試験、始まる
読みやすく書けてるのかなあ
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試験当日
グランの店を後にしたルークは、魔物のコンと一緒に泊まれるホテルをグランから聞いていたため、そこに泊まった。そこそこ広い部屋と美味しい食事、各部屋に設置されているお風呂。最近まで森で暮らしていたルークにとって、快適すぎるほどに快適であった。
試験が来週だったため、王都の街を散策し、途中で見つけた図書館や飲食店に入り浸りながらも迎えた試験当日。
コンは、元気に街へと探検に行ってしまったので、ルークは一人で試験会場である王立騎士学園第一校舎へと足を踏み入れた。
第一校舎の一階フロアにある教室には机と椅子が並んでおり、何人もの受験生とみられる者達、ざっと見て百人程の人が座っていた。壁際には、教師と見られる者達の姿もある。
「高等部編入試験を受ける方は席に着いてお待ちください。机に置いてある番号札は、本日のあなた方を識別するための物になりますので無くさないように。」
今日は高等部の編入試験しか無く、学院生は春休みだそうだ。つまり、ここにいる者達は、教師を除けば皆受験生なのだろう。
自信も席に着き、番号札を胸ポケットに入れ、周りを軽く見渡してみると色々な人が来ているのがわかる。
高そうな服に身を包み、首や手にアクセサリーを付けている者、
暗い雰囲気で俯きながらブツブツと何かを呟いている者、
鋭い目つきで周りを睨みつけている者、
上は桜色で下は黒色の和服と呼ばれる服を着ている少女(勇者が広めたと言われる衣服の一種。図書館で読んだだけなので自信はない)等が、試験開始を今か今かと待っていた。
(高等部の編入試験を受けるんだから、全員十五か十六だよな……)
個性豊かだなと思いつつ、試験開始を待っていると、教室の前にある扉から一人の男性が入ってきた。
短髪をビシっとセットし、眼鏡をかけていて、そのレンズから覗く瞳は受験生を値踏みしているような印象を受ける。手には長方形の黒い鞄を持っている。
「試験開始時刻になった。これから試験を始める。私は今年の高等部編入試験の試験管を務めるレイモンドだ。高等部一年の学年主任を務めることになったので、試験に受かればまた会う機会も出来よう。皆の検討を祈る」
そう言ってレイモンドは鞄から紙の束と大量の鉛筆を取り出すと、軽く手を振った。それと同時に紙と鉛筆が浮かんで受験生の元へと飛んで行く。
魔法かギフトか、どちらを使ったのかまではわからなかったが、息をするように紙と鉛筆を操作しているので、かなりの使い手なのは間違いないだろう。
「今配った問題を解いていけ。制限時間は三十分だ。」
いきなりのことで戸惑う声も上がったが、始め!の声で一斉に問題用紙に取り掛かった。
(さてさて、どんな問題かな)
ルークが行った図書館には、編入試験の過去の問題集が置かれていた。特に難しいものではなく、人類の歴史や魔法について、貴族階級と簡単な計算問題だった。本当に最低限の知識であり、周りの人々がスラスラと書けていることから、筆記試験で落とされる人はいないだろうと思える。
終了時刻と共に答案用紙が回収され、レイモンド試験管に案内されて受験生達は外に出る。
第一校舎の傍にある第一闘技場で、実技試験をするためだ。
闘技場は、ドーナツ型のような建物になっている。真ん中には縦横百メートルある舞台があり、その周りには客席が備え付けられている。舞台には、薄い膜のようなものが張られており、巨大な水滴のようにも見える。
客席は舞台から離れる程高くに設置されており、最後列からも舞台全体が見える作りだ。
ルークたち受験生は、客席へと案内されている。その向かい、舞台を挟んだ正面の席を見てみると、何故か制服を着た多くの生徒達が座っていた。
(観戦か? 今日は休校日だって話だし、興味本位で見に来てるのかな?)
なんてことを考えていると、レイモンド試験管が正面の客席を見上げながら、受験生達に話始める。
「制服を見てわかる通り、向かいの客席に居るのは在校生達だ。編入試験に受かれば同級生となる者に興味があるのだろう。まあ、ランキング戦の脅威になりそうな奴がいないか調べる意味合いもあるだろうがな」
ランキング戦とは、学院内での強さを順位付けするためのものであり、上位になればなにかと優遇される。
帝国・聖国と合同で開かれる三国戦技祭へ出場するための校内予選には、順位が低いと参加すら出来ない。
更にランキングは、名前だけだが国全体へ公表されている。国民にとっては一種の娯楽であり、魔王が何体も存在するこの世界では、強者が自国にいるということが国民を安心させるのだ。
「実技試験は模擬戦を行う。受験生全員を四つのグループに分け、それぞれのグループ全員で戦ってもらう。ちょうど百人いるからな、二十五人ずつに分けるから、名前を呼ばれたものからそこの円の中に入ってもらう」
レイモンド試験管の指先に視線を向けると、客席の最前列の前にある通路、そこには人が五人ぐらいは入れそうな円が地面に書かれていた。
二十五人も入れなくね?とか考えていると、受験生の一人が声を上げた。
「ちょっと待ってくれや! 四グループに分かれて戦うって、合格者は四人ってことか? 受験生は百人もいるんやで。それは少なすぎやろ!」
その受験生の言葉に追従するように、他の受験生も異議を唱え始めた。元々の合格者数が少なければ、自分が合格する可能性も低くなる。百人中、五番目に強くても、合格者が四人ならば不合格になってしまう。そう言った考えなのだろう。受験生の半分以上が騒いでいる。
ルークからすれば見当違いも甚だしいことを言っているのだが、関わりたくないので様子見に徹することにする。
「誰がいつ合格者は四人だと言った? これは戦闘技術を見るための試験であり、何人倒そうが関係ない。弱者が弱者を倒したところで合格にはせんし、逆に、百人全員強者だと判断すれば、倒された奴でも合格にする。お前たちが受けているのは、王立騎士学院の高等部への編入試験だ。例え四人であっても弱者はいらん」
レイモンド試験管の言葉に、騒いでいた受験生達は、安心したかのような表情を浮かべている。自分が優秀だ、強者だと思っているのだろう。
「それなら安心や。わいは確実やし、他にも強そうなのは、ぎょーさんおる。今年の合格者は大量やなあ」
わはははと受験生同士で笑い合っている。合格した自分の姿でも想像しているのだろう。同じように笑っている受験生が大勢いたので、ルークは「こいつら実は強いのか?」と考えてしまった。
一撃で仕留められそうな印象しかないのだが、もしかすると上手く魔力を隠しているだけかもしれないと考えていると、再びレイモンド試験管が話始める。
「自信があるのは良いが、結果で見せてもらおう。そこの円に入ると舞台内に転送される。致命傷を負うか、ステージを覆っている膜に触れると円に強制転送だ。中で負った傷は、舞台から出ると無かったことになる。一撃で死んでもだ。安心して戦うといい。中と外は完全に別空間であり、観ることは出来るが音は届かない。各席にモニターとヘッドホンが付いているから、音が聴きたければそれを使え。武器などが必要な者は、名乗り出ろ。木製だが用意する。皆の全力を見せてもらおうか」
その後、何人かの教師が受験生の希望を聞き、木製の武器を用意していく。ルークは素手で良いため、用意してもらっていない。全員の準備が済んだ後、二十五人分の番号が呼ばれ、円の中に入った者から舞台内へと転送されていく。
ちなみに、前の席の背もたれ部分にはモニターが付いており、操作することで舞台の一部をアップで観ることが出来るようになっている。
モニターを色々操作して遊んでいる内に転送が終わったらしく、レイモンド試験管が黒くて短い棒のようなものに向かって話始める。おそらく、それに向かって話した言葉が舞台の中に届くのであろう。
「これより第一グループの試験を行う。ルールは何でもあり。降参するか、膜に触れるか死ぬかすれば、無傷の状態で客席に強制転送される。その舞台上ならば死ぬことはない。何でもありだ。全力を以て戦え。制限時間は三十分。では始め!!」