第8話
「ほら、あいつを倒した時!」
ビシッと指さされたのはあのネズミだった。
少し時間が経ってはいるものの、血が溢れている。
「何のことかさっぱりなんですが…」
「本当に 本当に覚えてないの?」
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傀は集中していた。
今までに経験したことが無いほどの出力で脳を動かされる。
ネズミの息、動き、脈拍、骨格。
ネズミの全てが手に取るように感じられる。
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「え?あ、 き 気持ち悪い」
初めての感覚に、感じたことのない不快感に襲われる。
奴らのことで強くなった胃は、変な浮遊感によって遡ってくるものをまた防いでくれる。
しかし、なんで僕がネズミの息も動きもわかったんだ?
あれはなに?
「大丈夫?」
心配そうに下から覗き込む。
そこで、
「そうだ。あのネズミを倒したんだ、僕が。けど、どうして?」
「?」
傀は落ち着きを取り戻すように、ティラに変な感覚のこと、ネズミを倒したのは覚えているが、途切れ途切れ思い出せないことを話し始めた。
その間、ティラは何も言わずただ頷いていた。
が、唐突にティラが口を開いた。
「技術」
「スキルですか!?」
と、傀が勢いよく項垂れていた頭を上げる。
こんな僕にも自分の、自分だけのスキルがあるなんて、と喜びに満ち溢れる。
ティラは傀に驚きつつも、ゆっくりと落ち着いた雰囲気で話し始めた。
「これは、私の推測なんだけど、多分 傀のスキルは集中力を極限まで高めるやつじゃないかしら。名付けて『絶対集中』!」
傀は「絶対集中」と繰り返し小さく呟く。
それが僕の強み
「多分ね」ティラが続ける。
「戦っている間の記憶がないのがその証拠!戦うことに全力で脳が集中したから、記憶するっていうことまで働かなかったんじゃない?
それと、戦った後の気絶は、脳が力以上使ったから、ストッパーが働いたからなんじゃない?
何かに没頭しすぎると周りの音とかが聞こえなくなったりしなかった?」
「そういえば、よく言われてたような」
「じゃあ、多分そうだと思うわ!よかったわね!」
傀は喜びを噛みしめる。
「それにしても、傀って面白いわね!やっぱりヘルダイバーだからかしら」
突然の言葉に驚く。
「だって、スキルがあるってことにあまりにも嬉しそうだし、こんな森の中にそんな服でいるんだもの!」
傀が尋ねるよりも早くティラが答える。
それにより、ますます傀の動揺は激しくなる。
「ねぇ、私と契約しましょ!」