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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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幻に見る面影

 砂嵐によって西連寺マコトと離され、単身、薄暗い森の中に立たされた黒宮アキト。指輪を使って怪異の気配を探ると、森の中央にある井戸から反応があった。黒宮アキトは妖刀を取り出し、怪異からの襲撃に警戒しながら井戸に近付いていく。

 すると、井戸の中から怪異が這い上がってくるのを直感した。深い底から這い上がってくる怪異が近付く度に、背筋を走る寒気が如実に現れていく。吐く息が白く見えるようになった頃、井戸の中にいる怪異の手が出てきた。その手は青白く、爪の部分がマニキュアを塗ったかのように血で真っ黒に染められている。

 黒宮アキトは妖刀を前に構え、いつでも鞘から抜けるようにして怪異を待ち構える。井戸から顔を出した瞬間、瞬時に前へ飛び出し、怪異の首を斬り落とすと決心していた。

 

(……今!)


 頭の頭頂部が井戸の中から見え始めた所で、黒宮アキトは前へ飛び出した。怪異との距離が縮まる中で居合の構えに移し、鞘に納められていた妖刀の刀身を露わにしていく。怪異の顔が完全に井戸から出てくると、既に黒宮アキトは妖刀に指輪の力を纏わせており、後は斬るだけであった。

 しかし、井戸から出てきた怪異の顔を目にした黒宮アキトは、首目掛けて振った刀の軌道を土壇場でズラし、居合の一撃を空振りに終わらせた。着地を忘れた黒宮アキトは地面を転がっていき、枯れた木に背中を強打した。 

 

「ぅぅ……!」


「何をしておるのだアキトよ!? 絶好の機会であっただろう!?」


 黒宮アキトが仕掛けた居合の一撃。タイミング、軌道、力加減、そのどれもが文句の付けようも無い程に素晴らしく、まさしく必殺の一撃であった。

 だからこそ、妖刀は怒った。最高の居合の一撃を最低に変えた黒宮アキトの土壇場の決断に。あのまま振り切れば、間違いなく井戸の怪異の首は斬り落とせたはずであった。


「何故だ、何故軌道を変えたのだ!!! 首を斬り落とせたのだぞ!? この世界でなら我の威力など気にする事はないはずなのに、何故!!!」


「……分かんねぇ」


「分からん?」


「分かんねぇんだ……今の自分が……!」


「何を言っておる!? しっかりしろ!」


 妖刀は黒宮アキトを激励するが、その言葉が届いていないどころか、倒れたまま立ち上がれずにいた。 

 黒宮アキトは混乱していた。自身でも最高のタイミングで繰り出せた居合の一撃を自分から外した事に。軌道を変えたキッカケは、怪異の顔を見た瞬間であった。肩まで伸びた白い髪、ガラスで出来た花のような美しくも危うさのある顔。黒宮アキトの記憶に無い女性であった。

 だが、見知らぬはずのその女性が、黒宮アキトの殺意をいとも簡単に折ったのだ。


(なんで……なんで、斬らなかった……? あんな女、僕は知らない……なのに、なんで殺したくなくなったんだ……?)


『アキト。幻に惑わされないで』


「っ!?」


 混乱する最中、黒宮アキトに囁いてきた声は、度々耳にしてきた幻聴の声であった。幻聴は指輪の力を大幅に使い過ぎると聞こえてきて、その幻聴を聞いた後、必ず意識が途切れてしまう。

 しかし、今回は意識がハッキリとしており、逆に今まで動かせずにいた自身の体を動かす事が出来た。


「なんだよ……僕に何が起きてるんだ……?」


「来るぞ、アキト!!!」


 妖刀の声で怪異を前にしている事を思い出し、黒宮アキトは俯いていた顔を前に向けた。怪異は井戸の中から完全に姿を現していた。だが、その顔は先程見た女性のものとは違い、顔に無数のミミズを蠢かす化け物であった。

 

「変わった……?」


「何を寝ボケたか!? 初めからあのような風貌であっただろう!」


「……幻、か。同じ幻の声の癖に、良いアドバイスじゃねぇか!」


「もう一度だ! 構え!」


「次は斬る!」


 黒宮アキトは再び居合の構えを取り、前へ飛び出す。そして今度は迷う事なく、怪異の首を斬ってみせた。妖刀に付いた怪異の血を振り払い、鞘に刀身を戻すと、怪異の首はゆっくりとズレていき、地面に落ちていった。


「まぁ、及第点だな」


「お厳しい事で」


「それにしてもアキトよ。何故一度目で斬らなかった?」


「幻を見せられていた。幻と分かっていれば、躊躇いはしなかったがな」


「幻……どんな幻を?」


「さぁな。僕の知らない……女性……記憶に無い、女性の姿……」


「ん? どうした?」


「……いや、何でもない。それより、怪異は祓えたはずだ。なのに、僕はまだこっちにいる」


「恐らく、別の怪異も存在するのだろう」


「もしかしたら、そっちにあいつが飛ばされたのかもな。必要ないと思うが、加勢に向かうとしよう」


「その必要はありませんよ、兄様」


 声が聞こえた方を見ると、枯れかけの木々の中からこちらへ向かってくる西連寺マコトの姿があった。


「もう一体の怪異は既に祓いました。加勢に来たのですが、兄様も既に祓い終えていたのですね」


「ああ。だが、未だに僕らはこっち側にいたままだ。他にも怪異が?」


「いいえ、怪異の反応は既に無くなっております。元の場所に戻るには、自力で戻るしかありません」


「どうやって?」


「兄様、私達は祓い士ですよ? こういった時に役立つ術があるじゃないですか」


「……転移か。あれ苦手なんだよ。調整が細かくて、田神村の件以降、成功した事が無い」


「では、私がお連れしましょう。転移対象を一人増やした所で、私には造作もない事ですし。それじゃあ兄様、お手を」


 黒宮アキトは西連寺マコトが差し出してきた右手を握った。西連寺マコトは転移する前に、黒宮アキトの手の感触や温もりを堪能し、怒られそうになったタイミングで現実の世界へと転移した。

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