第16話
__ 三田村 豪
僕が小学校3年生のときに彼は転校してきた。
同じクラスで、ただ好きなものは違ったけど、不思議と話が合ったからよく二人で遊んでたんだ。
けど、僕はいじられる程度だったが、当時 彼は太っていたからよく周りからいじめられてた。
だが、僕たちが6年生のとき暴力事件が起こる。
豪をいじめていた生徒の腕や足の骨が素手だけで折られたと言う事件。
その犯人が豪。
あの事件が問題になったからか、豪は卒業式も出ることなく中学校に上がると同時に転校してしまった。
さっき見かけたあの人、豪の面影がどこかあった。
きっと、豪は_。
豪が変わった理由、それが少しわかった気がした。
「そうなのね…。
そう言えば、傀。重さとか苦しさとか、もう大丈夫なの?」
「え?…本当だ、なんともない。普通に歩けるし、普通に息ができる。」
前回の時よりも体が慣れたらしく、かなり軽く感じる。
重力に支配されてないような感覚、空気がしっかりとお腹に溜められるありがたみ。
鼻から大きく息を吸うと、こっちのヘルワールドの空気が美味しく感じる。
きっと、山に登る人はこの感覚が好きだから山に登るのかもしれないな。
「傀、ここが祭壇よ。ほら私の扉って、最後の場所から一番近い祭壇のことろに座標が設置されるの。」
「そうよ!せっかくの街なんだから防具を揃えたりしましょ」
鼻歌を歌いながら案内するティラに連れられて、防具屋へと着く。
店の奥に工房があるからなのか少し煙の匂いや鉄の匂いが店中に充満していた。
「らっしゃい、どんなのをお探しです?」
奥から分厚い皮の手袋を付けたままのドワーフ_店主が現れる。
「え〜っとね、傀の防具を買いにきたの」
「へいよ、かしこまりやした。彼氏さん、どんなのがいいか決まってるか?」
「へっ?!」
「か、か、か、彼氏?!傀は、そんなんじゃっ!」
フリーズしている傀に、慌てるティラ。
そんな二人をお茶目な店主は茶化す。
「これは失礼しましたね。もう結婚してたか!
旦那も妖精を嫁にとるとはなかなかやるなぁ!」
ドワーフのオヤジは、馬鹿でかい声で笑いながら、傀の頼りない背中を大きな手で叩く。
「け、け、け、結婚もなてないってば〜!!
ちょっと、もういいから早くなんか出して!」
ティラは顔を真っ赤にしながらオヤジを両手でぽこぽこと叩くが、全くダメージはない。
もはや、ドワーフの硬く分厚い筋肉には肩叩きとしても、効かないほどだ。
「はいはい、悪かった悪かったって。
それでは気を取り直して…、ご予算はいかほどですか?」
ティラは傀の顔をチラリと見る。
だが、傀は街に来るのも初めてで、通貨を持っている筈もなく、村長にしか連れられて来ないティラも同様。
つまり、無一文だ。
「す、すみませんっ、お金持ってないです」
店内に嫌な風が吹き、オヤジの顔も見る見る険しくなっていって、
「冷やかしなら帰ってくれ!!
こちとら、嫁も懐も寒いもんで、新婚ぶりを見せられて不愉快だ!」
と言い放つと、傀たちは店の外にぽいっとつまみ出されてしまった。
「なによ、あのオヤジ!茶化してくるし、お金がないってわかったらあの態度!!…確かに、お金ないのは悪かったけど…」
傀は、オヤジの”新婚ぶり”と言う言葉に顔を真っ赤にしながら俯く。
そして、小さな声で
「うん、そうだね」
と言った。
その2人の姿も周りからすると、冒険者を始めようとしている駆け出しのカップルのように微笑ましく見られていることも知らずに。




