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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 怪異探偵 神宿る稲
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怪異探偵

 西連寺家の請負人となった黒宮アキト、宮本達也、斎藤響。三人は非公認部活動【怪異探偵】を設立。これにより、活動資金や備品、活動中の出席免除を獲得。非公認となっているのは、怪異探偵の活動の管轄が学校ではなく、西連寺家にあるからだ。その為、怪異探偵の部活動はおろか、三人の存在すら無いものとして扱っている。

 つまりは、三人は幽霊と化した。その事に誰も疑問を持つ事も、疑問に感じてしまう事も許されぬ、暗黙の了解。   

 そんな三人は、出席免除にかこつけ、平日の昼間からファミレスに集まっていた。今後の活動についての話し合いという名目で、学校をサボっているのだ。 


「……なぁ、最近何か面白い事あったか?」


 宮本達也はジュースのストローを噛みながら、気だるげに二人に話題を振った。それに反応したのは、隣の席に座っていた斎藤響であった。


「藪から棒にどうしたのよ……」


「いや、だって何も話さないままだったし……ほら、もう1時間は無言のままだったぞ?」


「それぞれやる事があるのよ。私は勉強。アキトは栄養補給」


「え~、勉強なんかやんなくていいじゃん。俺ら出席は免除されてるんだろ?」


「出席免除があっても、勉強は将来の為に必要な事なの」


「まったく、真面目ちゃんがよ……で、アキト。お前いつまで食ってんだ?」


 二人の向かい側の席には黒宮アキトが座っており、次々とテーブルに置かれてくる料理を食べ続けていた。1時間以上食べ続けているというのに、箸が進むスピードは衰えず、まだまだ平気といった表情をしている。


「よく食うな~。若いからって理由だけじゃ説明つかないぞ、この量」


「最近、ずっと修業に明け暮れていてな。どうしても覚えとかないといけない術があって練習しているが、これが上手くいかなくてな」


「あ、だったらさ。マコトちゃんに教えてもらえばいいじゃん」


「これ以上調子づかせたら面倒な事になる。今でさえ「西連寺家の請負人になったから、実質兄様は西連寺家の人間」とか言いだしてきたぞ」


「いいんじゃないかしら。最初は嫌な子だと思っていたけれど、色々と私達の事をサポートしてくれる良い子だし」


「そうそう。年下ながら気遣いが出来る女性、しかも外見も良いし。いっその事、受け入れてあげろよ」


「君達がいくら賄賂を貰ったかは知らないが、僕は恋愛に対して全く興味が無くてね。それに、マコトは西連寺家の一人娘だ。いつかは他の家の人間と結婚する事になるだろう……そうでなくては困る」


 黒宮アキトは最後の料理を食べ終え、空になった皿を片付けてもらうと、食後のアイスコーヒーを飲み始めた。

 三人が自由気ままに談笑していると、黒宮アキトの首に焼き付けられた刻印が蠢き出した。黒宮アキトは溜息を吐くと、飲み始めたばかりのアイスコーヒーを一気に飲み干した。指輪から保管していた一枚の紙をテーブルに出し、その紙の上に右手を置いた。

 すると、着けていた指輪が緑色に光り、白紙の紙に字が書かれていく。字が書き終わると、紙を二人にも見えるように中央へズラし、書かれている文を読み上げる。


「田神村にて怪異の影あり。現地へ赴き、村や住人の調査、そして対処を命ずる。期限はこの依頼書発行後、3日以内とする……だそうだ二人共」


「3日って、結構短くない? 前の時はもっと期間があったのに。それにこの書き方だと、まだ怪異かどうかも分からないんでしょ?」


「田神村……確か、田んぼの神が村に眠っているって伝説のある所だ。住人は外の人間を嫌っていて、噂じゃ訪れた人間を鍋に入れて食っちまうって話だ」


「うわっ、そんなの村人が怪異じゃん……」


「まぁ、その噂が本当か嘘かは現地に行ってみてからのお楽しみだ。僕は先に駅に向かうよ。二人は準備してくるといい。着いて当日の内に解決出来ない可能性も考慮してな」


 そう言って、黒宮アキトは西連寺家の名前で領収書を貰い、店から出ていった。黒宮アキトが着けている【破邪の指輪】には、怪異や異形を祓う他に、物を保管する能力がある。急な遠出の任務を受けても、あらかじめ物を保管しておけば困る事は無い。

 駅に着くと、電車を待つ人々がそれぞれの方法で時間を潰していた。黒宮アキトは時刻表を確認し、田神村の近くで降りられる駅の切符を三枚購入した。  

 空いているベンチに座って二人が到着するのを待っていると、指輪に保管していた妖刀が呼び出してもいないのに勝手に出てくる。


「勝手に出るなって言ったろ」


「アキトよ。今回は我に出番があるのだろうな?」


「知るか。あったとしてもお前は強力過ぎる。使う場所や場面が限られてるんだよ」


「しかしだなアキトよ! かつて怪異であった我は今や刀となった! お主を見込んでなったのだ! それなのに一度も扱われなければ、一体我は何の為に刀となったのだ!?」


「自分で決めた事を後になってグチグチ言うな。僕を見込んだと言うなら、僕に黙って従ってろ」


「うぐぐぐ……ええい!」


 すると、妖刀は自ら鞘を出ようとし始めた。慌てて黒宮アキトが鞘に戻すが、それでも妖刀は諦めずに出ようとする。


「お前、何考えてんだ……!」


「我の力を見ればお主もきっと我を扱うはずだ! 並の怪異などゴミ同然よ!」


「知るか! 僕が余計な迷惑を被る事になるだろうが……!」


「なぁ、少しでいい! 我に何か斬らせてくれ! あそこでボーッと空を眺めている男でも、無駄に肌を露出している女子でもいいから!」


「ぐぐぐ……だぁっ!!!」


 黒宮アキトは妖刀との力勝負に押し勝ち、自分で鞘から抜け出せぬように封印を掛ける。黒い布で頑丈に縛られた妖刀は、身を震わせながら鞘から出ようとするも叶わず、やがて自ら指輪の中へと戻っていった。

 その後、宮本達也と斎藤響が合流すると、二人は汗を流しながら疲弊している黒宮アキトの姿を見て困惑した。


「ど、どうしたんだよアキト?」


「なんか凄く疲れてない? なんかあった?」


「……何でもない。これ、二人の切符だ。そろそろ電車が来るぞ」


「「う、うん……」」


 三人は電車に乗り込み、ガラガラの電車内で適当に座った。やがてアナウンスが入り、三人だけを乗せた電車は、田神村の近くにある駅へと向かっていく。

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