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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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孤独

一人称です

 あの後、西連寺マコトの転移術で無事に家に戻った僕らは、手っ取り早く家の中の怪現象を祓っていき、依頼を完了する事が出来た。西連寺家からの依頼を西連寺マコトに手伝わせてしまった事で報酬は無しかと考えていたが、自分が関与した事は黙っておくと西連寺マコトが約束してくれて、現に報酬は受け取れた。   

 あれから1週間が経ち、その間、依頼の無い日々が続いている。達也と響にとっては趣味や遊びに没頭出来る日々が続いて嬉しそうだが、僕は違う。二人のように娯楽に熱が入らないし、買い物だって必要最低限以上の買い物が出来ない。修業をしようにも、妖刀は「体を鍛える前に精神を鍛えろ」と言うだけで、怪異世界を使わせてもらえずにいた。

 つまり、暇だ。この1週間でやった事と言えば、外に出て適当に歩き、夕陽が沈む頃に家へ帰るだけだ。そして今日もまた適当に外を歩いている。

 目的地も決めないまま歩いていると、請負人になる前まで通っていた学校の傍を通りかかった。窓から授業を受けている生徒達が見え、グラウンドではどこかの学年の生徒が息を切らせながら走っている。

 

「一時期、僕もあの中にいたんだよな……」


 別に学校生活に未練がある訳ではない。ただ、普通の学生として学校に通っていたのが信じられなくなっていた。自分が普通の人間として、普通の暮らしをしている姿が、今では思い浮かべられない。あれだけ普通の暮らしを求めて村から出てきたのに、結局今は祓い士として生活している始末だ。

 

「なんで僕は普通の暮らしを求めてたんだろう?」


 普通の人間を演じ、普通の暮らしをして得た物は幸せではなく、退屈だった。西連寺家の請負人となって、怪異を祓う祓い士としての生活は幸福とは言えないが、生きている実感が湧く。

 この二つから導き出される結論は、単純に僕が普通の人間に向いていない。記憶を失ってから初めて怪異を祓ったあの時から、僕は怪異を祓う事に生き甲斐を感じていた。もしあの時、怪異に興味を示さず、村の田んぼや鍛冶師にでも弟子入りしていれば、少しは普通になれていたのだろうか?

 いや、それでも僕は普通にはなれなかっただろう。10歳以前の記憶は失えど、体は戦いを憶えていた。農民になろうが鍛冶師になろうが、飢えた体が戦いを求めていただろう。


「記憶を失う前の僕は、一体何を経験したのだろう?」


 祓い士としてやっていけるくらいには体を動かせていた。術は簡単なものや、細かく調整出来ないが、破邪の指輪を使う事も出来た。おそらく、祓い士の訓練を受けていたのだろう。

 しかし、実戦慣れし過ぎている。初めて怪異を前にした時も、記憶を失って初めての遭遇だというのに、僕は落ち着いていた。自分で考え、自分で体を動かし、自力で怪異を祓えた。その事に村人はおろか、祓い士でさえも驚いていた。

 初陣は必ず苦戦するか、殺されるかの二択。その二択のどれでもない、完勝という結果を持ち帰って来た僕に、みんな不気味に思っていた。実際、西連寺マコトと出会うまで、僕は他の祓い士からも村人からも疎外されていた。

 ある者は「家の名を隠している卑怯者」と言い、またある者は「怪異よりも怪異じみている」と陰で言っていた。

 そんな周囲の言葉など気にしていないし、気にする事も無かった。とにかく、早く次の怪異を祓いたいと思っていた。何人もの祓い士を殺してきた怪異でも、対処法が分からない怪異でも、何でも良かった。闘争心を鎮められるなら、どんな相手だろうと引き受けていた。

 そうして怪異との戦いの日々を過ごしていたら、偶然立ち寄った花畑で西連寺マコトと出会った。暇つぶしに作った花の腕輪を贈った所為で西連寺家と縁が出来てしまい、そこからどんどんと話は進み、西連寺マコトの許嫁にまで位は高まっていた。西連寺家は御三家には劣るが、村の中では名家として名高い。

 そんな名高い名家の一人娘である西連寺マコトの許嫁となれば、誰もが僕に頭を下げるようになった。今まで平気で請け負えた怪異の依頼も、僕の身を案じて断られるようにもなった。

 この頃の僕は祓い士としての知識が薄く、僕の家の名である【黒宮家】が消失していた事もあり、家の名の力が理解出来なかった。

 だから、西連寺家と縁が出来ただけの僕の身を案じるようになった彼らや、そうなった原因でもある西連寺家に苛立ちを覚え、許嫁という立場を捨てた。西連寺マコトと結婚するのが嫌だというのもあるが、怪異を祓えなくなった事が嫌で嫌で堪らなかった。

 僕が許嫁の立場を手放すと、みんな元の状態に戻り、怪異の依頼も受けれるようになった。少し違うのは、通り過ぎざまに舌打ちや悪口をしてくるようになった事だ。あっちから始めた事を僕の所為にしてくるのは今でも気に入らないが、お陰で人の本質を知れた。どれだけ善性に溢れた人だろうが、人である以上【悪】を宿していると。

 だから僕は、心の底から人を信頼しない。人に宿る悪が、自分にいつ牙を向けてきてもいいように。例え、世話になった西連寺家の当主や、自分を好きでいてくれる西連寺マコトや、友達になってくれた達也と響であっても。


「心の底から信頼出来る相手……そんなの、僕になんか―――」


 青空を眺めながら、遮断機が下りている踏切前で立ち止まっていると、向こう側から視線を感じた。気になって視線を向こう側に向けると、一人の女性が僕を見ていた。

 

「え……」


 僕を見ていた女性の顔には憶えがあった。井戸に潜んでいた怪異が僕に見せた幻の女性と同じであった。肩まで伸びた白い髪、ガラスの花のように美しくも危うい雰囲気のある顔立ち。

 僕の心は、彼女に引き寄せられていた。幸か不幸か、目の前を通過していった電車が過ぎ去ると、彼女の姿は消え、僕の心も正常に戻っていく。


「……なんだったんだ、さっきの」


 経験した事も無い気持ちに困惑していると、僕の右手首に硬い何かが着けられた。見ると、僕の右手首には黒い手錠がかけられていた。手錠のもう片方にまで視線を移していくと、僕ではない女性の手首にもう片方の手錠がかけられていた。

 顔を上げながら視線も一緒に上へ向けていくと、いつの間にか僕の隣に、彼女が立っていた。ガラスの花のような彼女が。

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