第4話
「行きたい…、行きたいです!」
少年はパッと顔を上げ、お婆さんの目を見つめる。
「どうやって行くんですか?」
お婆さんはまじまじとこっちを見て、フッと笑ったかと思うと、「それ」と言わんばかりにひょいと指を差した。
いかにもお婆さんらしい年季の入った指の先を辿ってみると、指しているのは僕のジャケットのポケット。
首を傾げつつ そのポケットからさっき買ったばかりのお菓子を取り出すと、お婆さんは満足したように頷いた。
「これでどうやって…」
確かにこのお菓子は謎めいているけど、お菓子で異世界にいけるものなの?
例えば、女神様に召喚されたり、魔法使いに召喚されたりするものなんじゃ…。
少年は恐る恐る聞くと、お婆さんは食べる振りをしながら答えた。
「食べるだけさ」
お婆さんはそう言って、ウインクをした。
お世辞にもドキッともしないし、可愛いとも思えない。
そのお婆さんのおちゃらける調子を見て、少年はまた疑い始めた。
ーこのお婆さんは、僕をからかっているだけなのかもしれない。
ー生憎、僕は頭が凄く良いとは言えないし、色々と考えてることが顔に出てしまうし。
ーきっと僕は、お婆さんのおふざけに付き合ってるだけかもしれない。
ー僕は、お婆さんのイタズラに見事に引っかかっているいいカモなんだ。
すると、お婆さんが突然「食べてみたらわかる」と薄ら笑いを浮かべながらこっちを見つめている。また考えを読まれているように。
躍起になった少年はそれならと、とことん このお茶目なお婆さんに付き合うことにした。
そして、お菓子の袋を雑に開け 食べてみると、
甘くて、食べたことのある味だった。
そこそこ美味しいことに驚きつつ、何の味だったかと頭を捻る。
しかし、懐かしさと思い出せず、すっきりしない感覚だけが残った。
少年はあっという間にお菓子を食べきったが、全くと言っていいほど変化を感じずにいた。
ー僕はやっぱり弄ばれてたのか
少しの期待を抱いていた少年は肩を落とす。
それと同時に少年の顔が赤くなっていく。
そんなに怒っているわけじゃない。
どちらかと言うと、お婆さんのちょっとした悪ふざけを真に受けた自分自身が恥ずかしくてたまらなかった。
すると、お婆さんがよっこらしょと腰を上げ、ついて来るように言うと、何処かへ向かっていく。
慌てながら鞄を持ち、足の痺れに耐えながらどうにか ついていく。
どこに連れていかれるのかと思いきや、来た道を戻って、お店の方に戻ってきていた。
帰れってこと?
そう思い、靴を履いて帰ろうとすると、お店の中がさっきと違うのに気づく。
部屋を見回し、違和感の原因を探る。
原因はすぐに分かった、何か大きく黒くて渦を巻いているモノがあのお菓子があった場所にポッカリと開いていたのだ。
お婆さんは少年の背中をバシバシと叩き、「ほらな」と言わんばかりの表情を浮かべて言った。
「今から、お前は異世界に行くんだ、覚悟はいいね?」
ーお婆さんの言っていることは本当だったんだ。
固唾を飲み、手にかいていた汗を握りしめる。
ドキドキと激しく動く心臓を抑えながら向かう。
「そう言えば、名前は何だい?」
渦に触れようとした瞬間のお婆さんの質問で少年の強張っていた表情がピクリと動いたかと思うと、直ぐに柔らかく変化し、ようやく口を開いた。
「傀、__道永 傀です」
「そうかい。いい名前だ、気を付けなね」
そうして少年、道永 傀は吸い込まれるように黒の中へと入って行った。




