試験、始まる2
戦闘描写((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
合図と共に受験生達は、思い思いに動き出す。近くの受験生にこうげきする者。とりあえず走って距離を取る者。魔法の詠唱を始める者。様々だ。
皆が思い思いに戦い始めた中、その中でも一際目を引いたのは、桜色の和服を着た女性だ。いつの間にか、袖を紐で縛り、肘から先が身軽になっている。手元には、彼女の身長と同じぐらいの長さの木の棒を携えている。刃がついているわけではなく、棒を握った彼女の親指と中指が付いているので、こん棒のように太いわけでもない。本当にただの棒だ。
その少女が、実に鮮やかな動きで周りの受験生を倒していく。
足さばきや上体を逸らすことで攻撃を回避し、突き・払い・フェイントを巧みに使い分け、棒を相手へと的確に打ち込んでいく。
(突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにもはずれざりけり。だったか? 勇者が残した戦闘技術のうちの一つを、代々受け継いでいる者達がいるって歴史書に書いてたな。その中の、杖術を伝え残している流派かな? てことは、あの和服は道着ってやつか。楽しくなってきた)
ルークは図書館に行った時、過去の勇者達についても調べていた。最強の代名詞であり、複数の魔王と魔族の軍勢を、たった一人で殲滅したと言われている勇者。その力を知ることで、自分はもっと高みに行けると考えたのだ。
だが、歴史書に書いていたことと言えば、勇者の戦闘技術がいくつかの流派となって受け継がれているということや、勇者の居た世界の知識がこの世界に広まっているということのみ。
その概要は少ししか書いておらず、ギルドに行って尋ねたところ、いくつかの流派が他の街に存在するが、王国に住んでいる流派は確認されていないそうだ。いくつかの流派を聞いて、ルークは「探してみるのは後回しかな」と考え、今気にするのは止めたのだった。
その勇者の技を使う者が目の前に現れたのだ。元々、強い相手を見るのも戦うのも好きなルークのテンションは上がっていた。
(と言っても、初めて見るから確証はないんだよな……まあ、あの動きをその辺の奴が出来るとは思えないし、相当強いのは間違いない。何より、あんな戦い方や身体の使い方は初めて見た。参考になるな)
視線の動きや足さばき、武器の使い方、その一つ一つをしっかりと目に焼き付けていく。
ただの長い棒を武器として戦っているのにも関わらず、棒で相手の武器を絡み取り、そのまま押し出したり、襟元を掴んで投げ飛ばす。間合いが広い上に、近づいても戦える手段を持つ彼女は、かすり傷一つ負うことはない。
(桜色の和服で無駄のない綺麗な動きをしてるから、花が踊って……舞っているみたいにも見えるな。それに、袴によって体重移動や関節の動きがわかりにくくなってる。なんか完成されてんな。あの子が本気を出すような相手、あの中にいないだろ)
和服も杖術も、勇者が伝えた技術の一部であるし、長い年月をかけて動きが洗練されている。和服を正装とし、普段着が和服で着慣れているので、最早身体の動きを邪魔することもない。それに加えて、ルークは知らないが、この女性はその流派の跡取りであり免許皆伝である。相当の修練を積んでいる彼女が、そこら辺の者達で相手になるはずもない。
みるみるうちに受験生の数が減っていき、戦い方を考察しながら観ているうちに、その少女以外の受験生は全て転送されてしまい、舞台には彼女だけとなってしまった。
「そこまで! 第一グループの試験は終了だ。第一グループの受験生で合格者は七十七番のみ! 他の者は不合格だ。帰ってよし。続いて第二グループの試験を行う。呼ばれた者から円に入るように」
あまりにもあっさりと不合格の決定を出されたことにより、動揺が広がる。その決定に納得がいかない者達が騒ぎ出すのだった。
「ちょっと待ちいや! それはないんちゃうか!」
一人の少年の言葉に、不合格にされた者だけでなく、まだ戦っていない者達まで抗議し始めた。
「試験管は言うたやないか。勝敗は合否に関係無いて。あいつらは負けたけど、それだけじゃ不合格にはならんはずやろ?」
「そうだな、勝敗自体は関係無い。だが、こうも言ったはずだ。 『百人全員強者だと判断すれば、倒された奴でも合格にする』と。今回はその逆だ。二十四人が、この学院へ編入するに値しないと判断したまでだ」
そう、レイモンド試験管は、勝敗を考慮したわけではない。敗者の中にも、光るものがあれば合格にしていた。
「あまりにも弱すぎる。あれでは、ランキング戦の上位に入ることは不可能だ。今更この学院に弱者を増やす必要はない」
「弱者やて! じゃあ何や、この学院の生徒はみんな、二十四人抜き出来るっちゅうんかいな」
「出来ない者もいるだろうな。それどころか、ここに居るどの受験生にも勝てない生徒もいるだろう」
「はあ!?」
レイモンド試験管は、弱者は必要ないと言った。にもかかわらず、学院にはもっと弱い生徒も居るという。
少年は到底納得出来ず、レイモンド試験管に詰め寄った。
「なんで在学生よりも強いのに合格できへんのや! なんや在学生を贔屓しとるんか? 話にならんで。もういいわ。あんたより上のもん呼んできいや」
少年は、レイモンド試験管では話にならないと考え、別の者を呼んでくるように言い放った。その様子を「随分と上からだなあ」とルークが思っていると、レイモンド試験管が急に笑い出した。少年や周りで騒いでいた受験生達は一瞬、言葉に詰まってしまった。
「勘違いしているようだから、この編入試験の意義について教えておこうか」
「い、意義やて?」
「ああそうだ。本来、編入試験など行う必要は無い。それでも編入試験を行う理由だ」
「必要は無いてどうゆうことや。編入試験は、途中からでも学園に入るための制度やろ。初等部で受からんかった奴らに用は無いってか?」
「その通り。そもそもこの学園は寮があり、食堂も無料。学内施設は全て無料開放しているし、小遣いが欲しければギルドに登録しての冒険者活動も認められている。学園生はギルド登録の年齢制限が免除されるからな。
成績によって進級出来ないことも無く、どれだけ成績が悪くても学校から退学させることは無い。つまり、一度入学してしまえば学院生は九年間、お金を一切使わずに生活することも可能だ。それにより、家の事情や、本人の希望でもない限り、退学者が出ることは無い。退学者が出ないのなら、わざわざ試験をしてまで編入生を受け入れる必要は無い。生徒数は十分だからな。増やしすぎても、金が掛かるだけだ」
そもそも初等部の入学の時点で、なるべく多くの生徒を受け入れている。一学年二百人。九学年で千八百人だ。そこに、帝国や聖国の留学生等を受け入れることもあり、財政的にも寮の部屋的にも、それ以上受け入れることは簡単ではない。
レイモンド試験管は一息つくと、再び話始める。
「それでも編入試験を行う理由だが、基本的に、九年間同じ顔ぶれで過ごすことになる。学力は本人の努力次第だが、劇的に順位が変わることは少ない。実技は、相手の戦い方を覚えてしまう。同学年の戦闘スタイルを全て調べた生徒もいる。新しい技や魔法を身に着けても、何度も見せれば新鮮さは無くなる。まあ 同じ環境で、常にトップを走る者もいるし、学院の外で腕試しをしている者もいる。授業は一切受けず、ギルド通いをしている者もいるぐらいだ」
レイモンド試験管は、向かいの客席にいる在学生達を見渡し、更に続ける。
「だが、それでは駄目なのだ。学園はただの宿泊施設ではない。この国を、この世界の未来を担う人材を育て、導く為に存在するのだ。そのために外部から新しい風を取り入れることの一環として、編入という形で新しい人材を受け入れている」
レイモンド試験管は、再び少年を、受験生に目を向けると言い放った。
「つまり、在学生のために変化と何かしらの切っ掛けをもたらすための編入生に、何の特徴もない弱者は必要無い。偉そうに文句ばかりで実力の伴わない弱者は必要無い。編入試験は、断じて弱者救済等ではない。この学園の生徒達に、新しい刺激を与えるための起爆剤だ! そして、合否を決めるのは試験管である私だ。編入試験において、私より上の者等いない。この学園に編入したければ、私にそれ相応の実力を見せてもらおう」
そう言って、再び受験番号を二十五人分言い、円に入るように促す。
「今番号を呼ばれた者は第二グループだ。自身が無いなら今すぐ帰ってよし。試験を受ける者は円に入りなさい」
番号を呼ばれた生徒達は、戸惑いながらも円に向かって歩いていくのであった。