変って行く人達
高橋綾乃視点です。
年末年始は実家に帰った。両親には問題なく上手く過ごしている事を伝えた。高校時代の事が有ったから大分心配していたみたいだけど、安心してくれたようだ。
三日には東京のアパートに戻り四日には大学の授業を受けた。
今日も明人のすぐそばで授業を受けている。明人も実家には戻ったと思うけど、何かスッキリしない顔をしている。
傍で柏原さんがチラチラ彼の事を見ながら気にしている様だ。
…………。
冬季授業は短い。一月一杯で終わってしまう。
そしてあっという間に授業期間が終わってしまった。もっと明人に会いたかったけど仕方ない。
明日から三月三十一日まで休みだ。実家に二月半ばから二週間ほど帰る事にしている。実家に帰ってもする事も無いのでそれ以外は東京のマンションにいる事にした。
アルバイトをしている訳でもないが、図書館に行って勉強したり、一人で買い物をしたりしている。
街を歩いていると偶に声を掛けられるが無視をした。渋谷のあの時の様な事は無い様に歩く場所には気を付ければ問題ない様だ。
去年クリスマスで会った岩崎君から良くチャットメールが来る。あの時だけと思っていたのだけど、あまり無視しても申し訳ないので、適当に返事をして誤魔化している。
やっぱり連絡先教えなければよかった。
明日から三月。後一ヶ月で明人に会える。
ブルル。ブルル。
リビングで雑誌を読んでいるとローテーブルの上に置いてあるスマホが震えた。誰だろうと思うと
『高橋さん、明日会えませんか』
何を言っているんだこの男は。二行目に
『渡したいものが有って』
と書いて有った。
仕方なく返信
『何ですか渡したい物って』
『出来れば会って渡せれば。表参道で会えませんか?』
断りの返信しようと思ったけど、これだけ連絡来るし、明日は出かける用事入っていないし、まあいいかという気持ちで会えると返信してしまった。
そして翌日、JR山手線表参道駅改札。午前十一時の約束のほんの少し前に着いた。
岩崎君がキョロキョロしている。手には男性用のバッグしか持っていない。あっ、私に気付いた。早足で歩いてくる。
「高橋さん、こんにちは。来てくれてありがとう」
「こんにちは岩崎さん」
彼はきっちりとした服装をしている。改めて見ると身長は私より二十センチくらい高そうだ。明人より低いけど。濃い茶色の厚手のコート。内側は紺色のジャケットに紺色のスラックスに茶系の革靴だ。
俺岩崎孝雄。
去年のクリスマスの二日間、高橋綾乃さんと過ごす事が出来た。
肩まで伸びた艶のある髪の毛。大きな瞳、スッとした鼻それに本当に可愛いと表現できる唇。それを引き立てる様な顔の輪郭。
白いコートを着て、黒色のショートブーツを履いている。右耳の上に髪の毛が下がらない様に可愛いピンが止めてあった。
僕が彼女を見つけるとニコッと笑ってくれた。それだけでも何か胸の中が熱くなる。直ぐに駆け寄った。
「すみません。せっかくお休みに会って頂いて」
「いえ、特に用事も無かったですから。それより渡したい物って何ですか?」
「すみません。もし良かったら少し歩きませんか?」
「良いですけど」
表参道の大通りをゆっくりと青山通りの方に歩いた。どう言って渡せばいいのかな。男がこんなものを女性に渡したらなんか…。
でもせっかく持って来たんだし。来てくれたんだし。
「あの、高橋さん。出来ればどこかでお茶を一緒に出来ませんか。そこで渡せればと思うのですけど」
「良いですけど」
この人何考えているんだろう?渡す物を口実に何か別の目的があるのかな?
通りに面したカフェに入った。ガラス張りで結構混んでいるけど偶々入れたという感じ。
「ラッキーでしたね。上手く座れました。何にしますか?」
「ミルクティで」
「僕はカフェオレにします」
お店の人に注文をした後、
「あの、渡したい物ってこれです」
俺はバッグから渡したい物を出した。
岩崎君が、バッグからマリンブルーの可愛い袋を取り出した。赤いリボンで結んでいる。
「あのこれ受け取って貰えます?」
テーブルの上にその袋を置いた。
「何ですかこれ?」
「開けて見てくれると嬉しいです」
仕方なく私は赤いリボンの結びを取ると
えっ?!中にはキャンディが入っていた。イチゴ、レモン、ぶどう、りんご等だ。
「あのこれって?」
「すみません。その……。あの貰って頂けませんか?」
「…………」
この時は、贈られた意味が分からなかった。
「いきなり会ってくれって言って、キャンディを渡す男なんて。やっぱり駄目ですよね」
「いえ、せっかくなので頂きます。でもなんで……。えっもしかして?」
「す、すみません。勝手だと思ったんですけど、日付ずれているし。チョコ貰っていないのに。でももし受け取って貰えるならと思って」
貰ってしまったけど…。今更返す訳にはいかないし。
「仕方ないですね。もう貰ってしまいましたから。もう帰っていいですか」
本当は返したかったけど…。バッグの中から財布を取出してお金を払おうとすると
「あっ、良いです。俺が払います。誘ったの俺なので」
「でも…」
「良いです。払わせてください」
お店を出て表参道の駅に向おう二人で並んで歩いていると、歩道を宅配の自転車凄いスピードで走って来る。危ないなと思いながらよけようとした時、いきなりこちらにハンドルを向けた。
「危ない!」
「えっ」
私の体が何かに包まれたと思ったら、その包まれた物の外側に大きな音がした。
「ぐっ!」
岩崎君が私を抱きかかえたまま歩道に横になっている。ぶつかったと思った自転車はもういない。
「大丈夫ですか」
私は彼の腕を解いて一度立ち上がってから彼の背中側に回った。コートが汚れている。切れてはいない様だ。
彼はゆっくりと起き上がると
「だ、大丈夫です。それより高橋さんに怪我は?」
「私は大丈夫です」
「酷い自転車ですね。今流行りの宅配ですね。あの人達のマナーの悪さはテレビでも見ているけど、これほどとは」
「岩崎さん、コートが汚れていますよ」
「コートなんてどうでもいいです。あなたが無事なら」
「えっ、あ、ありがとうございます」
「それと、あげたキャンディは」
「大丈夫です。しっかりとバッグの中に入っています。ふふっ、でも面白い。自分の体よりキャンディ心配するなんて」
「だって…、それが俺の高橋さんへの気持ちだから」
えっ…。やっぱり。
「高橋さん痛い所とか有りませんか?」
「ありません。それより岩崎さんの方が」
「背中を打たれた気がしますけど大丈夫です」
「良かったです。明日少しでも痛かったら絶対に病院に行って下さいね」
高橋さん、優しい人だな。
「ありがとうございます。駅に行きましょうか」
最初私達を取り巻いて見物していた人ももう居なくなった。
「あの、岩崎さんこの後予定あります?」
「いえ、特に?」
「助けてくれたお礼と言っては失礼ですが、もし良かったら昼食一緒に取りませんか?ご馳走します」
「はい!」
このまま帰っては失礼だと思い、一応お礼を兼ねて彼に昼食をご馳走する事にした。
その後、彼の頼みで青山通りの表参道駅まで散歩する事になった。彼は聞いても居ないのに休みの間の事を一人で話していた。
駅での別れ際に
「あの高橋さん、また会って頂けませんか」
「…………」
「駄目ですよね。すみません」
彼が寂しそうな顔をしてそのまま階段を降りようとしたので
「いいですよ。時間が会えば」
もう一度私の側に来て
「本当ですか!ありがとうございます。夜連絡入れます」
大きな声で言ったので周りの人がこっちを見ている。
「あの、出来ればもう少し小さな声で」
「スミマセン」
彼と一緒に階段を降りていく。私は少しゆっくりと降りながら半歩先を降りる彼の姿を横目でチラッと見た。嬉しそうな顔をしていた。何故か私の心が温まっている。
―――――
綾乃、良い人見つかったかな?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。




