専属護衛騎士に告げられたパーティーの存在
20年前、クラウェール帝国を大きく支えているノースレッド筆頭公爵家に、白い髪に碧眼の女の子が生まれた。
それが私、ルビア・ノースレッドだ。
家族やメイドたちは、私の容姿について、白い髪は絹のようで瞳は水面が太陽で照らされた光輝く碧眼、肌は日焼けを知らないきめ細かさで、触りたくなると話す。
特に白髪は、クラウェール帝国で歴史的に見ても初めてらしい。そのこともあり、小さい頃から私は好奇の目で見られていた。
しかし、それは必ずしもいい目だけではなかった。ある人は美しいと、ある人は宝のようだと褒め称えたが、自分の私利私欲のために私を狙う者も多かった。
そのため、この国では専属護衛騎士は一般に8歳から付けられるが私には5歳から付けられた。しかし、怖い顔したガタイの良い大男を私が怖がったため、私より5歳年上のフィンが専属護衛騎士に選ばれた。
兄のような存在。
フィンは、騎士らしからぬ美形だ。現在でも顔に傷一つなく、綺麗な人だと思う。
私は、彼の稽古を何度も見学している。身のこなしが軽やかで美しく、ノースレッド公爵家の中でもトップの実力と強さを誇っている。
そんなフィンの剣を構えている姿が私は好きで、褒めるといつも笑って照れる表情が可愛い。普段綺麗な顔をクシャっとさせる表情を見るのが私の密かな楽しみで、つい、稽古にお邪魔して褒めてしまう。
今も私はノースレッド公爵家の稽古の見学に訪れている。
今日は模擬線を行う日で、ちょうど今、フィンは同僚と手合わせをしている。
試合は騎士団長の合図によって開始される。しかし、始まったと思ったら、あっという間にフィンは相手の剣を飛ばす。無駄のない動きに相手は手も足も出ない。
「本当にフィンは強いなぁ」
こんなに強いフィンが私の専属護衛騎士ってなんだか勿体ない。フィンの実力はもっと別で活かされるべきなんじゃないか。もう15年私の護衛を担っているけど、もしかしたら、フィンも本当は、異動したいと思っているかもしれない。
「あとで聞いてみよう」
*******
稽古が終わった。
私は早速フィンに駆け寄って今日の稽古の感想を述べる。
「フィン、今日も本当に格好良かったよ。私フィンの剣を構えている姿が本当に好き」
「ルビア様にそう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます」
案の定、フィンは綺麗な顔をクシャっとさせて笑って照れる。私の好きな一面だ。
「うん、私こそありがとう。何度見ても楽しいのよね」
「それはよかった。ルビア様が退屈して飽きてしまって見学に来なくなってしまったら少し寂しいなと思っていたので」
「私は当たり前のことを言っているだけ。お世辞じゃないわ。お世辞だったら何度も稽古の見学はしないもの。それに、フィンの格好良い姿が見られるのよ?飽きるはずがないじゃない」
するとフィンは、照れて赤くなっていた顔をさらに赤らめた。
「それに、本当にフィンは綺麗よね。モテるでしょ?メイドたちがすれ違う度にあなたに熱い視線を送っているの知らない?フィンに好きな人はいないの?」
「別にモテてないと思いますよ?それに、私には想い人がいますから…」
「そうなの?誰だろう。応援するから教えてっ!」
普段私に付いてばかりのフィンに好きな人ができたことは、家族の心情としては、寂しいが嬉しい。張り切って応援しよう。
「………。今言ってもいいの?俺の好きな人」
フィンは私の問いかけに沈黙したと思ったら、いきなり距離を詰めてきた。いつもの丁寧な言葉遣いをやめ、声を低くして逆に私に答えてもいいのかと聞いてきた。
フィンの綺麗な顔が迫ってくる。焦った私は、顔が熱くなっていることを感じ、隠すため後ろを向いて、逃げようとする。
「…や、やっぱりいい!もう少し自分で考えてみるから」
「ふっ。………今はこれでいい」
「えっ?何か言った?」
「何も言ってないですよ」
絶対私の顔が赤くなってること分かってる。からかったんだわ。悔しい。フィンは優しい表情で笑ったあと、何か言ったような気がする…けど、フィンが言ってないって言うのだからまあ、いいか。
あ!そういえば、大事なこと言うの忘れてた。
「突然だけどフィン、私の専属護衛騎士をやめたいって思ったことない?」
「えっ?何でですか?私では不満になったんですか?」
私の問いかけにフィンは食い気味に険しい表情で問い返した。
「いいえ、そうじゃないわ。満足してるし、あなたが私の専属護衛騎士で嬉しいといつも思ってる」
「じゃあなぜです?」
「あなたの実力はトップだもの。私の専属護衛騎士なんかじゃ勿体ないよ。本当は異動したいって思ってたら、遠慮なく言ってくれていいかね?」
しかし、フィンは悲しそうに、でも強く答える。
「そんなこと言わないでください。やめたいだなんて一度も思ったこともありません。これからも絶対ありません。私の場所は、ルビア様の隣だけです」
しっかり私を見据えて力強く答えてきた。
「フィンが私の隣だとのびのびとできないかなって思ったの。フィンは私の大事な兄のような存在だもの」
「…兄…ね……」
なぜか私の答えにまた寂しそうになり、その場の空気が静まる。私何か変なこと言ったかしら。
この空気を脱却させるため、話題を変えようと何か探しているとフィンの方から話が切り出された。
「そういえば、ルビア様、来週の帝国主催のパーティーにご参加されるのですよね?ドレスは決まったのですか?メイドたちが毎日ルビア様に最高に似合うドレスをと、慌ただしくしていましたけど」
「……………」
「ルビア様?」
「………それ、言わないでほしかった…」
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