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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 怪異探偵 神宿る稲
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異常な信仰心

 囲炉裏の火を間に挟んで向き合う黒宮アキトと村長。村長は湯気が立つお茶を一口飲むと、今回の依頼についてを話し始めた。


「初めは、違和感からでした。私は陽が昇る度にイナミ様にお祈りを捧げるのですが、いつも感じていた手応え、でしょうか? 私の言葉が届いていないような気がしたのです。その時は私の祈りが足りないのだと思い、より一層深くお祈りを捧げました。しかし、何度お祈りを捧げても、イナミ様に届いている気配無く、イナミ様と田神村の距離が離れていっているのを確信しました」


「祈りは、村長一人で?」


「お祈りはこの田神村の住人全員がしている事です。そして皆、私と同じ違和感を覚え始めました。しかし、我々は人間。違和感に気付いたとしても、ただ待つ事しか出来ませぬ。そうして、違和感を抱いたままいつも通りの日常を送っていると……現れたのです、怪異が」


「どんな姿でした?」


「それは……それは……!」


 村長の目は大きく見開かれ、湯飲みを持つ手は酷く震え、手に熱いお茶が零れても、その熱さを感じていない程に恐怖を覚えていた。  


「大丈夫ですか?」


「……すみません……今でもあの姿を思い出すと、きょ、恐怖が……!」


「……無理強いは出来ませんね。それでは、その怪異を見た場所は何処ですか?」


「この村の近くに、森があります。そこは迷いの森と言って、その広さと木々で道を見失い、帰り道を見失ってしまいます。迷いの森には食べられるキノコがありまして、我々にとって重要な食材の一つなのですよ」


「重要、と言いますと?」


「人には飢えというものがございましょう。食べ物が無ければ、いずれ死に至ります」


「食べ物なら、田んぼの米があるじゃないですか」


「あれは我々の食べ物ではなく、イナミ様の物でございます。米に手を出す事は、この田神村で一番の禁忌なのですよ」


 田神村の徹底的な信仰に、黒宮アキトは内心呆れていた。村長が言ったように、人は食べ物を食べなければ、いずれ餓死に至る。死ねば信仰も出来なくなり、信仰が無くなった神は消失する。

 信仰心はおろか、神の存在すらも信じていない黒宮アキトにとって、田神村の住人達の考えは理解出来ないものであった。

 

「……まぁ、場所が特定出来ているのなら手間が省けます。怪異は一度しか現れなかったのですか?」


「いえ、何度も……」

 

「それじゃあ、その度にどうしていたのですか?」


「イナミ様が対処してくださっていました。田んぼに近付いた怪異をイナミ様が追い払ってくれていたのです」


「そのイナミ様ってのは、どういう姿で?」


「赤い眼をした白い大蛇でございます。現れてくださるのは満月の夜。月の光に照らされたイナミ様のお姿は、言葉では言い表せない程にお美しく……!」


 先程まで恐怖に満ちていた表情から反転し、村長は恍惚とした表情でイナミ様の姿を思い出していた。その表情は信仰対象だからという理由だけでは片付けられず、異常性を含んでいた。

 これ以上何も有益な情報を得られないと判断し、黒宮アキトはこの家から出ていこうとする。


「祓い士様。今は夜更け、このような時に迷いの森へ行くのは危険かと」


「ええ、森に行くのは明日の朝にします」


「そうですか……あら? お茶をお飲みにならなかったのですね?」


「え? あぁ、すみません。僕、水かコーヒーしか飲めないので」


「こ、こーひー?」


「……いえ、忘れてください。それでは明日の朝、調査を始めていきます。失礼します」


 村長に軽く会釈し、黒宮アキトは外へ出た。夜空を見上げて月を確認すると、今宵の月は少しだけ欠けており、満月となるのは明日の夜になりそうだった。


「残念だ。一度顔を拝んでおきたかったがな。イナミ様って神と」


 黒宮アキトは小声で呟き、田神村の住人達が崇めるイナミ様と呼ぶ存在を鼻で笑い飛ばす。それは神を信じていない黒宮アキトだからこその反応である。

 宮本達也と斎藤響がいる空き家を通り過ぎて集落から出て、黒宮アキトは田んぼへと来た。夕陽に当てられた稲は幻想的であったが、月の光に当てられた稲も美しいものであった。

 

「もったいないもんだ。これ全部を献上だなんて、どれだけ神様ってのは欲が深いんだ?」


 黒宮アキトは愚痴をこぼしながら、おもむろに稲に触れてみた。


「……こいつは、どういう事だ?」


「おーい! アキトー!」  


 振り向くと、集落の入り口には宮本達也と斎藤響が黒宮アキトへ手を振りながら立っていた。黒宮アキトは二人のもとへ歩いていって合流すると、先に二人が案内されていた空き家へと歩き始めた。


「村長さんの話は終わったのか?」


「ああ。森に怪異がいるらしい」


「……それだけか?」


「ああ」 


「たったそれだけって、なんか少なくない? 特徴とかは言わなかったの?」


「ああ」


「……ねぇ、これ解決出来るの? 何も手掛かり無いじゃん」


「森の中って、また長い道歩くのかよ~! 俺やだよ~!」


「いや、森へ調査しに行くのは僕だけでいい。その代わり、二人には調べておいてほしい事がある。それは―――」


 二人にその内容を言いかけたところで、進行方向から佐奈が歩いて来たのを黒宮アキトは目にし、言いかけていた言葉を飲み込んだ。

 佐奈が三人の前にまで歩いてくると、祓い士である黒宮アキトにお辞儀をした。


「祓い士様、村長とのお話が終わったようですね。あなた方がこちらに滞在する間、私が世話役を任されました」


「……仮面、着けてなくていいのか?」


 仮面を着けていない事に指を差して指摘すると、佐奈は自身の顔に触れて仮面を着け忘れている事に気が付くと、慌てて仮面を着けた。既に素顔を見てしまった為、今更仮面で顔を隠す佐奈に対し、黒宮アキトは眉をひそめて困惑した。

 

「こいつ、何?」


「俺達の新しい友達だ!」


「いえ、私はただの世話役! それ以上の関係にはなれません!」


「佐奈さん。もう取り繕っても意味無いから」


「佐奈? 一体誰の事でしょうか!?」


「……なんだこいつ?」

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