第75話
団長のその動きに傀は目を見開いた。
教会で祈りを捧げるようにしなければならないものだとばかり思っていた。
真逆、何でもいいのか…?
ぼけっとした頭を叩き起こし、ティラの方へ向き直る。
「あの、えーっと、…何だっけ?」
「私に聞きたい事があるんでしょ?」
そうだった。
すっかりなんの話だったのか忘れてしまっていた。
「…………」
なんか、改めて相談するとなると緊張する。
じっと鋭い眼光で見つめるその黄褐色の瞳から逃げるようにパッと視線をずらした。
二つの手の指を何度も絡めては解き、絡めては解くのを繰り返す。
不思議と胸に抱いた漠然とした不安感と、今日は何故か彼女の機嫌が悪いことが相まって、モヤっとした後ろめたさが残る。
いや、何も後ろめたい事では全くもってないんだ。
彼女がどうして見えていたのかをただ聞くだけなんだから。
喉に痞える何かを咳払いで払い退け、口を開く。
「あのさ今日なんだけど、学校で…いや、学校って言うのは勉強とかする場所であって…」
「訓練所みたいな?」
学校と言う言葉に首を傾げたティラに補足説明をし、より良い例えが返っていた。
「まぁそんな感じの場所なんだけど、そこで今日ドックタグが見える子にあったんだ」
今日あった事を事細かく説明する。
「ドックタグが見える子ね〜」
「うん、お婆さん…魔女さんの話では、見えるって事は こっちの世界に関係があるか、魔女かのどれからしいんだけど、ティラはどう思う?」
ティラは難しそうな顔をしながら、うーん、と少し考えてから、パッと目を開けた。
「伝承だと、異世界の住人は契約品に干渉出来ない。って言うのがあって、それに干渉できるのは契約者、魔女、異世界移動者、その資格があるもの、って言われているの。異世界移動者って言うのは、団長達みたいなダイバーの事ね」
「うん、それで…」
「私が思うに、その子はその資格があるものだと思うわ!よっぽどの事がない限り魔女なら何かしら気づくだろうし!」
やっぱり、魔女の可能性は低いのか…。
じゃあ、ヘルダイバーの可能性はどうだろう?
「じゃあダイバーの可能性は…」
「その可能性も捨てきれないけど、突然見え始めている気がしたなら、やっぱりダイバーの可能性は低いわね」
「やっぱり?」
「そうね」
成る程。そこまで、頭が回らなかった。
可能性だけ見て、迷って、無駄に考えて、結局原点に戻る。その繰り返しだった。
そうだよな。複数答えがある場合は消去法で答えを一つずつ消していくのが正しいやり方だった。
そう言えば、もう一つ気になる事があったな。
「あのさー、もう一つ聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
ティラが自分の質問に興味津々で目をパチクリさせている。
「僕が向こうの世界に行っている間このドックタグの石の中に入っているんだよね?」
「そうだけど?」
「それで、この中ってどうなっているの?」
ただ単純な疑問。
ドッグタグに付いている山吹色の宝石の中で眠っているというのは聞いたが、実際にその中はどうなっているのかは聞いたことがなかった。
傀が向こうで過ごしている時間は、こっちのヘルワールドで暮らしている時間よりも時間の進みが遅いわけで、ティラは今までとは異なる時間感覚で この宝石の中で過ごさなければならないのだ。
今まで僕は彼女に無理を強いていたのではないか、傀の胸がドキッと跳ねる。
「あ、この中ね。この中は…、何て説明すればいいのかしら…?ちょっと言葉で説明しづらいのだけど、イメージとしては宿屋の一部屋って思って貰っていいわ」
「宿屋の一部屋…。じゃあ、狭くて暗いとかはない感じ?」
「そうね、ちゃんと寝心地のいい場所もあるし、まあまあ明るく出来るから暗さで悩んだ事も狭さで悩んだ事もないわね」
その一言にホッと胸を撫で下ろす。
もし嫌々自分の世界に帰るのに付き合ってくれているとしたら、きっと今頃 罪悪感に押しつぶされていただろう。




