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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 怪異探偵 神宿る稲
19/95

友達

 仮面の人物に誰も使っていない空き家へと案内された宮本達也と斎藤響。部屋は一つしかなく、その部屋の中心には囲炉裏がある。


「さぁ、どうぞ上がってください。今、火を起こしますから」 


 そう言って、仮面の人物は先に家へと上がり、火打石で囲炉裏に火を起こした。


「「おぉー」」


「ささ、どうぞこちらへ」


 仮面の人物は、着物の裾から白く細い腕を露わにして、二人を囲炉裏の前へ誘った。二人は特に警戒せず、囲炉裏の前へ座る。穏やかに燃える囲炉裏の火にあてられ、体だけでなく、心までも暖かくなった。


「焚火の火って、どうしてこう落ち着くのかしらね~」


「焚火じゃなくて囲炉裏な~。いや~、なんだか懐かしい感じになるな~」


「懐かしい? あー! 故郷を思い出したのですね」


「え? いや、そうじゃなくてですね……というか、仮面取らないんですか?」


 宮本達也が放った一言で、暖かった家の中は気まずい雰囲気で冷え切ってしまう。空気の変化に気付いていない宮本達也に対し、斎藤響は宮本達也の首に腕を回し、仮面の人物に背を向けた。


「あんた、突拍子も無く言うんじゃいわよ……!」


「だ、だって気になるじゃんか……」


「頑なに外さないって事は理由があるのよ……! 火傷とか傷とか……!」


「あ……ごめん」


「私に謝ってどうすんのよ……!」


「アッハハハ! いやはや、すまない。この仮面は護衛衆として着けていなくてはいけなくてな。客人の前でなら、許されるでしょう」


 すると、仮面の人物は後ろで結んでいた紐を解き、仮面を外した。仮面から出てきたのは、高い背丈と大人びた雰囲気とは真逆の幼い少女のような顔立ちであった。


「私の名は佐奈。人に名乗るは、生まれて初めてだ」


「佐奈さん、ですか。私は斎藤響。こっちの馬鹿が、幼馴染の宮本達也です」


「誰が馬鹿だ、誰が」 


「そうね、間抜けの方が適切かしら?」


「同じ意味じゃねぇか!」


「言い方の問題よ。こっちの方がより悪口でしょ?」


「くっそ~……!」


「アッハハハ! お二方は、本当に仲がよろしいのですね! 見ているだけで、私も幸せになれます。それに、羨ましいです」


 佐奈は仲の良い二人を見て、微笑ましさと同時に、二人のように打ち解けられる存在がいる事に羨ましさを持った。 

 

「ここ田神村には、古くから田んぼの神、イナミ様を信仰しているのです。皆で米を育て、立派に育った米をイナミ様に上納して、我々が永く健康でいられるように祈る……ですが、あの怪異が現れてから、イナミ様は我々の前に姿を現れてはくれなくなりました」


「俺達は、その怪異を祓う為にここへ来ました」


「と言っても、祓うのはアキトなんですけどね」


「お二方は、祓い士ではないのですか?」


「全然! 俺達はただの学生ですよ! 俺が情報担当で、響が俺の護衛担当です!」


「堂々と言ってるけど、情けないとは思わないの? 男としてさ」


「それぞれに合った役割ってもんがあるだろ? それにお前、戦う事以外で何の役に―――イデデデ!!!」


 宮本達也の言葉にイラッときた斎藤響は、宮本達也のほっぺをつまみ、引き千切らんばかりに力強く引っ張った。あまりの痛さに宮本達也は涙を流し、斎藤響の肩を何度も叩いて降参の意思を伝える。頬から指が離れると、宮本達也のつねられた頬は赤くなっており、未だ痛みの余韻が残っていた。 


「まったく、少しは私の事を女の子として扱いなさいよ……あ、ごめんなさい! 話を脱線させちゃって!」


「いえいえ、気にしておりませんよ。むしろ、あなた方の事について興味があります。怪異の事については、村長様が祓い士様にご説明してくださってますので」


「私達についてって、どんな?」


「そうですね……あなた方三人は、どのように出会ったのですか?」


「私達の出会いですか。元々、こいつと私は幼い頃から親交があって、アキトと知り合ったのは、こいつと一緒に怪異に巻き込まれた事がキッカケですね」


「あれはヤバかったよな~。何度死ぬ瞬間を感じた事か……」


「そうね、生きた心地がしなかったわ……」


 二人は掛け軸の世界に閉じ込められ、その世界で彷徨っていた怪異に何度も殺されかけた過去を思い出した。どれだけ大変な目に遭ったのかは、二人のウンザリした表情から想像できた。


「殺されかけたというのに、祓い士様の傍にいるのですか? 怖い目に遭ったというのに?」


「まぁ、確かにそうですけど。こいつが乗り気になっちゃって、それで私も付き合ってるんです。達也は私が守ってやらないと、すぐ死んでしまいそうで」


「お前は俺の母親か」


「反対の頬もつねられたいの?」


「ごめんなさい」


「……斎藤様は、宮本様の事を慕っていらっしゃるのですね」


「へっ!? い、いや違います! 私はただ達也の事が心配なだけで!」


「羨ましいです。あなた方のように、誰かを慕える事が……田神村では、特定の誰かに想いを抱いてはいけない決まりがあるのです」


「それは、どうして?」


「イナミ様への信仰が薄れてしまうからです。私達が今こうして生き永らえているのも、全てはイナミ様のお力のお陰。私達は身も心も、イナミ様に捧げなければいけないのです」


「なんだか、大変ですね……誰かを想っちゃ駄目って……」


「え!? じゃあ、俺達友達になっちゃ駄目なんですか!?」


 再び宮本達也の言葉で、気まずい空気が流れてしまう。学ばない宮本達也に対し、斎藤響は拳を振り上げたが、宮本達也の純粋な表情を見て、振り下ろせずにいた。


「友達、にはなれませんね……残念ながら」


「そんな~、せっかく仲良くなれたのに!」


「私と仲良くなっても、何も楽しくはありませんよ?」


「何言ってんですか! こんなに話して、楽しくない訳ないでしょ! あーあ、せっかく美人さんと友達になれると思ったのに」


「見直しかけたのに最後で台無しよ! この間抜け!」


「痛っ!? あのな! 美人と友達になれるのは、男の人生で片手で数えるくらいしかないんだぞ!? その一回分が無くなった悲しみを分かれよ! あー、分からんか! お前はゴリラだしな!」


「なっ!? 二度と口がきけないようにしてやるわよ!」


「ごめんなさいごめんなさい! 言い過ぎましたー! だから殴らないでー!」

  

「問答無用!!!」


 斎藤響は宮本達也に飛びかかり、マウントを取って顔にビンタの連打を喰らわせた。悲鳴を上げても止まらぬ一方的な暴行に、二人の関係を羨ましがっていた佐奈も、流石に苦笑いを浮かべた。 

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