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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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目に見えない繋がり

 ゾンビの群れを難なく全滅した黒宮アキトと西連寺マコト。二人が街を散策しようと一歩足を進めた瞬間、瞬きをするように世界が変化する。 

 次に二人が立っていた場所は、広大に広がる砂漠地帯であった。人が作った建造物はおろか、草木や花といった植物すら存在していない。


「場所が変わったな。奇妙な力を持つ怪異だ」


「……ここでも怪異の気配は探知出来ません。兄様、どうしますか?」


「このまま立ち尽くしていたら干からびてしまう。何か変化が起きるまで歩き続けるしかないだろう」


「承知しました。それでは」 


 西連寺マコトは指輪から日傘を取り出し、黒宮アキトと相合傘をして、陽の光を遮断しながら歩き始める。日影の中に入った事で多少は暑さを和らげているが、周囲の気温を乗せた風が体を撫でていく。汗をかいては拭うを繰り返す黒宮アキト。それとは裏腹に、西連寺マコトは汗一つかかず、涼し気な表情を浮かべていた。


「お前、暑くないのか?」


「指輪の力を上手く使うんですよ。体に薄い膜を張るようにしてね」


 西連寺マコトの体には、指輪の力で作ったバリアが薄っすらと張られている。それを見た黒宮アキトも真似をしようとするが、西連寺マコトのように細部まで指輪の力をコントロールする技量は無かった。更に、少しでも力のコントロールを誤れば意識を失ってしまうリスクがある為、諦めてこの暑さに耐える事にした。

 

「……兄様」


「何だ? 何か見つけたか?」


「美しいと思いませんか? ここは人の手によって汚されていない処女地。まさに、楽園です」


 広大に広がる砂漠地帯のありのままの姿に、西連寺マコトは目を輝かせていた。二人は足を止め、休憩も兼ねて砂漠地帯を見渡す。


「楽園、ね。地獄の間違いだろ。歩いても歩いても景色は変わらず、おまけにクソ暑い……」


「人の目や声など見も聞きもする事無く、本来の自分自身を保っていられる。善も悪も感じず、まるで産まれたばかりの赤子のように」


「……不満の声はまだあるのか」


「ええ。兄様がいなくなった後も変わらず」


「西連寺家の一人娘でありながら結婚を拒否し続け、統治にも興味を示さない。おまけに僕のような家の名も無い人間の尻を追いかけて来る始末……まぁ、不満の声が上がるのも妥当だな。あんな小娘に将来を任せたくないってな」


「兄様との結婚なら今すぐにでも構いませんよ?」


「嫌だよ。例え結婚しても、何も変わらないよ。あの村と縁がある限り」


「……兄様の気持ち、最近になって少し、ほんの少しだけ分かり始めてきました。あの村で対等に接してくれたのは、兄様だけ。他の者は心の内を隠したまま頭を下げるだけ。でも今は兄様に加え、宮田達也と斎藤響も私と対等に接してくれます」


「対等、か。何もかもが手に入る上の者が欲しているのが、下々の人間同士が当たり前に手に入れられる対等とはな」


「皮肉ですね」


「ああ、皮肉だな」


 黒宮アキトは西連寺マコトを嫌ってはいるものの、記憶を失ってからの5年間もの間、ずっと傍にいさせられた。だからこそ、西連寺マコトが抱えている不満や怒りは理解していた。叶うなら、西連寺マコトを縛る西連寺家の鎖から解放してやりたいとも想っている。

 そして西連寺マコトは黒宮アキトに対し恋心を抱きながらも、羨ましさを感じていた。黒宮家という家が抹消し、無名となっても、自身の足で自身の赴くままに道を進んでいる。請負人という鎖に縛られても、自分の道からは踏み外れない。そんな黒宮アキトを西連寺マコトは羨んでいた。

 表面上では西連寺マコトが黒宮アキトに一方通行な想いを向けているように見えても、実際は磁石のプラスマイナスのように強く繋がっている。

 だが、その事に黒宮アキトはおろか、繋がり合う事を願っている西連寺マコトすら気付いていない。


「……まぁ、どれだけ嫌な事を言われようが、どれだけ敵意のある目を向けられようが、お前は西連寺家の一人娘。凛として気高く、下々の奴らを見下してやれ」


「フフ。まるで悪者ですね」


「上に立つ奴は、いつだって悪者だ。どれだけ善人でも、下々にとっては悪に見えるものだよ」


「それじゃあ、兄様は上に立つ存在ですね。私の心を奪った極悪人なんですから!」


「人を勝手に極悪人にするな。祓い士の中じゃ、人格者な方だろ」


 真面目な話から、いつものやり取りで笑い合う二人。怪異に巻き込まれている状況だというのに、日々のしがらみを忘れ、穏やかに過ごしていた。

 そんな二人の穏やかな時間を邪魔するかのように、宮本達也の声が割って入ってくる。


『あー、お二人さん? 仲睦まじくしてる所を申し訳ないんだけどさ……前方をご確認ください』


 二人が前方に視線を向けると、いつの間にか砂嵐が発生していた。天高く渦巻く砂嵐は、尚も勢力を増していきながら真っ直ぐと二人に迫ってくる。


「……ありゃ駄目だ」


「わぁー! 兄様、凄い迫力ですよ! これが自然の力というのですね!」


『呑気にはしゃいでる暇無いですよマコトさん!? 回れ右して逃げろぉぉぉぉ!!!』


 宮本達也の叫びが合図かのように、黒宮アキトは西連寺マコトを担いで、砂嵐とは逆の方向へと全速力で走っていく。砂で本来の速さで走れない中、迫り来る砂嵐から逃れるべく、力強く砂を蹴り続ける。

 しかし健闘虚しく、黒宮アキトの体は砂嵐に引き寄せられ、二人は砂嵐の渦の中に巻き込まれてしまった。

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