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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第4章 別れの時は必然に
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砂時計

 最珍露の主であり、最珍露にいた人達が消失した原因でもある怪異、ロン・リーフェン。そんなロン・リーフェンの口から語られたのは、生と死についてであった。 


「黒宮様。あなたは死をどのように捉えていますか?」


「終わりだ」


「終わり……そうですね、そう思うのも仕方のない事だと思います。死者は体の自由も温もりも失われてしまう。では、逆に生とは?」


「それは……言葉では、言い表せない」


 黒宮アキトは答える事が出来なかった。死については明確に答えを持っているものの、生を一言で表す事が出来ない。色々と頭の中で考えはつくが、それらは全て【生きている間】という過程の話であり、死のような明確な答えではなかった。


「おかしな話ですよね。死については明確に答えられるというのに、生について明確な答えを持っている者など存在しない。生とは、一体何でしょう? 何故、生物には死があるのでしょうか?」


「……何が言いたい?」


「私は考えたのです。人も、動物も、植物も、私達がいるこの世界にまでも、死がある。死が訪れる要因は様々ですが、一つの共通点が存在します。それは時間。我々は皆、時間に縛られ、時間によって支配されているのです」


「時間?」


「砂時計という物をご存じですか? 上下を反転すれば、上側のガラスに入った砂が徐々に下へと落ちていく物ですよ。物によって計れる時間は違いますが、私はこの砂時計に非常に興味を持ちました。あれこそ、生と死を表した芸術品です。私は砂時計から着想得て、とある技を会得しました。時の経過を静止する技。あなた方祓い士でいう、結界術です」


「怪異が奇術を? という事は、お前も異形なのか?」


「いいえ。私はただの怪異ですよ。怪異になる以前は、少し特殊な血筋の人間でしたがね」


「特殊な血筋……いや、にしてもだ! この最珍露に怪異が潜んでいると既に情報が行き渡っている。僕よりも以前に、ここへ祓い士が来たはずだ」


「ええ。参られましたね」


「そいつは、どうしたんだ?」


 ロン・リーフェンは裾から太く大きな手を出し、座布団に座って布で顔を隠す人間達の一人に指を差した。黒宮アキトは指を差された人物の方へと行き、顔を隠している布をめくる。

 布をめくって見えた男の顔は、まるで石のようであった。顔には今さっき出来たかのような傷や痣があり、首にはロン・リーフェンの手で絞められた痕がある。

 しかし、そんな傷や痣があるにも関わらず、男の表情からは、まるで痛みを感じられない。呼吸も瞬きもせず、目の前に立っている黒宮アキトの姿が黒い瞳に映っていない。

 黒宮アキトは男に布を被せ、着ている服のポケットを探り、男の懐から一枚の折り畳んだ紙を見つけた。その紙に書かれていたのは、最珍露に潜む怪異を祓う任務であった。請け負った男の家の名は【千蔵家】という、西連寺家とは犬猿の仲である家であった。


「こいつ、マヒルの所の……」


 黒宮アキトが思い出した千蔵マヒルという祓い士は、黒宮アキトの数少ない知人であった。黒宮アキトが西連寺家と繋がりがあると知るまでは、様々な任務を共にした戦友でもあった。 

 だからこそ、千蔵家の祓い士の強さは理解していた。御三家には及ばないが、それでも並の怪異であれば単独で祓える程の強さを持っている家だと。


「彼は他にも祓い士を連れて、ここ最珍露に来てくださりました。しかし、道半ばで仲間と引き離され、ここへ来れたのは彼だけ。そんな彼は、私の言葉に耳を傾けず……残念な事に、少々乱暴な目に遭わせてしまいました」


「お前がこいつの仲間を引き離して、一対一に持ち込んだんだろ!」


「いいえ。私は最珍露の主ではありますが、長い間ここから外に出ていません。ここから外については、一切手をつけていません。恐らく、穢れが怪異と成り果てたのでしょう」


「穢れってのは恐怖だろ! 人でないなら、怪異には成り果てない!」 


「穢れは死を恐れる者に憑き、そして穢れもまた人なのです。私は穢れを落とす事は出来ても、祓い士のように完全に消滅させる事は出来ません」


「厄介事は放置してたって訳か!」


「もちろん、封印を掛けて厳重に閉じ込めておりました。しかし、その封印も長い時を経て、風化してしまったのでしょう」


「どうして祓い士に頼まなかった! お前がやってきた事を話してやれば、祓い士だって協力したはずだ!」


「言ったはずです。黒宮様と違い、彼は私の話に耳を傾けようとはしなかった、と。祓い士であれば、最珍露の存在も、私の事も前々から知っていたはずなのに、事が起きてから動き始めてきました。その理由、お分かりですか?」


 ロン・リーフェンの問いに対し、黒宮アキトはハッキリとした答えを持っていた。その答えは正解ではあるものの、ロン・リーフェンの正当性が増すだけであった。 


「……泳がせていた……家の名を上げる為に、事が大きくなるのを待っていた」


「そうです。五賢人は祓い士達に平等にチャンスを与え、家同士の競争を望んでいます。祓い士達もその競争に乗っかり、高い地位に立つ為に怪異が育つのを待っているのです。静観している間にも、被害が出る事を承知で」


「……何者なんだ、お前……何故、祓い士の事情についてそこまで」


「私の恩人から聞いた事です。彼女、いや、彼でしょうか?」


「その恩人の名前は?」


「神薙夏輝。そう名乗りました」


「神薙……神薙家の祓い士だと!?」


 ロン・リーフェンの口から神薙家の名が出たその時、黒宮アキトの背後から冬美が現れた。冬美は黒宮アキトの耳元に口を近付け、囁く。


『あの男から神薙夏輝について聞き出しなさい』


「なんだと?」


『あなたの為よ』


 それだけ伝えると、冬美の姿は消えてしまった。そんな二人の一部始終を見ていたはずのロン・リーフェンであるが、彼の目には冬美の姿は映っていなかった。


「……お前、神薙夏輝についてどれだけ知っている?」


「夏輝様についてですか? 遠い記憶の為、参考にはならないかと……それと、夏輝様から他人に無闇に話すなと念を押されておりまして」


「……そうか……なら、力尽くで話してもらう!」


 駆け出した黒宮アキトは、ロン・リーフェンの胴体にパンチを放った。十分に助走を付け、力の入れ方や放つタイミングも完璧な高威力のパンチ。

 そんなパンチを喰らいながらも、ロン・リーフェンは不動を貫いていた。

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