商人、現る
世界観は読まなくても支障はないのかな?
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ガラガラガラガラガラガラ
「いや~お前さん強いな!」
御者台に座り、馬車を操っているお爺さんがとても楽しそうに言った言葉を、ルークは隣に座って聞いていた。
「そんな大したことないですよ。これでも鍛えてるんで」
襲ってきた盗賊達は誰一人として無事な者はおらず、皆息を引き取っており、道の脇に埋められていた。
もちろん盗賊が持っていた武器や荷物は全て回収し、【倉庫】の中である。
ルークは盗賊達を全て片付けたあと、戻ってきた馬車のお爺さんの提案で、護衛を兼ねて王都まで乗せてもらっているのである。
「鍛えているといっても君のような少年がな……世の中はまだまだ広いということかな?」
「まあそれよりも、乗せてもらって助かります。王都への道も合ってるか不安だったんです」
「よいよい。命を救われたんじゃ。これぐらいじゃあ、お礼の内にも入らんよ」
実際、ルークは王都までの道に自信があるわけではない。
昔行ったことはあるが、五年も前に少しの時間だけであり、その後すぐに修羅の森に入ったので、ほとんど覚えていない。太陽の位置を見てなんとなく東だと思う方へ進んでいただけなのである。
しばらくの間馬車に揺られながら、お爺さんと他愛もない話を続けた。
お爺さんの名前はグラン・ゴールド。先祖代々続く商人の家系で、グランは現当主である。王都でトップクラスの規模を誇り、その名前は他国にも知れ渡っていると言われている。
とある貴族のご令嬢がもうすぐ誕生日なので、その家の執事にご令嬢が今欲しいものを聞き出し、仕入れるために三人の冒険者を護衛として雇って聖国へと出発したのだが、その帰りに盗賊に襲われ護衛は逃走。一人で馬車を操り、必死に逃げているところにルークが巻き込まれたのである。
ちなみに、コンはルークの膝の上で眠っている。
「それにしてもグランさん。護衛が逃げるって……大問題じゃないですか?」
「そうなんじゃがな……さすがにあの数の盗賊相手じゃ多勢に無勢、逃げたくなる気持ちもわかるんじゃよ。」
四人の護衛に対して十人の盗賊。おまけに盗賊の中には、個人で懸賞金を懸けられる程の者まで居たそうだ。
それに気づいた護衛は少し迷った様子だったが、護衛対象であるグランを置いて逃げ出した。その後のグランの判断は早く、逃げ出した護衛に気を取られている盗賊から一目散に逃げだした。
「もちろん冒険者として、受けた依頼を放棄して逃げ出したわけじゃから、ギルドに報告せんといかんし、お咎め無しというわけにはいかんがの……」
グランは軽く目を閉じ、少し考えて言葉を続ける。
「彼らにはまだまだ先がある。今回のことを反省し、同じ状況になったとしても、逃げなくて済むように己を鍛え、経験を積めば、誰もが認める冒険者になるかもしれない。将来、彼らに助けられる者達がいるかもしれない」
閉じていた目を開き、笑顔で続ける。
「まあ、今回の失敗でくじけず反省し、努力を怠らなければの話じゃがな! まだまだ若いのだ。しっかりと責任を取ってやり直してほしいものじゃ。こんなめでたい時に、ワシも運が悪かったと思うよ」
「ん? 何かめでたいことでもあるんですか?」
「おや? 王国の民ではないのか? 王国は今、大層賑わっておるんじゃがの」
「ええ。まあ。昔、行ったことはあるんですけど、ここ数年は森に籠ってましたから。王都に行くのも……五年ぶりぐらいになりますね」
それを聞いたグランは、一瞬目を見開いたが、すぐに何もなかったかのように話を続ける。
「そうじゃったのか。実はな、第一王子と第一王女の生誕祭が来週に控えておるんじゃよ。それで今頃は、王都全体がお祭り騒ぎというわけじゃ」
王都は、王国の中では一番栄えている場所であり、普段から沢山の人の行き来がある。
それに加え、第一王子と第一王女の生誕祭当日を含めた二週間、街には芸を披露する者達や屋台等が多く見られるようになり、街全体が活気づいている。普段見ることのない光景に王都の外からも普段以上に人が集まり、他国の王族も来るので大層盛り上がっている。
「それ目当てじゃないなら、お前さんは何しに王都へ行くんじゃ?」
「ええ、王立魔導騎士学園に入ろうと思っています。入学受付ってこの時期ですよね?」
「そうじゃな。たしか……編入試験は四日後じゃった。じゃが、それ程の強さでありながら、学院に通う意味はないじゃろ?知識を身に着けるために行くのかの?」
「そうですね。知識を求めてってのもありますし、もっと強くなるためでもあります。何が切っ掛けで強くなれるかはわかりませんからね。それに、ギルドにも登録するつもりです」
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この世界には、三つの大国が存在する。
一つ目は帝国。
三国の中では最も高い兵力を誇り、ドラゴンの単独討伐を成し遂げた猛者が何人も存在している。
帝王のガルダイアも凄まじい強さを誇り、同時に民への優しさも持ち合わせているため、歴代最高最強の王ともいわれている。
二つ目は聖国。
守護や癒しに秀でた神聖魔法を得意とする王族や、国を守護する守護騎士によって守られている。
聖王トルティオは守りの一点において、帝王の全力をも防ぎ、魔物の氾濫であるスタンピードを一人で抑えきる程と言われている。
そして三つ目の国、王国。
ルークたちが今向かっている国である王国は、国王アルヴァルスが納めており、攻防ともに優れた騎士団が日夜、王国民の為に活動している。国王は国の発展に力を入れており、過去に召喚された勇者の知識や学者の研究を形にし、国民の生活がより豊かになるように努めている。
三国全てに魔導騎士学園とギルドが存在する。
魔導騎士学園とは、十歳~十八歳の子供達が通う学園で、基礎的な知識から専門的な知識まで、幅広い範囲から選択し学ぶことが出来る。
十歳になる年に入学することが出来、十歳~十二歳が初等部、十三歳~十五歳が中等部、十六歳~十八歳が高等部となっている。
武道や魔導の講義も選択することが出来る。
学内には【学力】と【戦闘力】でランキングが存在し、【学力】は定期テスト、【戦闘力】はランキング戦の勝敗で順位が決まる。
ランキング戦は初等部と中等部には無く、高等部からランキング戦が始まる。
それぞれの順位が低くても退学等は無く、九年間在籍していれば九年分学ぶことが出来る。これは、過去の勇者が言った「出来が悪くても、学ぶ機会を奪うものではない」の言葉を受けた当時の王が三国間で相談し決めたことであり、学費も掛からず、無料の寮と食事も存在する。それにより、入学の競争率はかなり高い。
勇者の言葉を考えるなら、学びを希望する者は全員受け入れるべきなのだが、学院のスペースや寮にも限りがある。それにより、入学希望者全員を受け入れることは出来ず、入学試験で落ちてしまうこともある。実際、学園設立当時も全入学希望者を受け入れようとしていたが、あまりの数の多さに断念し、勇者が泣く泣く入学試験を行ったほどだ。
初等部の入学試験で落ちた時、それでも入学したい者は、中等部や高等部の年齢になるまで個人で頑張り、編入試験をクリアすれば入ることは出来る。
だが、この編入試験に関しては、在校生達に新しい刺激を与えるためのものと考えられており、かなり厳しいものになっている。
それにより、初等部を落ちた時点で入学を諦める者は多い。
幸い、卒業生等が個人で、知識や経験を教えている勉学の場を開いていたりしているので、ほとんどの国民が一度は学院か街の学び舎で学んだ経験がある。それにより国民全体の識字率も高く、色々なことに挑戦しやすいため、自分の得意なことを見つけて成功する者も多い。
ただ、学院で学んだ知識や力を使って悪事を働く者もおり、手強い犯罪者も生まれてしまっていることは悩みの種である。
奴隷も存在し、犯罪や借金によって、あらゆる権利を奪われた状態となる者たちがいる。最低限の衣食住は保証されているが学園に通う権利は無いため、親が借金を抱えたまま亡くなった場合、その子供には学ぶ機会がない。
学園設立前から奴隷制度が強く根付いていたため、当時の国王には廃止することが出来なかったのである。
ギルドとは、三国に本部を置き、それぞれの街の殆どに支部を設置している施設である。
実績とお金、王国・聖国・帝国のそれぞれに一人ずつ存在するギルド総長の許可があれば、個人でもギルドを設立することも出来る。
その用途はいくつかあるが、最も重要なのは冒険者という役割だろう。
平民貴族王族問わず、欲しい魔物の素材集めや魔物被害への対処、家事やペットの散歩まで、あらゆる依頼をギルドに出せる。
ギルドに集まった依頼は、ギルドに登録して「冒険者」となった人達が、自分の力量にあった物を選び解決する。そして報酬を貰うのだ。
依頼達成率や貢献度、ギルド上層部からの推薦等で評価される、ランク制度というものがある。
Fから順にE→D→C→B→A→Sの七段階で分けられており、依頼を受けるための目安になったり、人々が冒険者を信用するための基準になったりしている。
「冒険者」という役職名は、ギルド発足当時、未知の魔物達に挑んだり、未知の素材を探し出す人達をそう呼んだのが始まりである。一説によると、当時の勇者が命名したとも言われている。
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