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お嬢様、現る



「王都に来たばかりなので、とてもありがたいです。早速なんですが知りたいことがありまして」


 そう言いながら先程ギルドの資料室で読んだことについて質問を始める。


「資料には、魔王は増減を繰り返すものと書いてあり、その時代の魔王の情報はギルドにまとめられていると書いてありました。ですが、資料室の司書に聞いたところ『現在の魔王が九人いることはわかっているが、どんな魔王が何処にいるのかは、ギルドでも二体しか把握していない』と言われました」


 グランには、この後に何を言うつもりなのか。何を望んでいるのかがわかってしまった。


「なので、出来る限り、現存する魔王の情報を集めてほしいというのが僕の望みです」


 予想通りであり、とてつもなく難易度の高い望みに、グランは一瞬言葉を失ってしまった。ルークが言うように、魔王の情報がギルドにまとめられているというのは正しい。だが、正しいからこそ難しいのだ。

どの時代でも、ギルドは魔王の特別警戒対象として魔王の情報を収集し続けている。


 そもそもギルドは勇者が考案し、その弟子等が広めて大きくしてきたものだ。今では、ほぼ全ての街に存在し、対魔物から子供の遊び相手まで、様々なことに対応している。その中でも、ギルド発足時から現在まで、一貫して行っていることがある。


 それが、各魔王の所在の把握だ。


 魔王は、一体でも国を亡ぼすことの出来る存在である。生まれた時から魔王としての圧倒的力を持つ者がいる。そして、稀にだが魔物が進化して、いつの間にか魔王が増えている、なんてことも起こるのだ。魔王はいつどんな状況で生まれるのか、誰にもわからない。


 その魔王の所在を常に把握しておき、攻めてきた時には何を置いてでも対応する。

そうしなければ、気づいた時には国が壊滅状態、なんてこともあり得る。例え正面から戦ったとしても、犠牲無しで倒せるわけでもないが……


 そんな魔王が複数体存在するのだ、最重要で警戒するのは当然である。それがギルドの発足時からの最重要使命である。にもかかわらず、現在の魔王の情報が少ないのだ。ギルドとしても、手を抜いているわけではないだろう。長年、全力で取り組んでいるはずだ。


 そのギルドでさえ集められていない情報だ。一体どうすれば調べることが出来るのか。だが、グランは断らない。断るなどありえない。


「承知した。正直、かなり難しいことでな……どれだけ時間がかかるかわからんので、いつまでに調べるといったことは約束出来んが、それでも良ければ全力で当たらせてもらおう」


 時間がかかることについて了承したルークは、お礼を言って、もう一つの質問をした。


「あと、学園の入学試験の場所と、日取りを知っていれば教えてもらえるとありがたいです」





 そうして、ルークとグランはいくつか話をしていた時、ドアを軽くノックする音が聞こえてきた。


「グラン様。ヴァーミリオン家のエリナです。お姿をお見掛けしましたので、ご挨拶させていただきたく参りました」


 グランは、ルークに断りを入れて扉へと向かい、開けるとそこには十五歳くらいに見える二人の少女と、二十歳くらいの男性がいた。

少女は車いすに座っており、執事服を着た男性が隣に立っている。その二人の後ろにはもう一人の少女が立っており、グランに対して軽く頭を下げていた。


 車いすの少女は、ピンクがかった瞳に、腰まである長く綺麗な銀髪で、後頭部には黒く大きなリボンを付けている。制服らしき物を着ているので、学院の生徒だろうか。

横に立っている男性は、青みがかった黒い瞳に、深い青色の髪である。執事服を着ており、車いすの少女のそばに控えているところを見るに、専属の執事であろう。



「おお! エリナ様ではないですか。我が商会のレストランにご来店いただき、誠にありがたいことですな。わざわざこちらまで足を運んで頂かなくとも、係の者に言っていただければこちらから参ったのですがの」


 グランは、孫でも相手にしているかのような朗らかな笑顔を見せながらそう言うと、ポケットからリボンの付いた小さな木の箱を取り出した。


「それはそうとエリナ様、お誕生日おめでとう。これは、わしからの誕生日プレゼントですじゃ」


 エリナは、誰もが見惚れるであろう微笑みを浮かべながら、木の箱を受け取った。


「ありがとうございますグラン様。わたくしのお誕生日を覚えていて下さったのですね。とても嬉しく思います。こちらのプレゼント、開けてもよろしいですか?」


「大事な取引先のご令嬢でありますが、わしにとっては孫のようなものと思わせてもらっとりますのでな。大事な孫娘の誕生日を祝わない者など、おらんじゃろう? どうぞ開けてみてくだされ」


 エリナは、優しい手つきでリボンを解くと、ゆっくりと木箱を開ける。中にはネックレスが入っていた。金色の台座に、光を反射して青く光る石がはめ込まれており、エリナが首にかければ、綺麗な銀髪との色のコントラストが楽しめるだろう。


「わあ……とても素敵です! 光に当てると綺麗な青色になるのに対し、当てなければ藍色……カイトの髪の色と同じで、わたくしとっても気に入りました! ありがとうございます!」


 カイトとは、隣で付き従っている執事のことである。


「がっはっはっは。気に入ってもらえたようでなによりじゃ。その笑顔が見られただけでも、遥々聖国まで言った甲斐があったというものじゃ」



 グランはルークに助けられる前、聖国に誕生日プレゼントの為の宝石を買いに行っていた。

令嬢が最も信頼する執事の髪と同じ青色の宝石をあしらったネックレスを送ろうと考えていたのだが、いくら探しても王都には無かったのだ。


 だが、諦めずに探していると、聖国の近くのダンジョンからごく稀に出現すると聞きつけ、大急ぎで聖国へと向かった。


 聖国へと着いた後、偶々宝石を売りたいと考えている冒険者がいると聞きつけ、買い取ったのである。そのまま聖国の職人に、宝石でネックレスを作らせて急いで帰ってきた道中に、ルークと遭遇したのである。


 エリナは、改めてグランに感謝の気持ちを述べると、ネックレスを胸元に当てて執事に見せている。


 ルークから見ても、確かにグランへと向ける顔は親愛を感じるものであるが、執事へと向ける顔にはそれ以上の感情が見え隠れしていた。


(相手の最も好む人を連想させるような贈り物か。ご令嬢の様子を見るに、喜ぶ演技ってわけでもなさそうだから大成功だな)


 良いものを見せてもらって心が温かくなっていると、ふと視線を感じた。エリナの後ろに立っているもう一人の少女だ。ルークの視界に入っているので少し目を動かしてみると、その少女と目が合った。


 後ろに立っている少女は黒い瞳に、鎖骨辺りまでの黒髪で、少しクール系に見える。車いすの少女・エリナと同じく制服らしき物を着ているので、こちらも学院の生徒だろう。


 その瞳はこちらを見つめていたが、ルークと目が合うと少し視線を逸らした後、軽く頭を下げてきた。ルークも、それにつられて頭を下げる。


「お嬢様。グラン様。お二人が蚊帳の外になっておられます。軽く紹介してはいかがでしょうか」


 執事・カイトの言葉により、それぞれが連れを放置して盛り上がってしまっていたことに気付いたエリナとグランは、己の行いを恥じた後、紹介することにした。


 初めにグランがルークを紹介し、出会った経緯を話している内にエリナが軽く涙ぐんでしまい、グランの無事を心より感謝してきた。

学院を受験するという話に入った時、エリナも学院に在籍しているので、学院でわからないことがあったら何でも聞いてくださいと言った。面倒見の良い人なのだろう。


 次はエリナ側の紹介だ。エリナのフルネームは、エリナリエ・ヴァーミリオンという。親しい人は、エリナやエリーと呼ぶらしい。ルークも、好きな呼び方で構わないと言われた。


 グランの商会とは、エリナの父がよく取引をしており、個人的な仲も良いらしい。エリナの出産時にも、グランはエリナの屋敷に滞在していたらしく、産まれたばかりのエリナを抱っこさせてもらったそうだ。最早家族同然である。



 エリナの紹介が一通り済んだ後、もう一人の少女へと視線が移される。


 もう一人の名はレイナ。エリナの学友であり、親友でもある。エリナがレイナを『かけがえのない親友』だと紹介しているので、軽く笑いながら視線を逸らしていた。恥ずかしがっているのだろうか。


 二人は学園で出会ったらしく、最初、エリナはレイナの黒髪に惹かれて話かけたという。

最初は戸惑ったレイナだが、エリナと話すことで打ち解け合い、今では一番の親友だと思っている。

それからというもの、二人は学園にいる間はほとんど行動を共にし、休日もよく一緒にお茶を楽しんだりしているらしい。


 初等部から生徒であった二人は、今年から高等部生である。つまり、ルークが高等部への編入試験に受かれば、同級生となるのだ。


 エリナが編入試験の日程等を知っていたので教えてもらい、「学園に受かったらよろしくね」というエリナの言葉と共に三人は帰って行き、再び個室にはルークとグランだけになった。


「エリナ様は大貴族なんじゃが、とてもやさしい方じゃ。貴族でも平民でも、分け隔てなく接してくださるし、彼女を慕う者は多い。まあ、そのせいで無駄にプライドの高い貴族に目を付けられていたりするんじゃがの」


 地位と権力を持つ貴族は、平民を見下している者が多いのだろう。特別な地位に居る貴族が、平民と同じ扱いをされて無駄に大きいプライドが傷つく。ルークには、それが容易に想像できた。


「誠意には誠意を持って答えてくれる。ルークも、学園で困ったことがあったら頼ってみるとよい。もちろん、わしでも構わんが、学園内のことならエリナ様の方が安心じゃよ」


 グランとは今日会ったばかりの短い付き合いだが、それでも彼がエリナを心から信頼していることが伝わってきた。





 ルークにも、信頼する相手がいた。互いに命を預けられる友がいた。

共に生き、共に戦い、共に暮らした悪友がいた。最早、昔の話だがグランとエリナの信頼関係を感じ、悪い気はしなかった。





「グランさんがそう言う相手なら間違いは無いでしょう。困ったことがあれば頼りにさせてもらいます。もちろんグランさんにもね」


 グランは、はっはっはっと笑いながら、満足げな表情を浮かべていた。


 その後、他愛もない話をし、編入試験から入学までの間に二週間程度空くらしいので、その時にグランの店を訪ねると約束をして店を後にした。




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