここは?」


「異界だ。この祓い士の世界の裏側に存在する、もう一つの世界の姿だ」


 空に浮かぶ赤い月の光によって照らされた荒れ地。乾いた地面には亀裂が走っており、今にも陥没しそうであった。何も無く、何も起きずに、ただただ滅んでいく。この世界の寿命はあと僅かであった。

 黒宮アキトが異界の様子を見渡していると、西連寺ソウジが黒宮アキトの体を縛っている光の線を消失させる。  


「ここからは歩きだ。私の力では、ここまでしか転移する事が出来なかった」


「……いいのか? 体を自由にさせて」


「逃げるのか? それとも私を殺すか? いずれにせよ、帰り道をお前は知らない。この世界と共に朽ち果てるというなら、好きにしろ」


「……いや、ついていく。あんたが僕に見せる何かを目にするまで、従う。暴れるのは、その後だ」


「そうしてくれると助かる」


 黒宮アキトは先を行く西連寺ソウジから距離を置いてついていく。歩いていく先々で崩れていく異界の脆さに、何故か黒宮アキトは悲しさを覚えていた。

 歩き続けていくと、陥没した地面によって細い橋になった地面に辿り着いた。西連寺ソウジは冷や汗をかきながら橋を慎重に歩いていき、その後ろで黒宮アキトは平然とした表情で橋を渡っていた。

 ふと、黒宮アキトは陥没した地面の穴の先に何があるのかが気になり、顔を下に向けた。暗闇に包まれた穴の底から、薄っすらと何かが蠢いている。


「この異界の底には、何がある?」


「ハハ……よくこの状況で平然としていられるな」


「何かが動いている気がする。邪奇醜か?」


「おそらくな。悪いが、私はここをよく知らない。質問されても、正しい知識を与える事は出来ないんだよ」


「じゃあ何なら知ってんだ?」


「君の生まれた家の場所。そこへ行くまでの道のり……あとは何も知らない」


「黒宮家、か。そこには、僕と同じ黒宮家の生まれの生き残りがいるのか?」


「言っただろ? 何も知らないと」


「じゃあ誰から僕を育てろと言われたんだ?」


 無事に二人は橋を渡り終え、西連寺ソウジは額の冷や汗を袖で拭うと、破邪の指輪から一枚の写真を撮り出した。その写真には、学生の頃の西連寺ソウジと西連寺リン、そして見知らぬ女が写されていた。


「こいつは?」


「ルー・ルシアン。【稀代の盗人】という肩書を持つ罪人だ。だが、私の数少ない友人の一人だ。そんな彼女が、私のもとを訪ねてきた。今にも息絶えそうな、ボロボロの状態で……彼女は私に、一人の幼児を預け、時が来たらこの子を元いた場所へ連れていけと。その時に術で無理矢理道のりを憶えさせられた」


「そいつは、今どこに?」


「生きてはいる……だが、何処にいるかまでは」


「あんたが僕を育てたのは、友人との約束からか」


「それもある。だが、単純に君を我が子のように思っていたのもある。信じられないと思うがね……」


「友人との約束か……単なる約束よりも、縛られるものだな……ッ!?」


 その時、黒宮アキトの失われた過去の断片が蘇る。【幾千もの鳥居がある神聖な地】【愛おしそうに黒宮アキトを見つめる冬美の姿】【黒宮アキトを抱えて駆けるルー・ルシアン】【何かを見て青ざめるルー・ルシアン】【血塗れになりながらも黒宮アキトに微笑みかけ、ルー・ルシアンは何かを告げようと口を開く】それ以上、何かを思い出す事は無かった。

 今思い出された自身の過去に、黒宮アキトは困惑するしかなかった。何一つとして、理解出来るものが無かったからだ。何処にいて、何の為に連れ出され、ルー・ルシアンが何を告げようとしたのか。一つだけ理解したのは、自分の記憶が以前よりも増して戻りつつある事。その度に、今の自分が嘘で固められた存在だと錯覚するようになっていた。

 

「大丈夫か、アキト!?」


「……さっさと案内してくれ。じゃないと、僕が僕じゃなくなる……!」


「……分かった。ここからは走ろう。幸い、あとは真っ直ぐ進むだけだ。距離も長くはない」


「そうか。なら、あんたは帰ってろ……」


「帰れ? 確かに真っ直ぐ進むだけで着くが……」


「感じないのか?」


「何を?」


「ウジャウジャいるぞ」


 記憶が蘇った所為か、黒宮アキトはこの異界に住む者達の気配を察知出来るようになっていた。橋を渡っていた時に、穴の底で見た蠢く何か。それはおぞましい数の邪奇醜であった。

 そして、それよりも強い気配を持つ存在が、二人が立つ場所から真っ直ぐ進んだ先に複数存在している。


「……ここは僕が生まれ育った場所、なんだろ? なら、あんたは部外者だ。ここの住人に殺されても文句は言えない。ここからはオレ独りで行く」


「アキト……」


「あんたは、あんたがいるべき場所に戻れ。平気な顔で騙してきたクソ野郎でも、大切な人の一人や二人はいるだろ。だから……帰ってやれ」 


 それだけ言うと、黒宮アキトは真っ直ぐ突き進んでいった。西連寺ソウジは追いかけようとするものの、足が動かなかった。

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