願い
約7カ月ぶりの投稿となってしまいました。申し訳ありません。
ルビアとフィンの会話です。
ブンっ!ブンっ!
裏庭から木刀を振るう音が聞こえる。
「ふっ!ふっ!―――はぁぁっ!」
フィンの一生懸命練習している姿を見ながら、木陰に腰を下ろす。
身体を動かすことが好きなのだろう。フィンの横顔は生き生きとしていた。汗も太陽に反射してキラキラとしていて、彼の姿が眩しかった。
この姿を形に納められたらいいのになぁ…。
絵師を呼ぶか。でもそんなことしたらバレてしまう。
今まで何人の女性たちを虜にしてきたのか。………ずるい。私だってあんな綺麗な顔で剣を振れたらかっこいいのに。幼馴染ながら彼のかっこよさに嫉妬してしまう。
(私も剣を習ってみたいなぁ)
いずれはここを出て1人で犬たちと暮らすわけだし、自分の身は自分で守れるようにならなければならない。
そんなことを思いながら久しぶりのフィンの朝練を目に焼き付けた。
**********
見るのに夢中になっていたのか、気が付いたらもうメイドたちが朝の支度の準備をしに部屋に来る時間が迫っていた。
私が朝から部屋を出てうろうろしてることがリヤをはじめとしたメイドたちに知られたら、心配性な彼女たちのことだ、今後朝一番から私の部屋に張り付くことになる姿が目に見えている。
そうなる前にそろそろ戻らないと。
そう思って立ちあがろうとした途端―――。
あ!まずいっ…!
―――ドサっっ!
「〜っっ…!!!(イタタっ)」
盛大に尻もちをついたためか、お尻はヒリヒリする。ずっと地べたに座っていたからだろう、脚が痺れていたのだ。
(普段からの運動不足のツキが回ってきたのね…)
自分の情けなさにため息を吐く。これは本格的に私も剣を習って体力をつけた方がいいかもしれない…。
そんなことを考えてしまった私は、フィンが声を上げるまでこちらを見ていることに気が付かなかった。
「ル、ルビア様…⁉︎」
思いのほか大きな音を立てていたらしい。フィンは、オレンジ色の目を大きく見開いて、驚いた顔で私を凝視していた。
「え?………、あ……………。フィン、お、おはよう〜?あはは…(苦笑)」
とりあえず挨拶してみる。見逃してくれることを願って…。
「おはようじゃないですよ。大きな音がしたから何事だと思ったら。朝早くからこんなところで何してるんですか」
「ん〜…、目が覚めちゃったの。可愛い小鳥についてきたら迷っちゃって…いつの間にか辿り着いた…?」
苦し紛れの言い訳だ。
「迷った??ルビア様が生まれた時から20年間過ごしているこの屋敷内で?」
じぃ――………
フィンの疑う目線と無言の圧力に負けそうになる。
「ほっ、ほんとだよ?…ほら、この屋敷って広いじゃない?私方向音痴だし……あ、昔かくれんぼして私が迷った時にフィンが助け出してくれたことも何回あったことか!」
頑張って言い返した私の勇気を褒めて欲しい。
「ああ、そんなこともありましたね。まあ、確かにこのお屋敷は広いし、ここは裏手の目立たない場所で知ってる人は多くないと思いますけど…」
私の主張に納得したように思えて、焦って急いで畳み掛ける。
「ねっねっ!(汗)今だって、あれ?こんな場所あったっけ?って思ってるところだもの!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・。ルビア様、その言い訳は流石に苦しすぎます…。ああ、そうですかとはなりませんよ?隠れることが得意なルビア様にとってこの屋敷で知らない場所はないと思いますけど?」
(いや、私だって自分で今のはないなって思ったよ?苦しすぎだなって。そんな言い訳通じるわけないって。ましてや毎日一緒に顔を合わせる家族同然の兄に。)
「私に嘘が通用するわけないでしょう?まったく、あなたって人は」
彼は呆れたようにため息を吐く。
ゔう……。こうなったら一旦適当に謝ってお願いするべし!
「そうです!嘘つきました!ごめんなさい!見逃してっ!お願いっっ……!」
「んー、どうしましょうか。ふっ。反省してないですよね?誠意が感じられません。適当に謝れば許してくれると思ってますね、これは。」
くぅっっ!バレたか。流石は私の兄兼専属護衛ね。
仕方ない。もう早くも最終手段を使うしかないみたいね。
必殺っ!何でもお願い聞いちゃう攻撃!
いくらフィンでも願いを叶えてくれるっていう言葉には弱いはず。
「フィンのお願い何でも一つ聞くから!」
「私の願い…………何でも、ですか?」
「あ、そんな真面目に何でもって言われるとちょっと怖いんだけど……でも、私にできることなら可能な限り叶えてあげる」
「…………」
なぜか急に黙り込むフィン。
「…………」
「…………」
願い事がなくて考え込んでる?
思い返してみれば、フィンは物欲がない気がする。今までフィンが何かを欲しがったことは聞いたことがないかもしれない。立場的に私に何かを望むことは難しかったのかもしれない。そう考えてみると申し訳なさに苛まれる。
フィンが望んだら絶対叶えてあげようと心に誓った。
「?………フィン?」
「……ん〜、そうですねぇ。見逃してほしいですか?」
彼は願いを口にする代わりに私へ尋ねてきた。その時、一瞬フィンの口端がニヤリとした気がした。
これは……
「………ねぇ、フィン、私に意地悪してるでしょ」
「………くっははっ」
意地の悪い顔をして、笑いを堪えられなくなったのだろうか、声を吹き出して笑うフィン。
手で口元を隠してても目が笑いを抑えられていない。
「ほらぁっ!私、真剣にお願いしてるんだけどー?」
抗議の意思を示す。彼の答えを得ようと暫く待ってはみたが、肩を振るわせながらまだくつくつと笑っている。
「ちょっとフィン、いつまで笑ってるのよ!」
「ふぅー、すみません、ルビア様が真剣にお願いしてくる必死さが可笑しくて」
ひとしきり笑い終えたのか息を整え、私の必死の頼みを可笑しかったと言う。
ひどい…!私の渾身の必死の頼みを…!
「そんなこと言うならもうお願い叶えてあげないんだから!」
「ああ、それは困りますねぇ、じゃあ今度一緒に街に出掛けてくれるなら黙っててあげます。ちょっと欲しいものがあるので」
フィンの願いはそんなに大した物ではなかった。街ならたまに出掛けるのに。でも欲しいものあるみたいだし。
「分かった。一緒に行こう!フィンの欲しいものも気になるし!」
「ふふっ、別に期待されるものでもないですけどね?」
気になる。でもそれはお楽しみにしておこう。
「そ?じゃあそろそろリヤも部屋に来る頃だろうし、私はまだ見つからないうちに部屋に戻るわ」
「部屋まで送りますよ」
「ううん。一人で戻るわ。二人で動いてしまったら目立つもの。気にしないで」
「……はい。ではお気をつけて」
残念そうな顔をしたフィンだったが、私は一人でこの場を後にした。
読んで下さりありがとうございます!
ほんとうに久しぶりの投稿です。忙しく、執筆できない日々が続いておりました。
今後もなかなか更新できない日々がまだ続くかと思います。
でも、必ず完成させますので、お付き合い願えたら嬉しいです。