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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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トラウマ

 突如として現れた赤い瞳をした白髪の男。その男は瞬く間に千蔵マヒルの仲間達を殺し、笑い声で溢れていたその場を静まり返らせた。唯一生き残った千蔵マヒルであったが、男の姿に忘れていた恐怖を思い出し、体を縛られていた。

 すると、男は西連寺マコトの傍から離れ、硬直している千蔵マヒルの方へとゆっくりと歩いていく。一歩一歩、確かに縮まっていく男との距離。千蔵マヒルが失っていた過去の記憶が、まるでパズルのピースをはめていくように思い出されていく。


(あの瞳……赤い、瞳……皆、死んだ……そうだ、そうだった……! あの時、訓練時代の時も、アタシを除いた皆が死んだ……! 赤い瞳の白髪の男……アイツか? アイツなのか!?)


 それは千蔵マヒルが持つ唯一のトラウマであった。千蔵マヒルがまだ10代前半の頃に、恐ろしい体験に遭っていた。

 その日の訓練内容は簡単な内容であった。体術の訓練を終えた後、昼間から夜まで森の中で生き残る事。生き残ると言っても、その森には怪異や邪奇醜といった危険な存在はおらず、ただ森の中で過ごしていればいいという楽な訓練である。千蔵マヒルは監督役の祓い士の目につかない場所を探し、そこで夜まで過ごそうと眠りについた。

 しばらく眠り続けていると、夢の中まで響いてきた叫び声に千蔵マヒルは目を覚ました。子供時代から勇敢であった千蔵マヒルは騒ぎの原因を調べようと、騒ぎが起きたおおよその場所へと駆けていく。木の裏に隠れ、顔を覗かせて見た光景に、千蔵マヒルの鋭い眼光は大きく見開かれた。 

 辺りは血に塗れ、地面には誰が誰なのか分からなくなってしまった肉の塊が転がっており、その中心に男が立っていた。男の髪は白く、しかし老人と言うにはあまりにも若く、頬や服が裂けている部分には傷があった。 

  しばらく動けずにいると、白髪の男は千蔵マヒルが隠れている木に視線を向ける。千蔵マヒルはすぐに木の裏に隠れるが、白髪の男と一瞬だけ目が合っていた。白髪の男の瞳は、全身を凍り付かせるような赤い瞳をしていた。

 ゆっくりと近付いてくる白髪の男の足音を耳にしながら、千蔵マヒルは木の裏で静かに涙を流しながら怯えていた。逃げ出す事も出来ずにいると、森が蠢き出した。それに関係しているのか、白髪の男の足が止まる。

 千蔵マヒルは何が起きたのかを確認しようと、もう一度顔を覗かせた。白髪の男は既に千蔵マヒルの方へ興味を抱いておらず、森の奥に視線を集中して戦闘の構えを取っていた。

 すると、森の奥から二人の祓い士が突風の如く現れ、白髪の男と戦い始めた。現れた二人の祓い士が着ていた羽織を見ると【神薙家】の家紋があった。白髪の男と神薙家の祓い士は凄まじい戦いを一瞬だけ繰り広げると、白髪の男が森の奥へと逃げ出し、神薙家の祓い士は白髪の男を追っていく。

 その後、生還した千蔵マヒルは今回の事を報告した。犠牲者は、訓練に参加していた祓い士12名、監督役である祓い士3名。

 だが、あの場に現れた白髪の男と神薙家の祓い士については無かった事にされ、突然現れた邪奇醜がやった事になった。唯一の生存者であり、唯一その場を見ていた千蔵マヒルは、その時の記憶を消されてしまう。


 だが今、その時の記憶が蘇った。そして記憶を取り戻した今、自分の前に立っているのが、記憶にある白髪の男であると千蔵マヒルは確信を持った。


「お、お前……あの時の……!!!」


 千蔵マヒルの体に流れていた恐怖が怒りに移り変わり、あの時の屈辱を晴らそうと動き出そうとする。しかし、トラウマがそれを許さなかった。どれだけ怒りで奮い立たせても、あの時に感じた恐怖、あの時に目にした光景、あの時に出来なかった後悔が体を縛り付ける。

 自分の体を動かそうと必死になっていると、千蔵マヒルのすぐ目の前には白髪の男が立っていた。白髪の男の赤い瞳を目にし、炎の如く燃え上がらせた怒りは一瞬で消え、また恐怖で体を満たされてしまう。


「マヒル!!!」


 千蔵家から駆けてきた黒宮アキトが現れ、千蔵マヒルの前に立っている白髪の男を蹴り飛ばした。


「大丈夫か!?」


「……アキト? き、気を付けろ! あの男は……アタシの……仲間を……!」


「男?」


 黒宮アキトは困惑した。黒宮アキトが蹴り飛ばした相手は男ではなく、更には人間でもない。木製の人形だ。黒宮アキトが人形をよく見ると、人形から透明な線が上に伸びているのが見えた。


「透明な線が……奇術か!?」

 

 しかし、気付いた時には遅かった。どこからともなく伸びてきた光の線が黒宮アキトの体に巻き付き、グルグル巻きに拘束された黒宮アキトはその場に倒れ込んでしまう。黒宮アキトに駆け寄ろうとした千蔵マヒルにも光の線が伸び、首に線が巻き付いて建物の壁に引き寄せられていった。

 黒宮アキトが体に巻き付いた線を解こうともがいていると、そこへ二人の人物が近付いてくる。視線を上げて顔を見ると、その二人は、西連寺マコトの両親である西連寺ソウジと西連寺リンであった。

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