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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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幻惑の祓い士

 西連寺マコトは自身の胸に手を当て、光の線を体内に侵入させて、ヒビが入った肋骨や損傷した体内の部位に応急処置を施す。これにより、骨や臓器はこれ以上の損傷が起きなくなったが、痛みだけはどうしようも出来なかった。

 黒宮アキトにも施した光の線による応急処置は、あくまで補強の役割であり、決して通常通りの動きが出来る訳ではない。怪我人が包帯を巻いただけで治るはずも無い。本来の動かし方をするには、時間が必要だ。

 それでも、西連寺マコトはやらねばならなかった。最愛の人である黒宮アキトを連れ去られた今、転移した場所を知る者は、前方に立つ自身の母、西連寺リンしかいない。西連寺マコトが確信していた理由は、西連寺リンと西連寺ソウジが夫婦であるからだ。夫である西連寺ソウジが計画・実行し、妻である西連寺リンが補佐をする。西連寺マコトは夫婦の役割分担を幼い頃から聞かされ、成長した自身も黒宮アキトの補佐に努めた。

 西連寺マコトは奇術の一種である結界術を四方に転がっている死体を媒体として展開する。人の死体を使う卑劣極まりない術であるが、祓い士の世界では人がよく死ぬ。その為、外の世界との倫理観がズレている。


「四方に結界を張りました。これで転移も足で逃げる事も出来ません」


 西連寺マコトは【逃げ場を無くした】事を強調し、西連寺リンを説得する。黒宮アキトを連れ去られた怒りもあるが、それでも西連寺マコトにとっては代えのきかない母親。

 しかし、西連寺リンは肉眼では見る事が出来ない透明な線で、地面に崩れ落ちていた顔の無い人形をユラユラと操り始める。

 それは、決して引かないという意思表示。西連寺リンは戦いを選んだ。その姿を目にし、西連寺マコトも構えを取った。初手、どのように動こうか考えていると、隣に立っていた千蔵マヒルが先手を取った。


「先手必勝!」


(あの人は馬鹿なの!? 相手は人形使いだけでなく、幻術も扱えるのよ!?)


 西連寺マコトが危惧していた通りの事が起きる。西連寺リンは幻術を発動し、人形に千蔵マヒルのトラウマを蘇らせる人物である白髪の赤い瞳の男に容姿を変化させる。


「二度も同じ手が通用するか!」


 既に体験していた千蔵マヒルは、今目に見えているトラウマの人物が幻だと理解し、豪快なパンチを放った。

 しかし、見えている幻の体と、実際の人形の体は全く異なり、千蔵マヒルが放ったパンチは空振った。大きな隙が出来た千蔵マヒルに、西連寺リンは人形を操り、人間では決して真似できない動きで千蔵マヒルに攻めていく。鋭く俊敏な人形の連撃はどれも的確に弱点をついていき、西連寺リンの手腕の高さが表れていた。 

 だが、千蔵マヒルもやられっぱなしではなかった。次第に痛みに慣れていき、目に見えている動きと実際の動きの差異を感覚的に把握し、これまでのような豪快な一撃ではなく、素早いジャブを放った。放たれたジャブは見事に人形の顔面に直撃し、これにより更に実際の体の大きさを把握する事が出来た。

 攻守は入れ替わり、今度は千蔵マヒルが攻め始める。千蔵マヒルの戦闘の才能に、西連寺リンは心の中で素直に称賛し、人形を別の姿へと変化させた。

 次に変化したのは、先程の人型の幻ではなく、四足歩行の巨大な獣の姿をした幻。その変化がもたらす効果は、様子をうかがっている西連寺マコトよりも、対面している千蔵マヒルが一番理解していた。

 

(デカい、それに四足歩行……実体の位置が、分からない……!)


 ようやく実体を正確に把握出来た所に、大きさも体の作りも違う幻によってリセットされてしまう。千蔵マヒルは直感でパンチを放つが空振り、逆に相手が放ってきた攻撃に対し防御するも、実際の大きさが分からない為、防御が機能しない。攻める事も守る事も出来ず、殴られっぱなしの状態が続くと、次第に千蔵マヒルの意識が薄れていく。


(まずい……やせ我慢が、効かなくなってきた……)


 コメカミに鋭い一撃を喰らってしまった千蔵マヒルは頭が真っ白になり、棒立ちの状態になってしまった。トドメの一撃を放とうとする人形。千蔵マヒルは一か八か、意識が薄い中、体勢を沈めて攻撃を避けようとする。だが、実体が放った攻撃の軌道は千蔵マヒルが避けた位置へ放たれていた。

 すると、様子をうかがっていた西連寺マコトが千蔵マヒルの前に駆けつけ、人形の攻撃を防いだ。千蔵マヒルにトドメが刺される事を阻止した西連寺マコトは、反撃に出るのではなく、千蔵マヒルの体に光の線を巻き、千蔵マヒルを引きずりながら後方へ下がっていった。


「大丈夫ですか?」


「ぅ……ぁ、ぁぁ……背中が、焼けてる……」


「命を救ってあげたんです。文句は無しですよ」


「……ああ、分かってるよ……にしても、思ったより強いな」


「人形だからこそ出来る動きと、その動きをするように操る母の手腕の高さ。おまけに幻術によって実体の位置を誤魔化し、こちらの攻撃を避ける……攻守共に隙がありません」


「流石に策の一つでも考えないとな。良い考えはあるかい、小娘」


「あるには、あります」


「おぉ!」


「あなたを囮にして、その隙に術者本人である母を無力化する」


「おぉ……んん?」 


「それじゃあ、頼みました!」


 千蔵マヒルの返事も聞かずに、西連寺マコトは千蔵マヒルを再び前線へと投げ飛ばした。投げ飛ばされた先で再び人形に攻められるが、千蔵マヒルは身を丸めて防御に集中し、人形の連撃を必死に耐える。

 その隙に、西連寺マコトは人形を操る西連寺リンのもとへ行き、戦闘の構えを取った。


「兄様の行方を教えてもらいますよ、母様」


「それでこそ私の娘よ」


 西連寺リンは人形を操りつつ、西連寺マコトの相手をする。技量も経験も上の母親に、西連寺マコトは黒宮アキトに対する愛でその差を埋めようと攻めていくのであった。

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