林太郎の決意
「乃愛先輩、朝ですよ」
「んっ、おはよう」
「あー!タオルタオル!」
「見たなー、変態」
「見せたのは乃愛先輩じゃないですか!」
「見せちゃったー♡」
「早く服着てください」
「はいはい」
乃愛先輩は服を来てカーテンを開けた。
「見て」
「なんですか?」
「なんにもありませーん!」
「......朝ごはんにしますよ」
「食べる食べるー!」
昨日あんなに泣いてたのに、今日はやけに元気だな。
一緒に朝ごはんで食パンを食べて、乃愛先輩は帰らないといけないらしく、歩いて送っていくことになった。
「あつ〜い」
「ですね〜」
「今日は帰ったらなにするの?」
「なんにも予定ないですよ」
「んじゃ、電話しよ?」
「電話ですか?」
「ずっと繋げてようよ!」
「いいですけど、寂しがり屋ですね」
「離れてても近くにいるみたいでいいじゃん!」
「寂しがり屋の乃愛先輩も好きですよ」
「いっぱい好きって言ってくれる蓮が好き!」
「や、やめましょう。外ですし恥ずかしいです」
「可愛い♡」
「やめましょ!」
そんなこんなで乃愛先輩を家まで送り、その日はずっと電話を繋いで過ごした。
それから数日が経ち、夏祭りの日がやってきた。
一度、夏祭り会場の近くのデパートに集合し、全員で夏祭り会場に足を踏み入れた。
「いい?去年の男性を見つけたら、すぐに言ってちょうだい」
「はい」
すると千華先輩が立ち止まり唐揚げ屋を指差した。
「いた」
「え、早っ」
三人の男性は唐揚げ屋に並んでいたが、僕達に気付いて駆け寄ってきた。
「雫先輩、これヤバいんじゃ」
「全員で行動して正解だったわね」
「ボコボコにしていい人?」
「花梨さん、まずは相手の出方を見てからよ」
「いたいた!今年も来ると思ってたぜ!」
「なんの用かしら」
「去年の詫びをしたくてな」
「どういうこと?」
「あれから反省したんだ。なんか奢らせてくれ」
「ほー、フランクフルト買ってこい」
乃愛先輩、1番の被害者なのに全然ビビってないし。
「分かった」
「私もフランクフルト」
結愛先輩まで......本当に大丈夫かな。
「りんご飴買ってきて」
「ラムネ」
千華先輩と花梨さんも......待て、花梨さんは関係ないでしょ。
「んじゃ、くじ引きの一等持ってきて」
「そ、それは......」
梨央奈先輩⁉︎それはさすがに無理でしょ‼︎
「できないんですか?」
「できるだけ頑張るけど」
「できるだけですか?お詫びしたいんですよね?私、一等のゲーム機が絶対欲しいです」
アンタすぐ買えるじゃん‼︎毎日一個買っても余裕な人じゃん‼︎
「梨央奈先輩、さすがに無理がありますよ」
「蓮くんも遠慮しないで欲しいもの言いな?」
「......かき氷」
「おう!了解した!会長さんはどうする」
「私はなにも要らないわ」
「そう言わずに、なんでも頼んでくれ」
「貴方達が更生したという事実だけで充分よ」
「さすが会長!」
「別に貴方達の会長ではないわ。気安く呼ばないでくれるかしら」
「す、すみません!」
「それじゃ、みんなのお願いした物を買ってきてちょうだい」
「はい!」
「あ、ちょっと待ちなさい」
「なんだ?」
「やっぱりかき氷をお願い」
「了解!」
三人の男性はバラバラに走り出し、僕達はその場で待機することになった。
「止まってると暑いですね」
「そうだねー」
「にしても、駆け寄ってきた時はビックリしましたね」
「蓮先輩、あんな男にビビってるの?」
「そりゃ色々あったから」
「ダッサ」
「グサッ......梨央奈先輩!なんとか言ってやってください!」
「そうだね、暑いね」
暑くて人の話し聞いてないし。
しばらくして、梨央奈先輩がお願いした物以外の物を買ってきてくれ、雫先輩はかき氷に手をつけずに瑠奈に電話をかけた。
「瑠奈さん」
「なにー?」
「唐揚げ屋の前に来なさい。かき氷をあげるわ」
「え!行く行く!林太郎!行くよ!」
雫先輩は自分のためじゃなく、瑠奈のためにかき氷を頼んだのか。この人は本当に優しい。
10分後、瑠奈と林太郎くんがやってきて、瑠奈は嬉しそうに雫先輩に駆け寄った。
「かき氷は?」
「はい」
「......溶けてるじゃん‼︎ジュースみたいになってる‼︎」
「来るのが遅いからよ」
「下駄なんだからしょうがないじゃん‼︎」
「いいから受け取りなさい」
「もう......」
瑠奈はジュースのようになったかき氷をストローで吸うと、すぐに笑顔になった。
「まだ冷たい!」
「よかったわね」
「相変わらず浴衣姿可愛いね!」
「梨央奈も浴衣着ればいいのに!」
瑠奈と生徒会のみんなが話してる時、僕は林太郎くんと小さな声で話をした。
「瑠奈を頼むね」
「おう。なぁ、今日告白しようと思うんだけど」
「え⁉︎」
「瑠奈は蓮のことが好きだけど、なんか、浴衣姿の瑠奈を見てたら我慢できなくなったわ」
「そ、そっか」
「振られたら俺の心のケアを頼む」
「それはいいけど」
「蓮!暇になったら電話だよ?」
「う、うん!」
「今日は暇になんてならないわよ」
「なんで⁉︎」
「ずっと全員で見回りだもの」
「んじゃ、蓮と祭り楽しめないってこと⁉︎」
「そうね。来年まで我慢しなさい」
「無理‼︎やだ‼︎」
「瑠奈っぴ、我慢しなよ」
「なに、その最後のピ」
「可愛いじゃん、ニックネーム」
「千華先輩ってニックネームのセンスないよね」
「は?」
「は?」
「チビ瑠奈、我慢我慢」
「そうだよチビ瑠奈っぴ」
「乃愛先輩、結愛先輩......お前らもチビだろうがー‼︎」
「梨央奈さん、花梨さん、二人を抑えて」
瑠奈に殴りかかりそうな二人の体を後ろから掴み、雫先輩は林太郎くんに視線を向けた。
「連れて行きなさい」
「は、はい!」
瑠奈は林太郎くんに引っ張られながら「蓮〜!後でね!絶対後でねー!」と言い、周りから注目されて恥ずかしくなってしまった。
「梨央奈さん、一等は無理だから、見回りを続けましょう」
「うん!そうだね!」
見回りを続けていると、お客さんが誰も並んでいないタコ焼き屋さんを見つけて立ち止まった。
「あれ、うちの生徒よね」
「あー、私と同じクラス」
花梨さんと同じクラスの女生徒と、そのお父さんらしき人が二人でやっているタコ焼き屋だった。
「あの子の家、貧乏で有名なんだよね」
「タコ焼き食べた人はいるかしら」
「僕、食べたいです!」
「私も!」
みんな食べたいと言い、雫先輩はタコ焼き屋に向かって歩き出した。
「いらっしゃいませ!」
「か、会長⁉︎」
「そんなに怯えた顔をしなくても大丈夫よ」
「こんにちはー」
「生徒会のみんな......」
「なんだ、お前の学校の生徒会か?」
「そ、そうだよ!ちゃんと挨拶して!」
「さっき、いらっしゃいませと言っていただいたわ。売れ行きはどうかしら」
「恥ずかしい話、まだ二組しか買いに来てなくて」
「お父さん‼︎敬語使って‼︎」
「おぉ、悪い悪い」
「そんなに怯えないでちょうだい。お客として来ているのに、逆に失礼だわ」
「ご、ごめんなさい!退学だけは勘弁してください!」
「だから......まぁいいわ。とりあえず1パック買うわ」
「ありがとうございます!」
タコ焼きを1パック購入し、爪楊枝を7本貰ってみんなでタコ焼きを一つ食べた。
「んー!美味しい!」
乃愛先輩は嬉しそうに僕を見つめてタコ焼きを食べ始めた。
「蓮のおいひぃ!」
「わざわざ僕の名前呼ばないでください。のってなんですか、たこ焼き以外の物食べたみたいに聞こえるんですけど」
「あ、そっか。蓮のならタコ焼きもう一つ足りないや」
「丸い物が二つですね。分かったんで少し黙っててください」
「酷いタマタマだ!あ、間違った、彼氏だ!」
構ってもらえるから嬉しくなってるんだ。無視しておこう。
「美味しかったわ」
「ありがとうございます!」
「タコ焼きを完売したら、幾ら儲かる計算かしら」
「一応、30万にはなる計算です」
「全部買うわ」
「えー⁉︎」
「お金を払うに見合う味だったもの、当然よ。私が全部買って、店の前に無料と書いた看板を立てなさい」
「食べたい人に無料で配るってことですか?」
「そうよ?作った人間は、食べてもらうことに喜びを感じるはずよ?お金は払うから、沢山の人に食べさせてあげなさい。丁度30万でいいかしら」
財布から帯の付いた札束を出す雫先輩を見て、僕達は唖然とするしかなかった。
「さ、30万......確かに」
「それで貴方、夏祭りも親の手伝いなんて大変ね」
「ま、まぁ......」
「理解していないの?タコ焼きは完売したのよ?夏祭りを楽しみなさい」
「え......」
「そうだな、いつも小遣いすらやれてなかったし、これで楽しんでこい」
「いいの?」
「おう!」
一万円を貰い、女子生徒は嬉しそうに誰かに電話をかけた。
「やっぱり夏祭り一緒に遊べる!うん!今行くね!」
雫先輩は最初から家庭の事情を知っていて、これが目的だったのかな。
「それじゃ、7パック貰おうかしら」
「今焼きます!」
「お願いします」
タコ焼きが焼けるのを待っていると、何処かへ行った女子生徒が戻ってきた。
「会長!」
「なにかしら」
「これ、お礼です!」
女子生徒が持ってきたのは、くじ引きのハズレ商品の黒猫のストラップだった。
「レックスそっくりですね」
「私はいいわよ。お小遣いを大事にしなさい」
「でも......」
「でも、ありがたく貰うわ」
「ありがとうございます!」
雫先輩はその場で携帯にストラップを付け、女子生徒は嬉しそうに頭を下げて立ち去り、お父さんもとても嬉しそうだった。
去年の雫先輩なら絶対にしなかった行動に僕達は驚きを隠せなかったが、出来上がったタコ焼きを食べながら見回りを続けた。
「乃愛先輩、暑いですか?うちわ貰ってきますよ?」
「う、うん!大丈夫!」
一瞬元気がないように見えた乃愛先輩を気遣ったが、すぐに笑顔に戻った。
僕の気のせいかな。




