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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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思惑

 不意をつかれて拘束されてしまった黒宮アキト。そんな彼を拘束したのは西連寺家の当主、西連寺ソウジであった。

 西連寺ソウジは拘束された状態で自分達を睨みつける黒宮アキトの傍に近付き、頭を撫でようと手を近付ける。その手に黒宮アキトは噛りつき、人差し指と中指を噛み千切った。失われた二本の指と、そこから感じる痛みに表情を歪めた西連寺ソウジだが、黒宮アキトに対して覚えた感情は、怒りではなく喜びであった。


「まったく、困った子だな。頭を撫でようとしただけで指を噛み千切るだなんて」


「ペッ! ふざけるな!!! 何故僕を拘束する!?」


「君の力を警戒しているからだよ。君の記憶の更に奥にある記憶から蘇る力に」


「なんだと?」


「全て上手くいった。これで君を迎え入れられる」


「……まさか、千蔵家が攻めてくるのを見越していたのか?」


「君が千蔵家へ出向く事もね。君の優しさと行動力は知っていたからね」


 そう言うと、西連寺ソウジは千蔵マヒルの首に巻き付けていた光の線を更に絞めた。首に喰い込むまで絞められた千蔵マヒルの目から涙が出て、足がジタバタと暴れる。


「やめろ! 今のあいつは千蔵家の当主だぞ!? 千蔵家を滅ぼす気か!?」


「滅ぼすのではなく、千蔵家が勝手に滅ぶのだよ。事実、彼ら千蔵家はここへ攻め込み、返り討ちにされたのだから」

   

「どっちでもいい! 今は他の家と手を組んで邪奇醜に対処すべきだろ! 例え敵対している家だからって、今は協力すべきだ!」


「その考えが千蔵家には無いんだよ」


「あんたが当主らしく話をすればいいだけだ! 何かしら要求されたら、くれてやればいい! あんたには西連寺家の領地を守る義務がある!」


「そうだ。アキト、君の言う通りだ……だが、守るべき領地は火の海。もはやここには、守るべき者など存在しない」


 西連寺ソウジは共感しつつも、それが叶わない事を冷静に語り、怒りで興奮している黒宮アキトをなだめようとする。 

 しかし、黒宮アキトの怒りは収まらなかった。その理由は、西連寺ソウジが言っている事が全て結果論であるからだ。自身が言い放った質問に、西連寺ソウジは全て結果からの回答を返した。

 そうして黒宮アキトは気付く。西連寺ソウジ、そして西連寺リンは、今この状況を作り出す為に動いていた事に。重傷を負った西連寺家の祓い士達の治療をしないのも、千蔵家に自分達の家が弱っている事を見せる為。見かねた黒宮アキトが千蔵家へ赴く事も、それで西連寺家の現状が千蔵家に知られるのも。その後、千蔵家が攻めてくる事も。

 全ては、西連寺ソウジの思惑であった。そしてその思惑通りの事が流れ、現状に至る。


「千蔵家の当主とマコトが戦いだした時、てっきり我々はマコトが勝つと思っていた。しかし流石は千蔵家。マコトの実戦経験が浅いのもあるが、体術での戦闘には滅法強いな」


「ですが、問題ないと判断出来ました。だって彼女、常に自分自身を鼓舞していたのですから。そうしなければ、強くあれないのでしょう。そこに私はつけこみました。私が操る人形、そして幻術によって」


「そして、君が駆けつけてきた。全て我々の思惑通りに事は進んだという訳だ」


「……何故、こんな事を……何が目的だ!」


 隣り合わせに立つ西連寺夫妻に、黒宮アキトは目的を問う。黒宮アキトは、西連寺ソウジが語った話の中で、結局何がしたかったのかが分からなかった。千蔵家を滅ぼす事が目的だとしたら、犠牲を出し過ぎている。黒宮アキトの身柄が目的だとすれば、わざわざここまで大事にする必要も無い。

 すると、西連寺ソウジは再び黒宮アキトに近付き、指を噛み千切られた方の手で黒宮アキトの頭を撫でながら言った。   


「君を迎え入れる為だ。君の事を心待ちにしている方へお連れする為」


「僕を待っている? なら、最初から連れてきゃ―――」


「マコトが許さない。鋭い読みを持つあの子は、君の身を守ろうと、親である我々にも牙を向く。外の世界に行く事を許したのは、あの子が持つ読みを鈍らせる為だ。君と会う時間が長ければ長い程、あの子は乙女になる」


「……いつからだ……いつから、計画していた……?」


「君を西連寺家へ迎え入れた時からだ」


 西連寺ソウジの言葉に、黒宮アキトは胸に痛みを覚えた。記憶も、居場所も無い黒宮アキトにとって、迎え入れてくれた西連寺ソウジは恩人であった。居場所の無い自分に祓い士という居場所を与え、血の繋がりも無いのに愛情を与えてもらった。黒宮アキトにとって西連寺家は、自分が生まれた家でもあった。

 それら全てが、初めから仕組まれた事。黒宮アキトに祓い士という居場所を与えたのも、孤立する黒宮アキトに優しく接していたのも、全てはこの時を迎え入れる為であった。

 

「さぁ、アキト。あの方の所へ行こう……いや、帰ろうと言った方が正しいかな?」


「……帰る?」


「君が元々いた家だよ。君の記憶が失われる前にいた【黒宮家】へ」


「行かせない!!!」


 意識を失っていた西連寺マコトだが、黒宮アキトの危機を察知し、暗闇の底から意識を引き上げた。目を覚ました西連寺マコトは、西連寺ソウジが黒宮アキトと共に転移しようとするのを阻止する為に、光の線を伸ばす。

 だが、そこへ西連寺リンが割って入り、操っていた人形を盾にして光の線を妨害する。


「私はここまで。後の事は任せました」


「ありがとう、リン。役目を終えたら、君のもとへ行くよ」


 西連寺リンが西連寺マコトの相手をしている間に、西連寺ソウジは黒宮アキトと共に転移してしまった。


「兄様……!?」


「心配いらないわ、マコト。アキトは元の居場所へ帰るだけよ。何もかも、元に戻るだけ。だから、大人しくしていなさい」


 西連寺リンは操っていた人形を西連寺マコトへ突撃させ、西連寺マコトを閉じ込めようと人形の体を開いた。


「させるかよぉ!!!」


 人形に閉じ込められる寸前、術者がいなくなった事で拘束が解かれた千蔵マヒルが、人形を蹴り飛ばした。


「……何故、助けたのですか?」


「助けたんじゃねぇ! いいように転がされてムカついているだけだ!」


「……私も、ムカついています!」


 並び立った西連寺マコトと千蔵マヒル。幻術と人形を操る祓い士西連寺リンを倒す為に、二人は手を組んだ。千蔵マヒルは復讐の為。西連寺マコトは黒宮アキトが転移した場所を聞き出す為。戦う理由は違えど、戦う意思は共に同じであった。 

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