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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第4章 別れの時は必然に
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最珍露

 黒宮アキト達が訪れた旅館【最珍露】は、人里離れた森の中に存在する。様々な効能がある温泉や、山で取れた山菜料理でもてなされ、人工的では無い自然の音を耳にしながら眠りにつく。人との交流関係や、日々の雑音に精神を擦り減られた人々にとって、まさに憩いの場であった。

 そして、最珍露には特定の人物にだけ提供するサービスが存在する。そのサービスを客側が頼む事は出来ず、従業員側が客を選んで行われる特別な儀式。

 その儀式は【浄化の儀】と呼ばれ、人の体に憑く穢れを浄化する儀式である。この儀式は特別な部屋で秘密裏に行われ、儀式内容は当然の事、儀式を実行する人物が誰なのかも分かっていない。ただ、儀式を受けた客は口を揃えて「眩い光の先で、神を垣間見た」と。

 隠れた名所として語られていた最珍露であったが、突如として人が消えた。従業員が全員辞めたという意味でも、客足が途絶えたという意味でも無い。姿形が消失したのだ。それ以来、最珍露に客が訪れる事は無く、心霊スポットとして有名になる事も無かった。

 

 奇妙で不気味な謎を持つ旅館、最珍露。その謎と原因を調べるべく、怪異探偵一行は旅館内を探索していく。広くて複雑な構造の最珍露を効率的に調べる為に、黒宮アキトと宮本達也、西連寺マコトと斎藤響の二つのグループに分かれた。グループ同士の報告手段としては、宮本達也と斎藤響が持つ携帯電話を通じてやり取りをとる。

 そうしてグループに分かれた後、黒宮アキトと宮本達也は最上階である三階を探索していた。三階の通路を進みながら、客が泊まる部屋を一つ一つ調べていく。部屋の中は消失する寸前まで泊まっていた客の残骸とも言える物が残されている。


「どこもかしこも、本当にそのままみたいだな。服も靴も……うわ! 金目の物もそのままだ!」


「盗むなよ」


「分かってるって! 俺達は盗賊団じゃあるまいし! でも、不思議だよな。普通こういう不気味な場所って、心霊スポットとして有名になりそうなのに」


「マコトの話によれば、この旅館の所在を知る者は少ない。この森を抜けた先にある町の住人達も、森の中に旅館がある事を知らないらしい」


「まぁ、知られていたら、こんな風に金品がそのままって訳無いしな」


「物の流通。旅館の宣伝。従業員の数。営業日。それら全てが謎のままだ」


「どう考えても普通じゃないな。こんな不気味な宿じゃ、落ち着いて眠れねぇよ」


「最初に見つけるべきは、この旅館にいた人達が消失した日だ。日記でも新聞でも、日付が分かる物があれば教えてくれ」


 そうして二人が部屋を調べ続けていくと、宮本達也が奇妙な物を手に持って黒宮アキトに手渡した。


「これは、旅館のチラシ?」


「ああ。今調べていた部屋の中で見つけた。書かれてある事は旅館についての普通の紹介だ。奇妙なのは、ここだ」


 宮本達也が指を差した所に記載されているのは、最珍露で働く従業員が集まった写真。その写真に写る従業員は皆、奇妙な服装で身を包んでいた。教会で着られる修道服のような黒いローブ。とても旅館で着るような服装ではない。


「カルト宗教か何かかもな。いずれにせよ、一気にきな臭くなってきたな。」


「……ん? この男だけ服の色が白いな。それに、顔も布で隠れている」


「リーダー的な何かかもな? でもリーダーにしては地味っていうか、不気味なだけだな」


「まぁ、まだ調べ始めたばかりだ。おのずと明らかになるだろう。探索を続けよう」


 その後、二人は三階にある部屋を調べ回っていったが、目的である【人が消失した日付】について分かる物は無かった。三階にある部屋を全て調べ終えた事で、二階に降りようとした矢先、黒宮アキトは違和感を覚えた。


「達也。この三階にあった部屋はいくつだ?」


「え? えっと確か……12、か?」


 黒宮アキトは階段から引き返し、部屋の扉に記された部屋番号を順に数えていく。


「301。302。303。304。305。306。307。308。309。310。311……312が無い?」


 部屋を数えていったが、宮本達也が言っていたよりも部屋の数が少ない。宮本達也の数え間違いにも考えられるが、それはあり得ない話であった。部屋は左右で向かい合うように存在しており、二人は左右に分かれて調べていた。黒宮アキトが調べた部屋は六つ。つまり、宮本達也も六つの部屋を調べる事となり、宮本達也が言ったように全部で12部屋なはずである。

 しかし、最後の312の部屋が見当たらない。そして312を調べ終えて出てきた宮本達也の姿を黒宮アキトは確かに見ていた。


「……消えている?」


「おかしくねぇか? だって俺が……おい、アキト。あっちを見てみろよ……」


 宮本達也は黒宮アキトの肩に手を置き、自身が見ている方向へ振り向かせた。三階は右側に通路が存在し、一定の間隔で部屋が続いている。逆の左側には通路は存在せず、壁があった。

 だが、その壁は今では存在せず、通路が続いており、部屋も存在している。二人がその光景に困惑していると、黒宮アキトは背中に硬い感触を感じ、振り向いた。

 そこには、壁があった。さっきまで左側にあったはずの壁が。 


「いつの間に壁が……壁があったのは、左側だよな!? でも俺達がいたのは!」


「右側だ。なるほど、マコトが言っていた複雑な構造っていうのは、こういう事か」


「何かのキッカケで構造が変わるっていうのか?」


「おそらくな。あっち側も調べよう。今度は、二人一緒に一つの部屋を調べていこう。いつ構造が変わるのかが、まだ分からないからな」


 二人はお互いの存在を適度に確認し合いながら、突如として現れた三階の左側を調べていく。

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