助けて
雫は部屋に戻らず、廊下を行ったり来たりしていた。
「雫?なにしてるの?」
雫は母親に声をかけられ、驚いて体がビクッとなったが、必死に冷静を装った。
「寝る前に体を動かすのが日課なので」
「そう、早く寝なさいね」
「はい」
結局部屋に戻り、ベッドに座りながら蓮の寝顔を眺めている時、蓮は目を覚ました。
「あっ......」
「すみません、寝ちゃってました」
「そうみたいね」
「なんか、すごく疲れる夢を見てました」
「どんな?」
「乃愛先輩にやり直そうって言われて、お泊まりしたら朝早くに起こされて、そしたら乃愛先輩の胸が大きくなってて、それでー、まぁいろいろと」
「そう、大変ね」
(その後触ったのよね‼︎)
蓮は立ち上がって背伸びをした。
「もう寝なくていいのかしら」
「また後で寝ます!それよりお風呂入りたいんですけど」
「図々しいにも程があるわよ」
「一緒に入ります〜?」
「乃愛さんのことが好きなのに、よくそんなことが言えるわね」
僕は一瞬で気分が下がって暗い表情をしてまい、雫先輩は一瞬不安そうな表情をした。
「ご、ごめんなさい」
「いやいや!好きだけどどうしようもないから、心にもないこと言って強がってるだけです。自分が弱いのが悪いんです」
雫先輩は立ち上がって僕の目の前にやってきた。
「弱くてもいいのよ」
「......」
「弱さは恥じゃないわ。その弱さを馬鹿にする人も世の中にはいるけれど、私は蓮くんの弱さを否定しない」
「なんか、ありがとうございます」
「私がついてるわ、辛い時や悲しい時、なんでも聞いてあげるわよ」
「......本当優しくなりましたよね」
「私も弱いから、蓮くんの気持ちが分かるのよ。弱さを隠すために強い自分を演出したりして、でも、それをする度に虚しくなるわよね」
「分かります......」
「蓮くんは色んなものを背負いすぎだわ。みんなに私を救ってほしいってお願いされてるのよね」
「はい」
「気にしなくていいわよ。私のことなんて考えないで、自分が幸せになることを考えなさい」
「......今......虚しくないですか?」
「......」
僕は今まで触れなかったことについて話を聞くことにした。
「この箱に入ってる写真、全部雫先輩の顔だけ塗り潰されてますよね」
「......そうね」
「雫先輩は今の自分が嫌いなんじゃないですか?そして気付いたら、昔の自分までも嫌いになっていた」
「もう、どれが本当の自分かも分からないわ」
「マジックペン借りますね」
「なにをするの?」
「乃愛先輩が教えてくれたんです!マジックは上からなぞってから拭くと取れるって!写真なので、少し汚れは残ると思いますけど」
家の庭で撮った家族写真を取り出して、僕は雫先輩の顔についたマジックを取り始めた。
「このタオル借りますね!」
思った通り、少し黒色は残ってしまったが、素敵な笑顔の雫先輩が出てきた。
「これが本当の雫先輩です!」
雫先輩は写真を見た後、立ったまま僕に背中を向けて下を向いた。
僕は気にしないで次の写真を綺麗にしようと、転んで膝が擦り剥け、地面に座ってる小さい頃の写真を綺麗にし始め、マジックを取ると、痛そうに泣く雫先輩が出てきた。
「こうやって泣いてる雫先輩も本当の雫先輩ですよ」
「......」
雫先輩は掛け布団の下から鬼のお面を取り出して自分の顔に当て、僕は顔にお面を当てて肩を震わせる雫先輩の前に立ち、微かに震える手で持つお面に優しく触れた。
「僕は雫先輩を助けます。梨央奈先輩との約束ですから」
そのままお面を外すと、雫先輩は綺麗な目をして泣いていた。
「今だって泣けるじゃないですか。全部が本当の雫先輩です」
「蓮くん......」
「はい」
雫先輩は僕の服を少し引っ張り、そのままもたれかかるように僕の胸に顔を埋めた。
「し、雫先輩⁉︎」
「......助けて」
「ま、任せてください‼︎」
雫を心配してドアに背をついて話を聞いていた母親は、ニコッと笑って自分の部屋に戻っていった。
それから雫先輩は泣き止み、2人で写真を綺麗にしていき、気づけば夜中の1時になっていた。
「終わりましたね!」
「そうね」
「素敵な表情ばっかりじゃないですか、これなんて凄い可愛いです!」
雫先輩が苺狩りを楽しんでいる中学生の頃の写真を見せると、雫先輩は少し顔を赤らめて写真を奪った。
「もう見ないでちょうだい!」
「せっかく綺麗にしたのに、少しは思い出話とか聞かせてくださいよ」
「そんなことより蓮くん」
「はい?」
「ずっとタオルだと思って使っているそれ、私のワイシャツなのだけれど」
「......は⁉︎ごめんなさい‼︎」
すると雫先輩は優しい表情で言った。
「いいわよ」
「.....こわっ」
「はい?」
「雫先輩が笑って許すとか明日は空からウーパールーパーが降ってきますよ」
「......」
雫先輩はいつものような無表情に戻ってしまった。
「それですそれ!なんか安心します!」
「私をおちょくっているの?それにウーパールーパーが可哀想じゃない」
「え、そこ?てか怒りました?ちょっ、来ないでください!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
雫先輩は座っている僕に近づいてきたが、ワイシャツで足を滑らせて、僕を床に押し倒す体制になってしまい、キス寸前で目が合ってしまった。
「......」
「......」
雫先輩は慌てて僕から離れ、目を泳がせながらベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
「いきなり⁉︎」
「蓮くんは床で寝なさい」
「は、はい......」
蓮はまた気づかないうちに寝てしまっていたが、雫は朝まで眠ることができずにいた。
翌朝、雫先輩はレックスを連れて早くに学校に行ってしまい、僕が雫先輩の家を出る時、雫先輩のお母さんに声をかけられた。
「お泊まりはどうだったかな?」
「あ、おはようございます。なんか、いろいろありました」
「体の関係はまだ認めないわよ?」
「してません!」
「そう。ねぇ蓮くん?」
「はい?」
「詩音の居場所......知りたい?」
「し、知ってるんですか⁉︎」
「私にだけは今でも連絡をしてくるのよ」
「教えてください!どこにいるんですか⁉︎」
「さーて、どこかな?」
「教えてくださいよ!」
「口の軽い女は嫌われるの。それに知らない?情報はお金なるのよ?」
「い、幾らですか......」
「蓮くんはまだ学生だからね、100万円でいいわよ」
「無理ですよ!」
梨央奈先輩に頼んだら一瞬だろうけど、迷惑はかけたくない。
「それじゃ、私の心を動かすことね。連絡先を交換しておきましょう、なにかあればすぐに連絡しなさい」
「分かりました」
その頃雫は、生徒会室の自分の席に座り、手鏡を持ってぎこちない笑顔を作っていた。
「おはよー......気持ち悪っ!」
生徒会室に花梨が入ってきて、雫はすぐに無表情に戻った。
「なんのようかしら」
「あ、いや、千華が飼い方も知らないのにウーパールーパー掬いしてきてさ、飼えないから連れてきた」
「え」
「ニャ〜」




