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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 手錠で繋がれた縁
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呪いのビデオ

 窓の外を伺いながら、黒宮アキトはカップに注がれたコーヒーを飲んでいた。外は大粒の雨が轟音と降っており、雨が降り落ちる音が部屋の中にまで聴こえてくる。


「酷い雨だな」


「だな。予報じゃ、記録的な大雨らしいぜ? 嫌になるよ~」


「今日一日中だったわよね? 嫌になるわ~」


 そう言いつつ、宮本達也と斎藤響はソファに座ってくつろいでいた。生活に必要な物しか置いていなかった黒宮アキトの家であったが、二人と西連寺マコトが勝手に物を置いていき、今では娯楽用品で彩られていた。ジュークボックス、年代遅れのゲーム機、人型のサンドバック、マッサージチェア、雛壇に飾られた奇妙な人形など、まるで博物館のようである。 

 借家とはいえ、自分の家が他人の物に埋め尽くされていく度に疎外感のような感覚を覚えていた黒宮アキト。負けじと自分も物を置こうとしたが、怪異を祓う事以外に趣味が無い自分が置きたいと思える物など無かった。

 家に自分以外の物ばかりが置かれる頃には、西連寺マコトだけでなく、宮本達也と斎藤響まで住み着くようになっていた。西連寺マコトだけでも騒がしかった私生活に二人が加わった事で、一層騒がしさが増した暮らしに、一人で暮らしていた過去を懐かしむようになった。


「なんか腹減ってきたな~。何か美味い飯でも頼むか、金もあるし」


「懐に余裕があるっていいよね~。バイトしてた去年の何倍も稼いでるもん」


「それは兄様があなた方に全額渡してるからですよ?」


 身を寄せ合って出前サイトを見ていた二人の頭に、西連寺マコトの手が置かれる。頭頂部から感じる西連寺マコトの威圧感に、ダラけ切っていた二人の額から冷や汗が流れた。


「最近のあなた方、少~しだけ、ダラけ過ぎでは?」


「え、あ、いや……」 


「い、依頼の時は、ちゃんと……やって、ます……」


「そう? でもあなた方、特に何もしてないですよね? 何をちゃんとしてるんですの?」


「え、えっと……ア、アキト……!」


 耳元で囁かれる西連寺マコトの冷たい声が二人の心臓を絞めつけ、息をするだけで体力が削られていく。宮本達也は泣きそうな表情で、窓際に立っている黒宮アキトに助けを求める。黒宮アキトは溜息を吐くと、飲んでいたコーヒーを飲み干し、西連寺マコトの後ろに立って覆い被さった。


「きゃっ!? あ、兄様……!? そ、そんな風に抱きしめられますと、少し、照れてしまいます!」


 頬を赤く染めながら、背中から黒宮アキトに抱きしめられている事に喜ぶ西連寺マコト。実際には抱きしめられている訳ではなく、ガッチリと首に腕を回されて絞められているのだが、まるで苦しんではいなかった。逆に、絞めている側の黒宮アキトが苦悶の表情を浮かべている。

 黒宮アキトが西連寺マコトを止めている間に、二人はソファから飛び起き、雑誌で置き場の無いテーブルの上の整理や、飲み終えたペットボトルを回収していく。


「あー! 今日は何だか掃除がしたい気分だな、響!」


「そうね! 今! 唐突にやる気がみなぎってきたわ!」


「……はぁ。あからさま過ぎですよ、あなた方」


「じゃあ僕もういい?」


「いいえ! 兄様は私をもっと構ってくださいませ! 近頃、兄様とイチャイチャ出来ていませんでしたからね!」


「元からしてなか―――体をこっちに向けようとするな! 首がおかしくなるぞ!?」


 そんな風に四人が今日も今日とて騒がしく過ごしていると、黒宮アキトの首に焼き入れられた刻印が蠢き出す。刻印の反応に一瞬だけ気が逸れてしまい、その隙に絞められた状態から逃れた西連寺マコトに押し倒されてしまう。


「邪魔だ! 今、依頼の報せが来たんだよ!」


「私と西連寺家からの依頼! どちらが大事なのですか!?」


「依頼に決まってるだろ!? 無視したら今度こそ処罰なんだぞ!?」


「そんなの私が阻止します! 兄様を処罰するのは私だけです!」


「どっちにしろ処罰されるじゃねぇか! くそっ、背中借りるぞ!」


 頑なに離れようとしない事に黒宮アキトは痺れを切らし、指輪から取り出した白紙の紙を西連寺マコトの背中に置き、そこで依頼の内容を写す。


「今回は何だ? 【呪いのビデオに憑く怪異を祓え。依頼確認後、ビデオは届く】だと?」


 すると、玄関のチャイムが鳴り響いた。家主である黒宮アキトの代わりに斎藤響が出ると、玄関前には黒い箱を持った西連寺家の使いが立っていた。持っていた黒い箱を斎藤響に渡すと、使いの者は後ろに一歩下がり、姿を消した。非現実的な光景に慣れてきた斎藤響は特に驚く事はなく、扉を閉めると、届いた荷物を黒宮アキトのもとまで持っていく。


「アキト、荷物が来てたよ。いかにも怪しげな人物からの、いかにも怪しげな荷物よ」


「テーブルに置いといてくれ……あー、もう! いつまで抱き着いてんだ! いい加減にしろ!」


 抱き着いたままの西連寺マコトを引き剥がそうとしても引き剥がせないので、抱き着かれたまま黒宮アキトは立ち上がった。

 まるでコアラの親子のように抱き着かれたままテーブルに移動してきた黒宮アキトは、テーブルの上に置かれた黒い箱を開け、中に入っていたビデオテープを取り出す。

 ビデオテープをビデオデッキに入れ、ビデオを再生すると、テレビの前にいた黒宮アキトと、黒宮アキトに抱き着いていた西連寺マコトがテレビの中に吸い込まれていった。

 

「あれ? アキトとマコトさん、何処行ったんだ?」


「え?……おかしいわね、さっきまでそこでイチャイチャしてたんだけど……」


 宮本達也と斎藤響は、突然姿を消した二人の行方を家中探し回るが、何処にも二人の姿は無かった。少し目を離した隙に行方が分からなくなった事に斎藤響が不思議に思っていると、宮本達也がテレビを指差しながら唖然としていた。


「どうしたの?」

 

「……いた」


「え?」


 宮本達也が指差すテレビに斎藤響が視線を向けると、何処かの街に立っている二人がテレビに映っていた。 


「「えぇー……」」


 自分達の知らぬ間に、異変に巻き込まれている黒宮アキトと西連寺マコトに、二人は困惑するしかなかった。

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