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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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冬美

 突然現れた白髪の女性。手首には僕と同じ手錠が掛けられており、僕の手錠と鎖で繋がれている。改めて近くで見ると、不思議な人だ。顔や肌から察するに、10代後半から20代前半だろう。だが、オーラと言うべきか、妖しい雰囲気の所為で長い間生きているような気さえする。

 そして特筆すべきは、気配だ。人でも、怪異でも無い。生きている訳でも、死んでいる訳でもない。まるで……そう、存在していないかのようだ。


「……お前は、誰だ?」


 返答を期待せず、僕は彼女に尋ねてみた。結果は想像通り、無言だ。

 

「この手錠、一体何だ?」


 僕と彼女を繋いでいる手錠についても尋ねてみるが、彼女は前を向いたまま口を開こうともしない。まさか、言葉を発せられらないんじゃないのか? どちらにせよ、このまま立ち尽くしているつもりはない。彼女が何も話さず、何処へも歩かないなら、この手錠を斬るまでだ。

 そう思って、指輪から妖刀を取り出そうとしたが、どういう訳か妖刀が出てこない。というより、指輪自体が反応しない。

 破邪の指輪は機械とは違い、不具合で機能しない事はあり得ないはず。考えられるのは、この黒い手錠。破邪の指輪は使用者の意思と繋がる事で使用できる。となれば、この手錠が指輪との繋がりを遮断しているのだろう。

 もしそうだとしたら、この手錠の持ち主である彼女の正体がますます分からなくなる。彼女は一体、何者なんだ?


『歩かないの?』


「今、喋った……?」


 ずっと彼女の顔を見ていたが、口を開いた所を見ていない。だが、確かに声が聞こえた。聞き間違いじゃなければ、あの声は、幻聴で聞く女の声だ。


『色々と話したい事があるけれど、あなたの方が聞きたい事がありそうね』


「……」


『そうね、どこか落ち着く場所で話しましょう。人気が無くて、自然に囲まれた静かな場所に』


「……そういった場所なら、僕に心当たりがある」


『そう。なら、案内してくださるかしら?』


 僕が歩き出すと、隣にいる彼女も僕の歩幅に合わせて歩き始める。まるで、陽の光で出来る影のように。

 しばらく歩き続け、目的地である人気の無い場所へ来た。ここはかつて公園だった場所だ。地面は雑草に覆われ、当時使われていた遊具がそのまま取り残されており、錆やヒビ割れが起きている。

 ここを選んだ理由は、単に人気が無いという理由だけじゃない。ここを見つけたのは、まだ朝ヶ丘町に来たばかりの頃。祓い士の村から持ってきた武器を隠す場所を探していた時、怪異が住み着いて人の出入りが無くなったこの公園を見つけた。弱い怪異だった為、すぐに怪異を祓って、この公園の至る所に武器を隠した。

 つまり、この公園は僕の武器庫だ……今の今まで忘れていたが。


『良い場所ね。人気も無くて、自然に溢れて』 


「そうだろ」


『それに、忌々しい破邪の武具の気配がそこらかしこから―――』


 僕は足元の地面を抉るように蹴り上げた。その地面の中に隠していた剣を掘り出し、左手で掴んで手錠の鎖を断ち切った。手錠の鎖を切った事で彼女と離れる事が可能となり、僕は彼女から距離を取りつつ、剣を利き手に持ち替えて構えを取る。

 

『あらあら……フフ』


「何がおかしい?」


『あなたがそれを使っている姿がね……フフ』


「不格好とでも? ハッ! よく言えたものだな! こっちには武器を。お前には何も無い!」 


『武器が無ければ何も出来ないのかしら?』


「ああ。それが人間でな!」


 助走をつけて飛び上がり、振り上げていた剣を落下地点にいる彼女に向けて振り下ろした。その一撃は躱されるが、予定通りだ。どんなに俊敏な奴であっても、攻撃を躱す瞬間、僅かに体が硬直する。その瞬間が僕の本命だ。  

 

「づぇあ!!!」


 振り下ろした剣を前に突き出し、彼女の心臓部分に剣を突き刺した。


「っ!?」


 手応えが、無い? 確かに剣は彼女の心臓部分に突き刺さっている。だが突き刺した時に感じる手応えが全く感じられなかった。

 考えられるのは、彼女が実体の無い存在だという事。となれば、武器は有効打にはならない。指輪の力を使おうにも、手錠が掛けられている所為で、術はおろか念を溜める事すら出来ない。この瞬間をチャンスだと思っていたが、こうなっては逆。

 今の僕は、隙だらけだ。


『隙、あり』


「くっ!?」


 彼女が振り上げた右手から何かが生成されているのを目にし、僕は急いで剣を引き抜いた。防御の構えをギリギリで取り、彼女の右手に握られた剣が振り下ろしてきたのを防ぐ事が出来た。咄嗟に構えたのもあるが、受け止めた彼女の一撃は、とても剣から繰り出される重さではなかった。


『フフフ。可愛い表情。眉間にシワを寄せて、歯も噛み締めて、必死ね』

 

「お、お前……!」


 彼女が振り下ろした剣の一撃の重さにも驚いたが、その剣にも驚いた。刀身も持ち手も黒いが、形状は僕が握っている剣と同じ。僕の剣を模倣したのか? そんな術、よほど凄腕の祓い士でなければ使えない。

 いや、そもそも破邪の指輪が無い事から、彼女は祓い士ではない。だが、怪異が持つ力にしては特殊過ぎる……まさか!


「まさかお前、異形か!?」


 怪異の力を持ちながら、人の姿を保つ存在。それが異形だ。異形は怪異と祓い士を合わせたような力を持ち、家の名を持つ祓い士でも歯が立たない……らしい。

 それというのも、異形に関しての情報を誰も知らないからだ。知る者は限られた祓い士のみ。あとは、死人だけだ。

 もし彼女が異形の類なら、今の状態で勝つ事は不可能だ。


『怯えているの?』


「なんだと!?」


『手足が震えているわ。それに、瞳も』


 僕を挑発するような声色で、彼女は僕の眼前にまで顔を突き出してきた。おでことおでこがくっつき、目と目がくっつく。僕の肩に喰い込む剣の痛みは緊張で感じられず、恐怖で瞬きが出来ない。


「何者……なんだ……」


『あなたを知る者。本当のあなたを』


「誰、なんだよ……お前は……!」


『冬美……今度は忘れないでね』


 そう呟くと、冬美と名乗る彼女は忽然と姿を消した。しばらく僕は呼吸もままならず、ようやく呼吸が出来るようになると、膝から崩れ落ちていった。肩の傷から流れる血を手で押さえながら、右手首を見る。

 僕の右手首には、黒い手錠が掛けられたままであった。

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