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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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終わりと始まり

 西連寺マコトは待っていた。自身が慕う黒宮アキトの帰りを。朝日が昇る頃に家を出てから、0時を訪れようとしている。待ち疲れた宮本達也と斎藤響は先に眠りにつき、西連寺マコトだけが待ち続けていた。

 テーブルの空席の前には、既に湯気が失われた晩ご飯が置かれており、その向かい側に西連寺マコトは座って眺めていた。  


「どこまで歩いていったのでしょう。もう、明日になるというのに……あの呪いのビデオの依頼から、兄様の様子が少しおかしくなった……私が知っている兄様が、離れていく気がする……どうして、こんなに嫌な予感がするのでしょう……」


 呪いのビデオの依頼から、黒宮アキトの様子が変わった事に、西連寺マコトは嫌な予感を覚えていた。変化といっても、あからさまな変化ではなく、普通ならば気が付かないくらいの微弱な変化だ。

 その変化に、西連寺マコトだけは気付いていた。いつも通りにコーヒーを飲む姿、いつも通りに会話に混じる姿、いつも通りにクスリと笑う姿。

 そんないつも通りの姿の中で、何か考え事をしていた。引きずるような、引っかかっているような。その正体までは気付かずとも、目に見える外側でなく、内面の変化に西連寺マコトは気付いていた。

 西連寺マコトの中で、黒宮アキトの評価は真っ直ぐに突き進む人物であった。どんな状況であれ、決して歩みを止めない強い精神の持ち主。

 そんな黒宮アキトの歩みが、今はおぼついている。その原因である強大な何かの存在に、西連寺マコトは危機感を持っていた。


「私は、心配です……兄様が、どこか遠くに行ってしまうような気がしてならないのです……」


 西連寺マコトは自身の手首に着けてある花の腕輪を優しく撫でながら、黒宮アキトが帰ってくる事を願う。

 すると、玄関の扉が開く音が鳴り、玄関前の通路をノソリノソリと歩く足音が西連寺マコトの耳に届いた。その足音が黒宮アキトの足音だと理解すると、西連寺マコトは表情を作り直し、笑顔で黒宮アキトを出迎えた。


「おかえりなさい兄様! 一体どこまで……行って……」


 帰ってきた黒宮アキトの姿を見て、西連寺マコトは言葉を失った。肩に出来ている傷から流れた血が服に黒く染み付いており、顔色がまるで死人のようで、目には光が宿っていなかった。


「兄様!? その傷は!? それに、顔色も……!」


 西連寺マコトは黒宮アキトに駆け寄り、肩に出来ている傷や頬に触れる。幸い、傷の方はあまり深くはなく、既に血は止まっていた。 


「……誰にやられたのですか!? 怪異、それとも祓い士? 教えてくだされば、今すぐにでも私が行きます! 死んだ方がマシだと思える程に、苦しめて―――」


「マコト」


「……今、何とおっしゃいましたか?」


「マコト」


「っ!? 兄様が、私の名を……呼んでくださったのですね……!」  

 

 初めて名前を口に出された事に、西連寺マコトの内で煮え滾っていた怒りが収まり、涙を流し喜んだ。


「マコト。聞いてほしい事がある」


「はい! 何なりと! 私、西連寺マコトは兄様の言う事なら何なりと!」


「僕を婿として西連寺家へ迎えてくれ」


「はい!……はい?」


 西連寺マコトは自分の名前を呼んでくれた喜びのあまり、内容を理解するよりも先に返事を出してしまった。数秒の間を置いて、ようやく黒宮アキトが口にした言葉をハッキリと理解出来たが、あまりの突拍子も無い言葉に困惑してしまう。

 そんな西連寺マコトに追い打ちを掛けるように、黒宮アキトは西連寺マコトの手を握り、手首に着けられている花の腕輪を撫でる。


「西連寺家は、結婚相手に花で作った物を贈る。僕が昔に作ったこれが有効なら、僕と結婚してほしい」


「……」


 黒宮アキトからの結婚の申し出に、西連寺マコトは唖然としていた。頭は真っ白になり、体が石になったかのように動かせない。唯一動いていたのは、激しく躍動する心臓の鼓動だけであった。 

 そんな中、眠りから覚めた宮本達也と斎藤響が部屋から出てくる。部屋から出てきた二人が開幕一番に見たものは、西連寺マコトの手を握っている黒宮アキトという現実味の無い光景。二人はまだ夢の中にいると思い、お互いの頬をつねってからもう一度見てみるが、何も変わっていなかった。


「「……え?」」


「マコト」


「「え!?」」


「僕と結婚してくれないか?」


「「えぇぇぇぇぇ!?」」


「あ、あ、あ、あ……!」


 黒宮アキトは西連寺マコトに結婚を申し込み、西連寺マコトは壊れ、宮本達也と斎藤響は目が飛び出る勢いで驚いていた。

 誰一人として、正常な状態の人物が存在しない。まさに、異様な光景であった。

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