第5話
キーン コーン カーン コーーン〜
いつも通りのありふれたチャイムが 授業の終わりを告げる。
スピーカーで拡散されるそれは学校の校舎を超えて響いていた。
そう、それはいつも通りのことだった。
傀は、校舎裏で数人の男達に囲まれていた。
もちろん、傀自ら校舎裏に来たのではなく、肩を組まれ強制的に引っ張られながら連れてこられたのだ。
連れ去られていく彼の姿に誰しもが態とらしく目を逸らす。
「かぁーいくん。
あの課題の問題、間違ってんじゃねぇかよっ!」
その言葉と共に男の拳が傀の腹へと向かい、腹の中心部で大きな衝撃を起こす。
衝撃に押し潰された胃液が今にも飛び出ようとする瞬間に、ギリギリ蓋が胃の入り口を押さえつけ、逆流するのを防いだ。
その様子を見て、満足そうにニヤニヤと嗤う奴等。
そう、これも いつも通りのことだった。
衝撃によろけた傀を別の男が腕を押さえ、支える。
_助けてくれるかもしれない
そんな期待も前まではしていたけど、決してそんなことはない。
きっと今にも僕を突き飛ばすんだ。
「ダウンするには、早えんだよぉ。
ほんとつまらねぇ屑だわぁ!」
予想通り、支えてくれていた男が 気持ちの悪い笑みで 傀を勢い良く突き飛ばす。
そして前に倒れそうになったところをまたあの男が殴るのを何度も繰り返すのだ。
しかし、同じ様な反応に飽きたのか、男達は噛んだガムをポイっと捨てるかのように突然殴るのをやめ、傀を地面に放り投げた。
こいつらは人じゃない!
なんでこんな奴らが罰を受けないんだ!
何度そう思ったって、抗おうとしたって、非力な僕じゃどうしようもない。
_どうしようもないのだ。
地面に転がり、ただ無意味に砂を握りしめる。
地面に突っ伏してえずいている傀を転がし、いつものアレが入っている内ポケットに手を伸ばす。
取り出した財布をニタニタと笑みを浮かべながら物色する男達は、傀の目には悪魔にしか見えない。
中に入っていたのは3700円。
まあまあだな、と言いながらお金をポケットに突っ込み仲間達と笑い合っている。
不要になった 空になった財布が落とされる。
土埃の立った硬い砂の上に落とされた それは、ますます みすぼらしくなっていた。
擦り切れて、縫い目は解れ、砂で汚れたその姿は何処か僕に似ている。
「返して、ください…」
手を伸ばし、訴える。
だが、奴らはそんな僕を見てますます嗤った。
「バーカ、誰が返すかよ
お前が弱いから鍛えてやってんだよ!これはその授業料だろぉ?」
嘘だ!そんなことない!
誰も頼んでなんかいないし、こんなのただの八つ当たりだ!
それにそのお金は、こいつらに殴られ、踏まれ、引っ張られてヨレヨレになったネクタイを買うために母さんが一生懸命働いて、無理して渡してくれた3000円なのに!
手が震える。
傀の親は母親だけで、生活は裕福とは言えない家庭だった。
傀はそれでも幸せだったが、それが周りの標的になるには十分な理由だったのだ。
遊ぶ金を手に入れ、いつものように騒ぎながら去っていく男達。
それをただ見つめるしか出来ない傀。
拳を握り締め、涙を浮かべながらただ一言
「強くなりたい」
と呟いた。
これがこの物語の始まりであったのかもしれない。