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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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千蔵家の出迎え方

 門を通り抜け、黒宮アキトは千蔵家の屋敷内に足を踏み入れた。石で敷き詰められた庭に囲まれ、中央に竹のように縦に伸びた屋敷が建っている。

 黒宮アキトは屋敷の最上階、5階の部分に目を向けた後、肩を貸している祓い士の傷を見た。傷は思っていたよりも深く、絶え間なく血が流れ続けている。このままでは失血死、あるいは傷を負っている箇所の壊死。一刻も早く傷を診てもらう必要があった。


「あと少しの辛抱だ。武闘派の千蔵家と言っても、傷を診てやれる奴の一人や二人はいるだろ」   


 黒宮アキトが屋敷に近付いていくと、屋敷の二階の窓から祓い士達が飛び降りてきて、黒宮アキトの周囲を取り囲んだ。全員、刃を露わにした刀を黒宮アキトへ向けている。


「随分なお出迎えだ。だが必要なのは戦闘員じゃなく、医者だ。お前達の出番は無い」


「相変わらず口が回る男だな!」


 屋敷の出入り口から、一人の女が現れた。その女は千蔵家の羽織を纏っており、その鋭い視線で黒宮アキトを睨んでいた。

 

「マヒルか……何故お前が、千蔵家の羽織を?」


「決まっているだろう。アタシが千蔵家の現当主だからだ!」


「当主? 千蔵家の正当な生まれではないお前が?」


「そういう貴様は何故この世界に戻ってきた? 何故千蔵家に足を踏み入れた!?」


「千蔵家の若頭。千蔵タクトと話をしに来た。ついでだが、お前の仲間も傷が深い。医者に診てもらう必要がある」


「フッ、腑抜けが……」


 すると、黒宮アキトに肩を貸されていた祓い士が突然黒宮アキトに組みかかり、拘束しようとしてくる。黒宮アキトは冷静に祓い士を返り討ちにし、逆に祓い士を絞め上げた。


「僕はもう油断していない」


「なるほど。外の世界で腑抜けになった訳ではなさそうね」


「一体何が目的だ? こいつが死んでもいいのか?」


「千蔵家に弱者はいらない。外敵に救われ、隙もつけないような弱い者など、死んだも同然だ」


 千蔵マヒルが右手を上げると、黒宮アキトを取り囲んでいた祓い士達が動き出す。黒宮アキトは絞め上げていた祓い士を投げ捨て、斬りかかってくる祓い士を体術で対処していく。殺さないように注意しながら。

 だが、千蔵家は武闘家。体術、得物を扱った戦いは他の家と比べて秀でている。手加減をして無力化させるのは、至難の業であった。


(くそっ! 流石は千蔵家だな! 思い通りにはいかないか……だが、本気を出せば殺してしまう。僕がここへ来たのは助力を求めに来た。一人でも殺してしまえば要求は通らず、恨みを買ってしまうだけ。しかし……僕は、こんなに強かったか?)


 先日の邪奇醜との戦い。千蔵家の前での邪奇醜との戦い。そして今、千蔵家の祓い士の集団との戦い。どれも一体多数であり、そのどれもが強敵であった。それにも関わらず、黒宮アキトは余裕を持っていた。必死ではあったが、死を予感した事は無かった。脅威と思っていたが、恐ろしさは感じられなくなっていた。

 黒宮アキトは自分が知らぬ間に、強くなっていた。精神、戦い、動き方。心技体が格段に上がっている。その急速な成長は、成長と言うよりも、抑えていたものが解放されたと言った方が正しかった。 

 いずれにせよ、今の黒宮アキトの力は【相手を殺さない】事が非常に困難であった。


(このままじゃ埒が明かない! こいつらが想像以上に頑丈な事を祈る!)


 黒宮アキトは考えを放棄し、襲い掛かってくる祓い士達を遠慮なく投げ飛ばしていく。地面に、城壁に、投げ飛ばされた祓い士の上に。

 最後の一人を投げ飛ばすと、黒宮アキトの背筋に悪寒が走った。背後へ振り返ると、刀を振り上げた千蔵マヒルが飛び掛かってきていた。刀が振り下ろされ、刃が自身の頭部を両断する寸前に、黒宮アキトは刃を真剣白刃取りで止めた。


「白刃取り。初めてにしては、上出来だろ?」


「っ!? 貴様ぁ!!!」


 黒宮アキトは受け止めていた刃を振り払い、千蔵マヒルを巴投げで後方へ投げ飛ばした。投げ飛ばされた千蔵マヒルは空中で体勢を整えて着地すると、黒宮アキトへと振り返り、刀を構える。


「何故だ! 何故本気を出さない!」


「なんだと?」


「貴様からは一切の殺気を感じられない! まるで子供に接するようにアタシらの相手をしている! 貴様はアタシ達千蔵家を舐めているのか!?」


「落ち着け! そもそも僕は戦う為に来たのではない!」


「ふざけるな! 裏切り者め!」


「そこまでだ!!!」


 千蔵マヒルの憎悪の炎が激しくなる中、屋敷から一人の少年が出てくる。その少年を目にした千蔵家の祓い士は皆、しゃがみ込んで頭を下げた。

 この少年こそ、千蔵タクト。千蔵家の正当な血筋であり、本来の跡取りである。屋敷前で広がっている惨状を目の当たりにした千蔵タクトは、深いため息を吐くと、医療術士を呼び出して怪我人を屋敷内に運ばせていく。


「マヒル。これは一体どういう事だ?」


「侵入者への対応を―――」


「彼は黒宮アキト。僕の命の恩人で、君の友人―――」


「お言葉ですが! この男とアタシには、何の関係もありません! ただの外敵です!」


「……はぁ。とにかく、屋敷の中へ入れ。彼の対応はこの僕、千蔵タクトが受け持つ」


「……承知しました」


 千蔵マヒルは刀を鞘に納めると、屋敷の中へと帰っていった。去っていく千蔵マヒルの背中からは、未だ怒りが収まっていない様子がうかがえた。


「まったく。マヒルさんには困ったものだ」


「言うようになったな、タクト」


「あなたから学んだんです。他人に舐められない言動、態度、目。お陰で童の僕の言う事でも、皆聞いてくれます」     


「ハハハ! 本当に見違えた。初めて会った時の、いつも泣きそうな表情で……いや、いつも泣いていたお前がな」


「うぅ。あまり恥ずかしい過去を掘り出さないでくださいよ……まぁ、ここで話すのもなんですから、中へ入ってください。世間話をしにきた……という訳ではないのでしょう?」


「ああ。話が早くて助かるよ」


 千蔵タクトは黒宮アキトを連れ、屋敷の最上階である当主の間へと案内していくのであった。 

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