ルビアの夢
私には夢がある。
私の夢は、将来犬を飼うことだ。
前に何度か、お父様とお母様に犬を飼いたいとお願いしたことがある。
でも、一度たりとも許してくれたことはない。
お父様ダンテとお母様ローズは、非常に優しく温厚な性格だ。2人はお互いを愛し合う理想の夫婦像だろう。2人の言葉や表情から私への愛情を強く感じている。私は、自分の両親ながら憧れを抱いている。しかし、お父様はクラウェール帝国を支える筆頭公爵家の当主として、堂々とした一面も持ち合わせている。
そんな優しく温厚なお父様とお母様でも犬を迎え入れることは許可してくれないようだ。
それもそのはず、わが帝国クラウェールは、500年も前から犬を脅威の存在として捉えている。
その要因としては、犬が嚙みついたり吠えたりと活発な習性を持っていたため、人々に恐怖を与えていたことにあった。
それに加え、さらに犬に対する人々の恐怖を加速させる出来事が起きた。
150年前のこと。お腹を空かせた一匹の瘦せ細った犬が街の中心地に現れたという。その犬は食べ物を求めて、ある商人の前で止まったが、彼は、昔からの犬のイメージに恐怖を感じ、追う払うため棒で身体を叩きつけた。食べ物をただ求めていただけの犬は、当然怒って噛みついた。しかし、犬はかなり痩せ細っていたため、叩かれた衝撃が強かったのか、近くの広場で亡くなってしまったらしい。一方、噛みつかれた商人はというと、噛まれたところが悪く、大怪我したそう。
この事件は、街中だけでなく、国中で広まりに広まった。それを耳にした当時の皇帝は、犬に対するさらなる脅威を感じ、多くの犬を虐殺した。それ以来、犬はこの国でパタリと見かけなくなった。
まだ、この国のどこかに犬は存在すると噂されているが、その姿を見たものはほとんどいないという。
以上の歴史があって、犬は人々に恐れられ、脅威としてその存在に至ったわけだ。
これって人間が一方的に悪くない?
犬に対する理解がこの国には全くない!
犬が可哀想なだけだわ…!
兎に角、そういうわけで脅威として捉えられている犬を飼う家があれば、帝国への反逆とみなされることになるだろう。
お父様とお母様が飼うことを許してくれないのも頷ける。
でも、お父様もお母様も犬が嫌いなわけではないと思う。
なぜなら、我がノースレッド公爵家が所有する図書館には、犬に関するお話や歴史書など目立たない端の方に隠すようにして多数置いてあるからだ。私に見つからないようにして隠して置いていたみたいだけど、私には通用しない。
また、飼いたいという私の意見に対して、2人は否定したけど、その表情には困りと悲しみが混じっている気がする。
極めつけには、私がまだ10歳の時、犬が危険であるのかを見直す調査資料をお父様の書斎で発見したこともある。
「絶対、お父様もお母様も本当は犬が好きだと思うんだけどなぁ」
この国でほとんど見かけない犬を私が知った理由は、所有する図書館で犬に関する本を発見したことがきっかけになる。しかし、私が犬を好きになった理由は他にもある。
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同じく10年前、その年の夏は猛暑だったことから、ノースレッド公爵家の領地である避暑地で私たち家族は過ごしていた。
10歳の私は、お花集めすることにハマっていて、過ごした避暑地の邸宅近くにある森へと探しに出かけた。
この時、既にフィンがついていたけど当時はずっと自分に付かれていることが窮屈に感じていて、フィンの目を盗んで1人で探しに行ったことを覚えている。
森にはたくさんのお花が咲いていて、私の心を躍らせた。
「あっ!この黄色いお花は、お母様のドレスに付いている飾りみたい!あとでプレゼントしようっと!」
「こっちのお花は青くてかっこいい!お父様喜ぶかなぁ」
「あの花はフィンの目と同じオレンジ色だ!あとで隠れて抜け出したことを謝る時に渡そう」
私は時間も気にせず夢中になっていた…。
気が付けば辺りはすっかり暗くなり、来た道が分からなければ、帰り道も分からない。
「怖いよ…誰かいないの…?」
ここは森の中。誰も助けに来てくれない。
きっと今頃みんな私を探してるよね。みんなに心配かけちゃう。フィンも怒られないかな…。
せっかく摘んだお花もしおれちゃう。
………。
「どうしよう。暗い。………ひっ」
昼間まで癒しを与えてくれていた周りの木々が夜になると顔に見えてくる。風の音も低く唸っているように感じる。
(怖い…)
そんな時、茂みの方から草を踏む音がした。
ガサッ、ガサッ、ガサッ
徐々に近づいてくる感覚に後退りする。
だんだん音は大きくなり何かが出てくるっ!
ガサッ、ガサガサガサッッ!!
「お父様、お母様!フィン!助けてっ…」
「きゃあああああっ!」
読んで頂きありがとうございます。嬉しいです。
茂みから出てくるのは何でしょう?