ギルド総長、現る
説明って難しい
パタンと本を閉じる音が鳴る。
(帝国にも行くつもりだが、とりあえずは王国で学べる事は学ぶのと、魔王の情報収集だな)
現在、ルークは王都のギルド内に併設してある資料室で、調べ物をしていた。コンは、ギルドの喫茶店で買ってきたクッキーをルークの足元で頬張っている。
グランは、途中で逃げた護衛や襲ってきた盗賊団のことや、ルークに助けられたことにより無事に帰って来られたこと等をギルド長に報告しに行っており、グランが「是非にお礼を!」と言うので、のんびりと待っているのである。
ちなみに、ルーク自身のギルドへの登録は、さっき済ませている。実の所、王都には五年前に来たことはあるが、その時はギルドに登録する意味もなかったので放置していたのだ。
契約書への必要事項の記入と簡単な注意事項の説明、規約の書かれた手帳を支給され、ギルドカードが発行されて終了だ。実に簡単である。
実は他にも知力や体力等の適正テストがあるのだが、グランがギルド長室に向かっている時に案内の受付嬢に根回ししていったのである。ギルド長には事後報告済だ。王都でトップクラスの商人であるグランは、ギルド長とも親しく、多少の融通は利くのである。
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「ほんっとーーーーーにすまない!!」
ソファに座り、机に額を押し付けながら謝罪の言葉を口にしているのは、王国ギルドの本部でギルド長を務め、王国・帝国・聖国のそれぞれのギルド本部に一人ずつしか存在しないギルド総長を務める男、シュロスである。
その謝罪の言葉は、シュロスの正面にあるソファでコーヒーを飲んでいる男、グランに向けられていた。
「まあそう気にするでない、こうして無事に生きて帰って来れたんじゃからな」
ギルド総長であるシュロスと、商人であるグランは幼馴染である。同い年であり、騎士学院で出会い、意気投合し、親友とも言える存在になっていた。
「だがな、うちのギルドが依頼を預かり、冒険者を護衛として紹介したんだ。その冒険者が依頼を放棄して逃げ出したとなっては、何もしないというわけにはいかんのだ……が、一つ腑に落ちん。幼馴染のとしての贔屓目を無しにして考えても、大商人グランの護衛に、そんな貧弱な奴らをうちのギルド員は紹介したのか? 護衛は、いつも通りBランク以上を指定したんだろ?」
グランは、他の街や村に行く時に毎回冒険者を護衛として雇っている。街の外に出ると魔物が襲ってくることや、今回のように盗賊に襲われることもある。なので毎回、最低でもBランク以上を条件に、護衛の依頼を出しているのだ。
「そうじゃよ。まあ今回の奴等は初めて見る顔ぶれじゃったが、受付の者に勧められてな。ランクが足りていれば大丈夫じゃと思って、そ奴らに依頼したんじゃが……ふむ」
毎回同じ冒険者パーティーを雇うわけではないが、それでも顔見知りは出来る。何回も護衛を引き受けてくれる冒険者とは仲良くしている。グランが大商会の当主であることで、冒険者たちがグランの機嫌を損ねたくないと考えているからというのもあるが、身分で人を差別することをせず、冒険者パーティーの新入りであってもフレンドリーに接してくれるので、経験を積ませるために新人を連れてくる冒険者もいる。勿論、しっかりと護衛をした上で、だ。
「わかった。しっかり調べておこう。お詫びはまた後日、改めてさせてもらう。今回は本当にすまなかった」
再び頭を下げるシュロスに、居心地が悪く感じたグランは、話を切り上げようと別の話題を出す。
「気にするなと言うとろうに。それよりもじゃ、まるで神の導きかと思うような出会いがあっての。彼に会えただけでも今回の旅は最高じゃと言える」
「ああ、ここに来た時に言っていたな。助けてくれた少年をギルドに推薦したんだって?お礼もしておきたいからな。一度会っておこう」
「ああそうじゃ。あまり根掘り葉掘り聞くでないぞ?どうやら普通の人生は送っとらんようでな。何が原因で繋がりが切れるかわからんからのう」
推薦とは、ギルド上層部やギルドからの信頼が厚い者、王族等によって、推薦した者の試験を免除し、本来は貢献度等で上がる冒険者ランクをいくつか飛ばして冒険者になれる権利である。グランはギルド総長の親友であり、大商会の当主だ。受付に言っておくだけで、ギルド総長には事後報告で通るのである。シュロスの、グランに対する信頼度合がわかるというものだ。
ただし、ギルドでルークが問題を起こせば、推薦したグランにも当然責任が圧し掛かるので、かなり珍しいことだ。受付嬢がルークを「何者だろう?」と考えながら対応していたことに、ルークは気づいていない。
資料室でのんびり本を読んでいるルークに、一人の受付嬢が声を掛ける。
「ルークさん、ギルド長がお呼びです。ギルド長室まで来ていただけませんか?」
「あっはい。わかりました」
歩き出した受付嬢の後をついて行く。
(なんだろうな。盗賊のことについては、グランじいさんが話しているだろうし……俺から聞くことって何かあるか?)
なんてことを考えているうちに、受付嬢とルークはギルド長室にたどり着いた。
受付嬢は扉の前に立ち、コンコンコンとノックすると、中から「入れ」という声が聞こえてきたので、扉を開ける。
「ギルド長、ルークさんをお連れしました」
部屋の奥には木で出来た大きな机と椅子があり、その手前には二人掛けのソファと、ソファに合う大きさの机が置かれていた。片方にはグランが座っており、もう片方には、2m程の大柄で筋肉隆々な、座っているだけでも威圧感を感じる男がこちらを値踏みするような目で見ながら座っていた。知らないおじさんなので、その人がギルド長だとルークは考えた。
「君がルーク君だな。初めまして。王都ギルドのギルド長であり、王国全体のギルドをまとめるギルド総長を務めている、シュロスだ。この度は我がギルドの尻拭いをさせてしまってすまない。そして、我が友を助けていただき、本当に感謝する」
そう言って、シュロスはソファから立ち上がり、深々と頭を下げた。
「いやいや、たまたまですよ」
ルークは慌てて否定する。三国の一つ、王国に存在する全ギルドのトップであるギルド総長が、いくら友人の恩人だとしても、たいした地位もなく冒険者になったばかりの若造に頭を下げる等、誰が予想できるだろうか。少なくとも、ルークには予想外のことであった。
「たまたまあの場所にいただけですし、自分が盗賊に追われている時に他人の心配が出来るような人だったからこそ、手を出したんですよ。グランさんの普段の行いの賜物ですね」
そう、ルークは一人で盗賊から逃げ切る自信もあったので、盗賊の相手をしてもしなくても、どちらでもよかったのである。
それでも盗賊を殲滅してグランを助けるという選択をしたのは、自分の身が危ない時でも他人の心配が出来るというその人間性に、多少なりとも関心を持ったからである。
「それでもだ。助けてもらったことに変わりはないからな。私は、危うく親友を失うところであったのだ。礼はさせてもらう」
「あ、はい」
シュロスは、机に置いていたショルダーバッグを開けると、中から袋を取り出した。ジャラジャラと音が鳴っているため、袋にはお金が入っているのであろう。
バッグよりも袋の方が大きいのだが、おそらくマジックバッグと呼ばれるものである。マジックバッグは、中が異次元空間になっており、見た目と違って多くの物を収納することができる。
「金で解決しているようで気が引けるが、貰ってくれ。盗賊討伐の功績もあるから、ギルドランクも二段階アップでDランクにしておこう」
その後、お金を受け取ったルークは、グランと共にギルドを後にした。