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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第一部 怪異探偵編 第1章 日常に潜む非日常
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凄惨な過去

 僕は一度1階に戻り、この家の部屋を一つずつ調べる事にした。とりあえず玄関側から順々に部屋を調べよう。

 一つ目の部屋は、畳が敷かれた五畳程の和室。ここもあまり散らかっておらず、そもそも物があまり置いていない。見て回ってみたが、これといって気になる物は無く、この部屋から情報が得られる事は無いだろう。

 二つ目に調べた部屋は浴室。脱衣所にある洗濯機の中を開けると、服が放置されたままだった。中の服を広げてみると、サイズは成人女性の物ばかりで、男の服や子供の服は無い。浴室のドアを開き、浴槽の蓋を開けると、中は空っぽであった。ここも得られる情報は特に無さそうだ。

  

「ん?」


 浴室から出ようとした矢先、突然鼻をつく鉄臭さが漂ってきた。後ろを振り向いてもう一度浴槽を見ると、浴槽には赤い水が溜まっていた。しばらく見続けていると、赤い水の中から髪の長い女性が顔を出し、光の無い目を僕に向けてきた。


「お前はここの家主か?」


「……」


 女性は何も言わないが、唇が震えていた。何かに怯えている? その事を尋ねようとしたが、瞬きの間に赤い水も女性も消え、漂う鉄臭さは無くなっていた。

 浴室から出ると、奥の部屋から物音が聴こえた。部屋の扉を開けると、そこはリビングとキッチンが一緒になった部屋だった。部屋が荒らされた形跡は無いが、何かが腐った異臭が部屋に充満している。

 キッチンに向かうと、異臭の原因と思われる床下収納が開いていた。中を覗いてみるが、暗闇が広がっており、中に何が入っているのかが分からない。一度リビングへ向かい、壁に掛けられていたライトを手に持ってキッチンへ戻り、床下収納の中を照らしてみた。

 床下収納の中は小柄な体格なら入ってしまえる程に深く、しゃがんだ状態で照らしても底が見えない。中に落ちないよう気を付けながら体を入れ、再びライトの電源を入れた。

 照らし出されたのは、黒いビニール袋。パンパンに膨れ上がっており、破れて出来た小さな穴からは何かが流れた跡がある。

 すると突然、ビニール袋が蠢き出し、小さな穴から茶色液体が流れ始めた。


「タスケテ……タスケテ……」


 声だ。あの袋の中から、声が聞こえた。声変わり前の声の為、男か女かは断定出来ないが、恐らく男の子だ。聞こえる声は一人分……となれば、あの写真の子だろう。どんどん増す異臭がキツくなってきたので、中から体を引っ込め、床下収納の蓋を閉じた。

 さて、大体想像はついてきた。あの写真の男の子と自殺した女性の関係性は分からないままだが、女性が男の子を殺し、袋に入れて床下収納の中に隠した。その後、恨みを持って霊になった男の子が女性を自殺に追い込んだ……こんなところだろう。

 だが、一つ気になる。この家に入る前、宮本達也にだけ声が聞こえていた。その声の主はどっちだ? 宮本達也にだけ聞こえたという事は、何らかの目的があるはず。

 そんな事を考えながら階段へ向かっていると、1階でまだ調べていない所があった。あまり意識せずに扉を開け、横目で中の様子を見た。そこはトイレで、特段何も無いと思った矢先、普通は無いはずの物が床に残されていた。

 トイレの床には、長いロープがあった。そのロープに不信感を持った瞬間、この場所で過去に起きた一場面が見え始めた。


『んー! んー!』


『あー、もう。あんまり叫ばないで。叫んだって外には聞こえないし、聞こえたところで家の中には私達しかいないのよ?』


『んんー!! んー!!!』


『聞き分けの無い子ね……あー、やっぱり写真で我慢すべきだったかな? こんなにうるさくするとは思わなかった……あ、そっか! 喉潰しちゃえば声を出せないもんね!』


『ん!? んんんー!!!』


 ロープで体を縛られ、ガムテープで口を塞がれた男の子。その前に立っていたのは、明るい声色で淡々と話す女性。女性が男の子の喉に拳を振り放った直後、二人の姿は消えた。

 今の光景から、女性と男の子に血縁関係が無い事は明らかだった。女性は男の子を日常的に盗撮し、挙句は誘拐を実行した。だが実物は写真より見劣りしていると感じ、段々と面倒になって殺した。

 いや、待て? さっき見えた女性の髪の長さは肩までしかなかった。だが浴槽で見た女性の髪は、明らかにそれより長い。

 という事は、男の子を殺した女性と、浴槽にいた女性は別人? 


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 2階から叫び声が聞こえた。あの声は、宮本達也の声だろう。僕は急いで階段を上り、宮本達也がいる部屋に突撃した。


「おい!? ありゃ何だ!?」


 宮本達也が指差していた方を見ると、トイレで見た短い髪の方の女性が立っていた。目は血走っており、青白い肌からは黒い血管が浮き出ている。


「な、なぁ! 早く祓ってくれ!!!」


「……お前の目的は何だ?」


「この一大事に口説いてる場合か!?」


「宮本達也、自分の体から出ている線を見ろ。その線は、どこに伸びている?」


「どこって、そりゃあの女の……背中?」


 宮本達也から伸びている黒い線は、女性ではなく、女性の背中に繋がっていた。


「姿を見せろ。その女を操っている者よ」


 女性の背中に隠れている存在を呼び込むと、そいつは姿を現した。その正体は、女性に殺された男の子だった。


「子供?」


「教えろ。なぜ自分を殺した女を使って、宮本達也を狙う?」 


「ボク、ツカワレタ……ダカラ、ボクモツカウ……ソイツ、ボクニナル」


「宮本達也に乗り移るつもりか。悪霊らしいな」


「ボク、マダイキタイ……イタクテ、サムイ……」


「安心しろ。お前ら二人まとめて祓ってやる」


 僕はポケットから指輪を取り出し、右手の中指に嵌めた。右手を目の前にいる二人の幽霊に向け、指輪に嵌め込まれた緑色の宝石に念じ、宝石に光を灯す。溜め込んだ念を一気に放出し、念を受けた二人の幽霊は断末魔を上げながら消失した。

 

「消え……た……」


「お祓い完了。もう線は無いだろ?」


「……無い……じゃあ、もう俺は大丈夫なのか!?」


「ああ」


「あっは! どーもありがとうだぜー!!!」


 宮本達也は涙を流しながら僕に飛び込んできた。本意ではないが、僕は反射的に蹴り飛ばしてしまった。蹴りは綺麗に脇腹に入り、蹴り飛ばした先にある本棚の角に頭を打ったようだが、まぁ大丈夫だろう。


「解決したし、帰るぞ。今から学校に戻るのも面倒だ。飯でも食いに行こう」


「うぅ……あ、頭が……!」


「悪かったよ。詫びに飯奢ってやるから」


「ほんとか!?」


「全然元気じゃねぇか……フッ。ほら、さっさと行くぞ」


「はいはいはーい!」


 宮本達也と共に部屋から出て、1階に降りようとした時、ふと思い出した。そういえば、2階の右側の部屋をまだ調べていない。もう解決した事だし、別に調べる必要も無いが、一応見ておこう。階段から引き返し、右側の部屋の扉を開けた。

 部屋の内装から察して、子供部屋だろう。適当に辺りを見渡し、勉強机の上に置いてある写真立てを手に取った。

 その写真には、髪の長い女性と男の子が仲睦ましく写っていた。

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