第10話
「魔女っていうのはね、傀がこっちに来た時に扉を開いてくれた人がいたでしょ?その人たちのことを言うの。大抵の魔女は、向こうの世界で生活していることが多いからこっちではあんまり会わないし、知られていないの」
「え!そうなの?!じゃあ…。」
「ん?そう言えばどうやって元の世界に帰るの?」
「妖精に伝わる話によると、町の祭壇のところに行って帰りたいって思うだけで帰れるらしいんだけど」
傀は首を傾げ、言葉を遮る。
「町なんてあるの?」
そう、辺りを見回せば、木や低木、生い茂った草しか生えておらず、近くに町があるとは到底思えない。
「あるわよ?というか、こっちにきた時は町だったでしょ?」
「え?来た時から、ここにいたよ?」
そんなわけ…、とティラは考え込んでいるみたいだったが、どうやら答えが出てこないようだった。
「まぁ〜、そんなこともあるでしょ!
それより何を隠そう、私も契約したからこっちの世界ならどこでも帰る扉を開けることができるの!
ただ、魔女と同じで制約もあるし、敵意がある何かが近くに居るときとかには使えないけどね」
実感も本当にできるのかもちょっぴり信憑性がないことに、へぇ 、と空返事をする。
「もぉ〜!とっても便利なのよ?!
だって、祭壇に一々行かなくても帰れるのよ?
ほら急いでる時とかに!」
ティラはわざとらしく頬を膨らませ、傀をポコポコと叩いた。
その軽い振動に苦笑いを浮かべる。
「祭壇は大きい町ならどこでもあるわ。
私たちは時々だけど、みんなは頻繁にお祈りしたりするからね!」
「教会みたいな?」
「うーん、大体そんな感じ!」
そこで傀はようやく気がついた。
こっちの世界に来たときは、まだ太陽は上の方にあったが、今はすでに太陽が沈みかけていることに。
木の影が横に伸びて、森全体に影がかかってきていた。
急いで帰らないと!!
「ティラ!僕、もう帰らないと!!」
「そうなの?じゃあ、早速 扉を開いてみるわね!」
ええっと、確かこうやって、こうして…、と目を瞑って、思い出そうとしている。
何か手順でもあるんだろうかと、ティラの不思議な手つきを見る。
少しすると、目の前に小さなオレンジ色の渦ができ、ゆっくりと広がっていく。
お婆さんと違く、ティラの羽にそっくりだ。
色もそっくりだし、キラキラと鱗粉みたいなのが少し舞っているところも。
ティラは、扉がちゃんと出てきたことに、成功だ、と飛び跳ねている。
扉って、人によって色が違うのかも。
「あ、ついたら私、ドッグタグの中に入っちゃうけど安心して!
さて、初めてだったから時間かかっちゃったけど…、帰りましょ!」
それを皮切りに、傀は来た時と同じように渦の中に入っていく。
ゆらゆらとオレンジ色の渦が傀を包み込み、次の瞬間には渦も傀たちもいなくなっていた。
「わぁ!!」
来た時に感じたような ぐるぐると回っている感覚 と 引っ張られたり押しつぶされたりするような、例えばエレベーターに乗った時のあの感覚に似た感覚によって、方向感覚が狂い、地面に経ったと思ったら よろめいて転んでしまった。
打った場所をさすりながら見回すと、ちゃんと駄菓子屋に戻ってきていた。
カウンターには、お婆さんが本を読みながら座っていて、「よく戻ったねェ」とお婆さんは、笑顔で迎えてくれた。
「はい!戻りました。」
「…それは!
そうかそうか、なんだか遅いと思ったらもうそこまで…」
お婆さんは、大きく頷いた。
それと同時に、傀の首に下げているドッグタグがほんのり暖かくなる。
店の外を見るともう既に太陽が沈み、暗くなっていた。
「今 何時ですか?」
「今? 今はそう…18時ぐらいかな」
慌てている傀に、お婆さんがゆっくり振り返る。
古びた時計を見ると18時ぐらいとは言っていたが、すでに18時20分をさしていた。
「もう帰るんだろう?帰る前にこれを」
お婆さんはそういうと、ゆっくりと屈み、低めのカウンターの下から一冊の大きく分厚い本を取り出す。
本の表面には何も書いておらず、藍色に金で模様が描かれただけの表紙だった。
「これは私特製の本でねぇ、向こうの世界の事が詳しく書いてあるからこれを読んで勉強すること。」
そう言いながら、百科事典よりも大きい本を傀に手渡す。
「あれ?け、結構軽いですね」
「そりゃそうさ。何せ、私は魔女だからね。」
お婆さんはそう言って、またウインクをした。
二度目でも、お世辞にもドキッともしないし、可愛いとも思えない。
けど前回とは違って、そんなお婆さんに笑顔を見せた。
「あ、ありがとうございます!さようなら!」
傀は急いで店を出た。
必死に走って家へ帰る途中、何度もはにかんでいる傀。
傀が明日が来ることを楽しみにしているのはもちろん言うまでもない。




