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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第二部 祓い士編 第1章 邪奇醜
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単独行動

 日の出前。旅支度を終えた黒宮アキトは、西連寺家の領地から少し離れた場所にある千蔵家に助けを求める為に出向こうとしていた。

 現在の西連寺家の守りは手薄で、動ける祓い士は当主を除いて、黒宮アキトと西連寺マコトだけであった。今の状態で邪奇醜や他の家の祓い士が攻め入ってくれば、流石の二人でも守り切れない。

 この危機に、他の家の助けが必要であった。西連寺ソウジが言伝を出せば、西連寺家と親交のある他の家が助けを出してはくれる。だが、今の西連寺ソウジの様子から察するに、そんな事はしないと黒宮アキトは理解していた。

 だからこそ、黒宮アキト自身が動かなければいけない。それは誰に言われた訳でもなく、黒宮アキト自身が決めた事。黒宮アキトは少ない友人の中で、一番可能性のある千蔵家を選んだ。


「本当に、大丈夫なのですか? お一人で……」      


 見送りに来ていた西連寺マコトは、黒宮アキトの身を案じていた。噂では祓い士からの嫌われっぷりは相当なもので、その噂が真実だと先日目にしたばかりであった。更に千蔵家は西連寺家と因縁があり、いわば敵対関係の家である。

 そんな場所へ黒宮アキトだけを行かせる事に、西連寺マコトは気が気でなかった。

 

「千蔵家は他の家の力を借りずに名を上げてきた独力家です。兄様の申し出を受けてくれるとは思えませんが……」


「あそこの若頭には貸しがあるんだ。千蔵家の祓い士はともかく、若頭の方は話の分かる奴だよ」


「千蔵家は竹林に家を構えています。大体の者は家に辿り着く前に倒され、やっとの思いで家の前に辿り着いても、手強い祓い士が待ち構えていると聞いてます。今まで千蔵家に足を踏み入れたのは、たったの一人きり」


「それが僕だ。今度もそうなるさ」


 そう言って薄ら笑いを浮かべると、黒宮アキトは駆けていった。西連寺マコトは遠く離れていく黒宮アキトの姿が完全に見えなくなるまで見送り、姿が見えなくなった後も、しばらくその場から動けずにいた。


 西連寺家から半日の時間が経って、黒宮アキトは千蔵家の領地である竹林へと辿り着いた。竹林の中は薄っすらと霧が立ち込めており、どの方向へ進んでいるのかが分からなくなっている。黒宮アキトは直感に従って足を進め、途中で周囲の音に耳を傾けながら、千蔵家への道を正確に辿っていた。

 しばらく進んでいた時、異質な物が地面に転がっていた。それは虫の頭のような、しかし虫というには大きすぎる何か。更に進んでいくと、先程黒宮アキトが目にした虫の頭が付いていた体と思わしき、カマキリと人が混じった体が横たわっていた。

 

「斬られた断面から血がまだ流れている……死んでからそう経ってないな」


 すると、前方、霧の奥からカタカタという鳴き声が聞こえてきた。黒宮アキトが様子をうかがっていると、霧の奥から聞こえてきた鳴き声の主が姿を現す。

 その姿は、先程黒宮アキトが見てきたカマキリと人が混じった姿をした邪奇醜であった。邪奇醜は両腕に備わっている曲線状の刃を展開すると、バッタのような跳躍力で黒宮アキトへと襲い掛かる。黒宮アキトは体を後ろに反らし、邪奇醜の一振りを避けると、そのままの姿勢で邪奇醜の出方を見ていた。

 邪奇醜は体の向きを再び黒宮アキトへと向け、両腕の刃を曲線から直線に変え、にじり足で黒宮アキトへとジワジワと迫っていく。黒宮アキトは姿勢を正し、にじり足で迫ってくる邪奇醜とは違って、平然と歩み寄っていく。

 両者の距離が縮まっていき、黒宮アキトが邪奇醜の間合いにまで近付くと、邪奇醜は右腕の刃で突きを放った。その突きの速さは、人が達人となって繰り出せる速さと同格で、瞬きの間に刃が対象に届く程の速さ。

 その素早い突きよりも素早く黒宮アキトは動き、体勢を右にズラして邪奇醜の突きを避けると、右アッパーを邪奇醜の顎に振り上げた。右アッパーが当たった瞬間に、黒宮アキトは素早く左手で邪奇醜の胴体にパンチを放ち、流れる動作で振り下げた右手で邪奇醜の頭頂部にパンチを叩き込み、そのまま地面へ殴り潰した。


「……まだいるな」


 そう直感すると、右手についた邪奇醜の血を払いながら、黒宮アキトは早足で千蔵家へと向かっていく。黒宮アキトの直感は当たっており、千蔵家の門前では四体の邪奇醜と戦っている千蔵家の祓い士がいた。五体満足の邪奇醜とは違い、祓い士は邪奇醜に斬られた傷から血を流しており、それによって動きが鈍くなっている。

 しばらく様子を見ていると、祓い士が膝をつき、そこへ邪奇醜が腕の刃で斬りかかろうとしていた。そのタイミングで黒宮アキトは動き出し、助走をつけた飛び蹴りで邪奇醜の首を蹴り落とした。

 

「なっ!? き、貴様は誰だ!?」


「恩の押し売りさ。命の恩人と言った方が聞こえは良いか?」


「ふざけるな!!!」


「ごもっともだな……少し休んでろ。あとは僕がやる」


 黒宮アキトは祓い士が使っていた刀を拾い、三体の邪奇醜へと近付いていく。ふと刀の刃を見ると、刃こぼれが酷く、斬れない刀となっていた。攻めとして使い物にならないと判断した黒宮アキトは逆手持ちに変え、邪奇醜の刃を防ぐ為の道具にする。

 邪奇醜は黒宮アキトの周囲を囲み、中央に立たされた黒宮アキトは、邪奇醜が動き出すのをジッと待ち続けた。

 その様子を見ていた祓い士は、黒宮アキトが絶体絶命の死地に立たされていると見て、加勢に向かおうとする。


「動くな!!!」


 こっちに来ようとする祓い士に黒宮アキトが怒号を飛ばすと、邪奇醜が動き出した。三方向から同時の攻撃。一方向の攻撃を避けても別方向からの攻撃で斬られ、上に跳べば突かれる。攻撃を避ける手段は無い。

 絶体絶命の中、黒宮アキトが取った行動は信じられない荒業であった。三方向からの攻撃は同時に繰り出されたものではあったが、その速さは僅かに違う。その違いに瞬時に気付いた黒宮アキトは、速い順から刀で打ち返し、三体の内一体の邪奇醜の頭部に刀を突き刺した。残り二体になると、次の攻撃の動作に入られる前に黒宮アキトは動き、邪奇醜の足や腕の関節部分に蹴りを放ってバランスを崩すと、片方の邪奇醜の首を捻じ曲げた。

 最後に残された邪奇醜は立ち上がりざまに黒宮アキトへと斬りかかるが、それよりも素早く黒宮アキトは邪奇醜の顔面に肘打ちをめり込ませ、めり込んだ顔面を追撃の拳で突き破った。

 

「……ふぅ。あーあ、また服が血だらけになっちまったよ! 朝着替えたばっかだぞ?」


 服が汚れてうなだれる黒宮アキト。そんな黒宮アキトを祓い士は目を丸くして驚いていた。あれだけの荒業、三体の邪奇醜を瞬く間に殺してみせたというのに、黒宮アキトは服の汚れを気にしていた。

 

「……お、お前……何者だ……?」


 震えた声で祓い士が問うと、黒宮アキトは答えた。


「服貸してくれないか?」

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