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プロローグ

小説初投稿です。

ガラスのハートなので、優しく見守って頂けると嬉しいです。

 なぜ、私は婚約者である皇太子の腕の中に捕らえられているのだろう。


 汚れひとつない真っ白なふわふわの毛が生えた自分の手を見て、ため息が出る。


 只今、私は猫の姿をしている。


 瞳も碧眼で私の特徴がそのまま残されている。毛並みの色も真っ白ということで、どうやら私の髪色を同じようだ。


 本当は今頃、隣国への入国を済ませ、大好きな犬と一緒に暮らしているはずだった…。

 隣国は、犬を愛玩対象とし、貴族も平民も1家に1匹は飼い、特に皇族は犬の愛護を謳い、3匹以上飼っている。犬と一緒に過ごす毎日は、なんて素敵なんだろう。無類の犬好きな私の隣国への憧れは強い。


 思い描いていた幸せな未来へと想いを馳せる中、私の身体を捕まえている温かい手によって思考が現実に戻される。


 犬が好きなのに、どうして猫になってしまったのか。動物に変えられてしまうなら、せめて大好きな犬がよかったと心の中で文句を言う。


 ふと、彼の表情を窺おうと見上げる。すると、私の視線に気が付いたのか、直系の皇族のみが持って生まれる新緑の瞳を細めて、愛おしそうに、それでいて切なそうに見つめてくる。


 「なに?私の可愛いルビー」


 蕩けそうな甘い声で私に問いかける。そう、猫の私はルビーと呼ばれている。私の名前ルビアとそっくり。なぜだか人間の私に言われているような気がして、恥ずかしくなる。


 いたたまれなくなった私は、降ろしてもらおうと彼の腕の中でジタバタ動き、訴えかける。


 「ニャンニャー!(降ろしてー!)」


 でも、人間ではない私の言葉は理解してもらえない。


 「分かった。お腹が空いたんだね。マリーに用意してもらおう。ちょっと待ってて?」


 「⁉」


 「マリー」


 「はい、殿下」


 「この子に魚の料理を作らせてくれ」


 「かしこまりました」


 私がこんなに必死にバタバタと動いて降ろして欲しいアピールをしているのに、あろうことか皇太子は、私がご飯を食べたがっているのだと勘違いをしている。

 私は一刻も早くこの腕から離れ、ここ、クラウェール帝国の中心モンティヌ城を抜け出して元に戻る方法を探したいのに!

 お城の料理は食べたいけど…。ここで時間を割いてる暇はない。でも、少しくらいなら食べようかな…。お城の料理は、皇族専用なため、皇族主催のパーティーでないと滅多に食べられない。


 食欲と脱出目標の葛藤に揺れ、深く考えていると、いつの間にかマリーが美味しそうな魚料理を持ってきていた。


 「っ!!いい匂い…」


 食べることが好きな私は、その美味しそうな匂いにつられる。料理を食べようと彼の腕からまた逃げるため、身体を動かす。だが、離してくれない。すると、彼は驚きの行動に出る。


 「はい、ルビー、どうぞ?」


 なんと彼は私に料理を食べさせようとしてきた。皇太子に食べさせてもらうなんて冗談じゃない!恥ずかしいし、早く降りたい!


 「こら、危ないよ。私が食べさせてあげるからね」


 食べさせてあげるからね…じゃなーい!まずは、私を解放して欲しい。私は自分で食べたいの!自分で食べられるから降ろしてー!


 彼はこんなに猫が好きだっただろうか。猫に対して溺愛している印象は今までなかった。

 お城で2匹飼っているけど、皇帝の飼い猫で自分のではないから今まで興味を示さなかったのね。きっとそう!人は自分のものとなると、すごく大事にするもの。私も犬が好きだから、将来犬を飼う時は絶対溺愛しちゃうから。その気持ちは分かる。

 でも、私は人間なの。その溺愛は困るわ。


 とにかく、何にしても猫が好きな彼とは馬が合わない。やっぱり婚約は解消してもらおう。


 そんな考えを巡らせながら攻防を繰り広げるうちに、私は暴れ疲れてしまった。腕の力が強すぎる…。


 観念した私は、大人しく腕の中から逃げることを諦めた。

 それを食べさせることが許可されたと勘違いしたのか、スプーンを手に取り、柔らかそうな魚の身をすくって私の口の前まで持ってきた。


 「はい、ルビー」


 彼は自分の手であげられることが嬉しいのか、口角を上げて優しい表情で私に口を開けるように促す。


 ここまで来たらもう食べさせてもらうしかない。ルビア覚悟を決めろ!

 私は意を決してスプーンに乗った魚を口に含む。


 「っっ…!ニャン!(美味しいっ…!)」


 何これ…!魚はよく煮てあり、口の中に入るとすぐに蕩ける。味も濃すぎず薄すぎず、優しい。食べさせてもらった魚料理は、頬が落ちるほど美味しく、思わず声を出してしまった。流石、お城の料理人。幸せ…。もっと欲しい…。


 「ふふっ、そんなに美味しかった?目を輝かせて可愛いなぁ。もっと食べさせてあげるからね。」


 私の美味しい気持ちが伝わったのか、嬉しそうに魚をすくったスプーンが再度口に運ばれる。

 こんなに美味しい料理を食べられるなら、もう少しこのままでもいい気がする………いやいやいや!よくない!あぶないあぶない。料理につられるところだった。早く脱出して元に戻る方法を探さなくちゃ。こんなこと考えている時間はない。


 でも、この料理はしっかり食べていくつもりだ。残したらもったいないし…。せっかく出してもらったのだから食べないと…。それに、隣国へ行ったらクラウェールのお城のパーティーにも参加はできないだろう。元々お城の料理は滅多に食べられない上に、隣国へ行くと一生食べられないかもしれない。この機会で味わっておかなくちゃ。

 食べたら、脱出の計画を立てよう。


 私はここへ連れられてから何度か脱出を試みたが全て失敗に終わっている。この国の皇太子から逃げるのは至難の業だ。


 今度こそ完璧に逃げてみせる!


 そして、隣国で犬と一緒に暮らす夢を叶えてみせる!

読んでいただき嬉しいです。ありがとうございました。

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