第12話
バコッ!!
鈍い音が校舎裏で響く。
「砂飛ばすなよぉー」
「あ、わりぃ わりぃ!」
いつもの男達の声。
殴られているのはやはり傀である。
今日もただの鬱憤ばらし。
親がうざい、教師がうざい、登校中すれ違ったおっさんが臭い、そんなくだらない理由で殴られているのだ。
たったそれだけで僕は殴られている。
サンドバックにされているという事実が悔しくて悔しくてたまらない。
砂をかけるように蹴られた次は、両方から逃げられないように二人がかりで僕の腕を掴み、もう一人がお腹を目掛けて拳を入れる。
溜めていた息が爆発を起こすように飛び出て、それを取り戻すように息を吸う。
こんな僕をジッと冷ややかな目でこいつらのリーダーが見下している。
「相変わらず、顔ヤベーな。かっこよくしてやんよ!」
ある男が顔を力強く殴る。
「あ〜、顔はやめとけよって、もう遅いか」
「アハハハハ、分かってるって!」
リーダーが声を掛けるも、男達は笑いながら流す。
ここでいつも大人しく殴られ続けるのがお決まりだったが、今日の傀の目は違った。
常に垂れている眉をキリリと引き上げ、睨みをきかせた。
傀のちょっとした抵抗だったのだが、それに気がついたリーダーが傀の腹に他の男達よりも強烈な拳を一発打ち込み、へたり込んだ傀の長い前髪ごと顔を持ち上げ、顔を覗き込む。
押しつぶされた内臓達が悲鳴を上げ、何かが上がってくる感覚が傀を襲う。
それと同時に、鋭い眼光を目にした途端、体が石のように固まる。
「あ”? なんだその生意気な目は?」
傀は何も答えない。
何故なら、答えるだけの力もなかったからだ。
殴られた反動
圧倒的力
恐怖
「ダッセー」
リーダーは吐き捨てるように踵を返し、歩いて行く。
男達はリーダーの反応に驚きつつ、動かなくなった傀に砂をかけるようにリーダーの後を追いかけて行った。
「こんなはずじゃない…もっと」
その言葉と共に傀の意識は徐々に薄れていった。
制服から出ないように首に掛けられたドッグタグが熱くなっているのにも気が付かないほどに。




