正月は家族で相談
俺は、三十日に実家に帰る事にした。紗耶香も京子さんも何故か同じ電車同じ車両に乗っている。
俺の乗った席の周りは乗客が一杯いるけど、車両の前後は空いている。
皆さん均等に座りましょう。
そして俺の前の席には、正確には隣と左前には、京子さんと紗耶香が座っていた。二人共笑顔だが…………。
そう、クリスマスが終わった二十六日。何故か京子さんと紗耶香が俺のアパートに押しかけて来た。
二人共何も言わずに…。表面上はにこやかに心の中は…知らないけど。
そんな二人を何とか帰し。
…………。
そして今に至っている。
「あの、もう次の駅で」
「「分かっている」」
「ハイ」
紗耶香も京子さんも降りる駅過ぎているんですけど…………。
荷物は四泊五日分。四日から授業だから三日には帰るつもり。まあ普通の帰省だ。
でもなぜか三人で俺の実家に一緒に歩いて向かっている。もう俺が口出しできるレベルではないみたいだ。
実家に着いてドアを開けて
「ただいま」
タタタッ。
直ぐに姉ちゃんと母さんが玄関に来た。そして静かになった。
「あ、明人。これって」
「「お久しぶりです」」
「…………!!」
「とにかく三人共上がって。寒いでしょう」
「「はい」」
紗耶香と京子さんが母さんに連れられてリビングに向かう。姉さんが
「明人どういう事?」
「いや…。後で話す」
「そっ、そう」
姉さんが目を丸くしている。
父さんがリビングから出て来た。俺に
「明人どうしたんだ?」
「まあ色々と。後で話すから」
今、我家のリビングでは、ソファの真ん中に母さん左横に姉さん、入り口に近い方に俺が座っている、紗耶香と京子さんは、俺の母さんの前のソファに均等に座っている。
父さんは用事があるとか言って外に出て行ってしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
母さんが口火を切った。
「明人、東京で真面目に勉強していると思ったら、一条さんと鏡さんが一緒に帰って来るってどういう事?」
「…………」
俺は答えようがない。姉さんが話し始めた。
「京子これってどういう事?」
やっと京子さんが口を開いた。
「見ての通りです。明人君は私の彼です。高校卒業の頃からお付き合いをしています。私は彼を愛しています。彼に私の一生を捧げるつもりです。でも彼は一条さん共付き合っています。
だからご家族の前ではっきりと彼と私が将来を約束している関係だという事を認めて頂こうと思い伺いました」
「ちょ、ちょっと待って。明人と付き合っているのは私。あなたは彼に一方的に言い寄っているだけでしょう。元々私と彼が付き合っている間に強引に割り込んで来ただけじゃないですか。
私も明人を愛しています。私も彼に一生を捧げます。明人は私の未来の旦那様です」
二人とも目が真剣だ。アニメだったら火花が散っているんじゃないか。
「あらあら、まあまあ。二人共そんなに明人の事を思っていてくれているのね。母として嬉しいわ。でも明人はどう思っているの?」
「…………」
「これは困ったわね。ところでお二人共、この事ご両親は知っているの?」
「明人君とお付き合いしているという事は伝えています」
「私の両親は高校時代から明人と私が付き合っているのを知っています。お母様、お姉様もご存じでしたよね」
「ええ、まあ」
私明人の姉水森美里。明人が二人と付き合っているのは知っていたけど。まさかこんな事になっているとは。
しかしここまでの事を彼女達にさせるとはいったい何が有ったのかしら。
「水森先輩。先輩は私と明人が将来一緒になる事に賛成ですよね?」
「ちょっと待って下さい鏡さん。お姉様にお応援を求めるのは卑怯です。やはり明人から愛されている自信が無いからじゃないですか。私は明人から愛されているという自信があります。ねえ明人」
「そんな事ないわ。明人は私を愛している。ねえ明人」
俺は逃げたくて仕方ない。返事のしようが無いんだ。だって二人共好きになってしまっているから。
「明人、なんとか言いなさいよ」
姉ちゃんここで俺に振らないで。
仕方なく俺はポロっと
「あの、二人共今日の所は実家に帰った方が…」
「「駄目!!」」
駄目だよなあ、やっぱり。
「明人がはっきりするまで帰らない。私が帰っても鏡さんが帰る保証無いし。後から来るかもしれない」
「失礼ね、一条さん。そんな狡いマネはしないわ。明人は私を選ぶから!」
「そんな事絶対に有りません!明人は私を選びます!」
「まあまあ二人共。今日は取敢えず実家に戻りなさい。明人にははっきりするように言い聞かせますから。ご両親が待っていますよ」
これ以上、ご家族の心情を悪くするのは不味い、ここは仕方ない。
「はい、実家に一度帰ります。いきなり押しかけて来て誠に申し訳ありませんでした」
鏡さんに先手を取られた。仕方ない。
「すみません。確かに連絡もせずに押しかけて来て済みませんでした。実家に一度帰ります」
「良かったわ。お二人がどれだけ明人を思ってくれているかよく分かりました。でも今日は一度帰ってご両親に顔を見せなさい」
「「はい、お母様」」
取敢えず、二人を駅まで送って行った。途中で喧嘩でもされたらたまらない。もちろん二人の重い方のバッグを両手で持ってあげた。こうすれば二人共手を繋げないから。
俺は家に戻ると父さんも帰っていた。母さんが連絡したんだろう。
「明人、取敢えず着替えてからリビングに来なさい」
「はい、父さん」
俺は懐かしい自分の部屋に荷物を置いて部屋着に着替えるとリビングに行った。父さん、母さん、姉ちゃんが三人で並んでソファに座っている。
俺が反対のソファに座るとまるで被告人みたいだ。
俺が座ると母さんが
「明人、どういう事。私達に分かるようにはっきり説明くれるかしら。夏くらいからバイトも始めると言っていたから、真面目に勉強に取り組んでいると思ったら、あんなに可愛いお嬢さん二人と同時にお付き合いしていたなんて。東京でどういう生活しているの?」
「いや、生活は普通だよ。朝食も昼食もコンビニや学食で食べているし」
「夕食は?」
「…結構二人に食べさせて貰っている」
「明人!」
「まあ、母さん。明人勉強はどうなんだ?」
「問題ない。定期試験の結果も良いし」
「それならいいが」
「お父さん、良くないです」
母さんが父さんに文句を言っている。俺の所為だけど。
「俺は、紗耶香も京子さんも好きだ。はっきり言ってどっちかという判断が出来ない。二人とも優しくて俺を大切にしてくれる。好きだと言ってくれる。だから判断できないんだ」
「明人、最初から二人が好きになった訳じゃないでしょう」
「それは…」
俺は、高校時代からの事を話した。紗耶香に起こった事、そんな時、京子さんが現れたた事。
紗耶香への思いが責任感から愛情に戻って行った事。
紗耶香と付き合っていても京子さんは、それでもいいと言ってくれてズルズル来てしまった事。
そして誤解とは言え、紗耶香が男をアパートに連れ込んでショックを受けた事。そんな時に京子さんが俺を精神的に支えてくれた事。
「こんな事が有って、今二人共好きなんだ。どちらを選ぶというのは出来ない」
「「「…………」」」
―――――
うーん。分からないでもないが。
次回をお楽しみに
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