第67話
教室のスピーカーから流れる昼の放送が終わり、チャイムの音が全ての始まりを告げる。
その音と同時に どこの教室も騒がしく、ガチャガチャと食器やお盆などを片付け、一階の搬入口に向かう生徒が列を作っていた。
例に漏れず、傀の教室でも片付けの為に一列に並んだクラスメートが がやがやと各々で会話を繰り広げている。
しかし、その長い列とは別に三人組の男が教室の外から扉を叩いた。
ノックとも言えないような乱雑な音に、何人かが音の鳴る方へ 目を向けたが、その先にいるのが誰だか分かると、パッと目を外した。
喉がごくりと音を立てる。
僕は何をしに来たのか、よく分かっていた。
__目と目が合った。
そして、ようやく標的を見つけたのか、男達はニタニタと笑いながら付いて来る様に指を差す。
勿論、僕は彼らの指示する通り、付いて行くしか選択肢しかない。
もし彼らを無視したり、待たせたりすればする程 余計に殴られる回数が増えるだけ。
いや、こんなふうに奴らが来るのは久しぶりだからか、どうやら感覚が麻痺しているようだ。
向こうの世界で 色々な人と訓練したり、学んだりしたせいか、あまり恐怖を感じていない。
大きく息を吸い、酸素を脳に運ぶ様に深く呼吸する。
そして、席を立ち奴らの待つ教室の入り口に一歩一歩 歩いて行く。
不思議と恐怖はない。
しかし、傀の歩調は突然止められた。
誰かが彼の腕をグッと後ろから掴んだのだ。
「…なぁ、ミッチー。あいつらと本当は仲良くないんだろ?__なら行く事ないだろ」
未だに片手に本を持ったままの沼田が、珍しく真剣な表情だった。
いつもふざけているか 表紙を偽った漫画本を読んでいる彼が、その本から目を外し、こっちを見ている。
「うん、そうなんだけど、…朝に約束したからさ」
それを聞くと沼田は スッと手を離し、再び 本を持ち直した。
目を伏せて、一つため息をつく。
「もし、なにかあったら相談しろよ」
僕はその一言に驚いてしまった。
いや、それもそうだろう。
いつも変な事しか言わない沼田から、こんな事を言われるとは思ってもいなかった。
そして、そんなことを言ってくれる人は一人しか いなかった。
「うん、ありがとう。行ってくるね」
体に熱が帯びていく感覚がする。
ワクワクする様な、ふわふわする様なそんな感覚。
そして、男達の前に立った。
「待ってたぜ? お楽しみの時間だなぁ!さぁ、いつもの場所にでもいくか?」
その三人のリーダー格である、薫が傀の肩に腕を回し逃げられない様にフォールドし、取り囲む。
「なぁ、傀君。何で俺らが最近絡まなかったかわかるか?」
「何で?」
傀の反抗的に チッと、舌打ちをし、傀の首を腕で締める。
「おい!敬語使えよ! 格下の癖にっ!………、まぁ今はいい」
数秒強く締めたが、それを言い終わるとゆっくりと力を抜き、元の姿勢に戻った。
「刃に、アイツがない時はテメェに勝手にボコらないように言われてた訳」
「_まぁ、アイツ 最近じゃあ学校に来てないみたいだし、鬱憤も溜まってきたから今日お前をボコしてみようて、話」
薫の嬉しそうに話すのを後ろの二人もニヤニヤしながら聞いていた。
「母親がさぁ、成績の事でうるせぇんだよ。父親は父親で、怒鳴るだけしかしねぇえ。褒める事も、遊びに連れて行く事もしねぇえ。可哀想だと思わねぇ〜か?あぁ、お前母親だけだし、わからねぇーか」
血が上っていくのを感じる。
熱くなった顔を見て、薫は嘲笑うかのように吐き捨てると、傀の肩から腕を解き放った。
いつもの場所に着いたからだ。




