怪現象
黒宮アキトと西連寺マコトの二人が天高く渦巻く砂嵐に巻き込まれた直後、二人の様子を映していたテレビの映像に砂嵐が流れた。二人の様子をテレビの前で見守っていた宮本達也と斎藤響は、二人の様子が見えなくなった事に焦り始める。
「え……ええ!? ど、どうなったんだよ二人は!?」
「……ねぇ、これマズいんじゃない? いくら祓い士って言っても、人な訳で……人間があんな竜巻のような砂嵐に巻き込まれたら……」
「馬鹿言うな! あの程度で二人が死ぬはずないだろ! あんなのが二人の最期だなんて、俺は認めないぞ!」
宮本達也は再び映像が映る事を願いながら、テレビを叩いたり、リモコンのボタンを押し続けてみるが変化は無い。
その代わりに、二人がいる家の中で変化は起き始めていた。最初に異変に気付いたのは斎藤響。斎藤響は気を落ち着かせる為に水を飲もうと、キッチンに向かった。最悪な結果を想像していた斎藤響は震える手でコップに水を注ぎ、少しでも冷静さを取り戻そうと水を飲もうとする。
その時、部屋の状態に違和感を感じた。斎藤響が立っているキッチンから、テレビがあるリビングの様子を伺えるのだが、以前と比べて何かがおかしかった。
「……窓が、無くなってる」
斎藤響が感じた違和感の正体。それは、外に出られる窓の消失であった。斎藤響はあったはずの窓の前にまで行き、手で触れてみるが、そこには壁しかない。
「……待って、待って待って待って……!?」
嫌な予感を覚えた斎藤響は急いで玄関へと駆けていく。嫌な予感は的中した。本来あるはずの家の出入り口である扉が無くなっており、上書きしたかのような壁が存在していた。
その光景を目の当たりにした斎藤響は、尚もテレビの前にいる宮本達也のもとへ行き、この家で起きている異変を知らせる。
「達也! 何かおかしいよ! 窓も扉も、外に出れる所が壁になってる!」
「……はぁ?」
斎藤響の言葉を聞き、宮本達也も家中を見て回った。そして窓や扉が壁になっているのを見て、黒宮アキトと西連寺マコトの安否を心配する気持ちが、自分と斎藤響に向けるようになっていた。
「駄目だ! どこも無い! 窓も扉も、外に出られる所が壁になっちまってる!」
「これって、明らかに怪異の仕業、だよね? で、でも怪異はビデオの中にいるんじゃないの!?」
「分かんねぇ……とにかくだ! なるべく離れないようにしよう! あいつらの安否も心配だが、俺達の方でも異変が起きてる以上、お互いに身の安全を確かめ合った方が良い!」
「テレビから離れた方がいいのかな……?」
「いや、逆にテレビの近くにいた方がいいかもしれん。知らない内にってのが一番厄介だし、テレビの映像が元に戻れば、あいつらにこっちの状況を知らせられる」
二人は食料や武器になる物をかき集め、テレビの前に陣取った。
「よし……それから、定期的にお互いの顔を見よう。窓や扉が突然消えたんだ。人が消えてもおかしくない。もしくは、別人になってる可能性もある」
「嫌な事言わないでよ……」
二人がテレビの前で陣取っていると、テレビの映像に流れていた砂嵐が消え、真っ暗な画面に変わった。テレビの電源が落ちたのかと二人は不安に思ったが、電源ランプは点いており、画面は映っていないのではなく、暗闇を映しているのだと理解する。
「アキト! マコトさん! 聞こえてるかー!」
『ああ、聞こえるぞ』
こちらからの問いかけに応答してきた黒宮アキトの声に、二人は安堵の溜息を吐いた。
「アキト、こっちがマズい事になってるんだ! 窓や扉、外に出られる所が壁になっちまってる! この家から出られなくなってるんだ!」
『お前達は無事なのか?』
「ああ、俺も響も無事だ」
『そうか……おそらく、こっちの怪異がテレビを通じて、そっちに現象を起こしたのだろう。なるべく早く対処するよ。それで、そっちから何か見えるか?』
「……いや、何も。映像が真っ暗で、お前の姿すら見えない……そういえば、マコトさんは?」
『声がしない事から、ここにはいないだろう。あいつは西連寺家の一人娘、僕よりも祓い士としての腕は上だ。無事に違いない』
すると、真っ暗な画面の中で、小さな緑色の光が灯り出した。黒宮アキトが着けている指輪の光だ。
しかし、暗闇に覆われている映像の中では指輪の光は小さく、そこに黒宮アキトがいるという確認以外で分かる事はなかった。
『しばらく真っ直ぐ進んでいく。こちらで感じた事は声に出していくから、お前達の方でも何か見えたら教えてくれ』
「分かった!」
そうして、黒宮アキトの存在を証明する緑色の光は動いていく。二人がテレビの画面を見ていると、時折光の位置が明らかに変わる事があった。
「まただ……最初のゾンビの群れの時もだけど、たまにアキト達の位置が凄く変わる事がない?」
「映画って、同じ場所で起きている事でも、別の角度に変わる事があるだろ? 多分、それだと思う。次のシーンに進んでいるんだ」
『……気配を感じる』
「怪異か!?」
『いや。だが完全に違うとは言えない。人の気配を持ちながら、怪異の気配がする時の寒気も感じる』
黒宮アキトは人でありながら怪異の気配を持つ何者かに警戒しながら先へ進んでいくと、映像が次のカットに変わる。
暗闇に包まれていた世界から変化した先の世界は、薄暗い森の中であった。地面には枯れた落ち葉が敷き詰められており、周りには朽ちかけた木々が生えている。
そんな生気が全く感じられない森の中で、石で作られた井戸がポツンと中央に存在し、異彩を放っていた。




