第54話
野原から大きな門を抜けて街へ戻ってくると、街は夕飯の買い出しに来た奥さんや、足早に家に帰っていく小さな子供たち、夕食をどこで食べるか相談し合う人たちで賑わっていた。
菊那さんの後ろにピッタリくっついて、そんな人混みの中、自然とできたであろう人の流れに沿って歩く。
細い市場の中を突っ切るのも一苦労である。
少し背伸びして見るに、一際人混みが目立つのがBRW団本部の建物前だ。
ちょうど依頼を終え、それを報告しに来た冒険者で溢れえっていた。
菊那さんはもう慣れているからか、スッと目的地の前で小さな小道に入ると、壁に沿って進み、これ以上進まないように書いてある看板や行手を阻もうとする小さな戸を開き、BRW団本部の裏口を開き、僕たちに中に入るように促す。
「ぼ、僕たち、入っていいんですか?」
「もちろん、BRW団の副団長、菊那が開けたのだから、いいに決まってるでしょ」
しかし、先程の冒険者達と何ら変わらない僕たちが裏口から入ってもいいものだろうか、と少々の不安を感じる。
だけど、菊那さんについていかなくちゃ。
裏口からそっと忍足で入り、扉をそっと閉める。
どうやら、そのままロビーに繋がっているわけではなく、部屋に繋がっていたらしい。
部屋は 日がそんなに入らないのか少し薄暗いが、ソファーやテーブルなど色々揃えられていて、休憩スペースになっているようだ。
「もちろん、靴はそのままでいいからね」
菊那は、壁に備え付けてあるランプの台座にあるつまみを回す。
すると、パチっと鳴ったかと思うと、明々と灯りがあたりを照らす。
思ったよりも明るい
金色の台座のランプは 壁に一つ一つ丁寧に付けられていた。
所々、金のメッキが剥がれているものもあるが、それが逆に趣があると言っていいだろう
確かに、宿屋にも訓練所などで見覚えはあったものの、簡素なものだった。
加えて、ここのランプは一段と心地よい明るさがある。
「とてもおしゃれな灯りねー」
「ずっと眺めていても飽きない」
_コンコン
「は、はい!」
「だんちょー、呼んできたよ」
いつの間にかいなくなっていた菊那は、どうやら団長を呼んできたらしい。
「あれ?傀くんがなんかあったのか?」
ひょこっと菊那の後ろから出てきた団長である葉戸 鮎太朗はどうやら料理をしていたのか、腰に巻くエプロンをつけたままだった。
一旦、全員ソファーに座って落ち着くと、向き合った。
「いや、団長にお願いしたいことがあってね」
「なんだ?お前からのお願いなんて珍しいなぁ」
「ティラちゃんの訓練の教官やって欲しいんだよね」
「うん?話全く見えてこないんだけど」
鮎太朗は腕を組んで首を傾げる。
「ティラちゃんも傀くんと一緒に強くなりたいんだって」
「うん」
だからさ、ティラちゃんの訓練手伝ってくれないかなぁって
うん?
ね、お願い?
お、おぉん
「わかった わかった、こっちのちっこい妖精に手を貸せばいいんだな?」
「ちっこいですって?」
「ティラ、落ち着いて」
腕をブンブンと回すティラを抑える。
「まあ、ちっこい妖精さんよろしく」
「何よもぉ──!」
ティラは腕を振りまわし、鮎太朗をポカポカと叩いてみるものの、全く効果はない。
「冗談、冗談だってば」
ごめん ごめんと謝るものの、彼女の耳には入らない。
「あ、そういえば、傀くん明日暇?」
「だ、大丈夫です!」
「じゃあ、ティラちゃんと団長、俺と傀くん で訓練しようか」




