Oh! ゴタンダ・ダンジョン‼ 起
マーゴと向かい合って朝食を食べていると、モニタールームの方でピカピカと彫像が点滅した。
「ふわっ、ふぃふぉうのふぉんふぁいだ!」
「いふぉごう!」
僕たちは、口いっぱいにスイートコーンフリッターを頬張りながら、彫像の前に走った。
『おはよう、朝食の邪魔をしてしまったかな?』
「ふぃえ、ふぁいふぉうふです」
『……そうか。では、本題に入ろう、今日はひとつ頼みがあるのだ』
フリッターを呑み込んだ僕は、
「えっと、何でしょうか?」と答えた。
『私が世界中のダンジョンを所有しているという事は以前にも話したと思うが、実は今、あるダンジョンでトラブルが起きていてね。他でもない、ピオ・マホロニア、君にヘルプに向かってもらいたいのだよ』
彫像の眼がチカチカッと点滅する。
「えっ⁉ ヘルプって……、僕は外に出られないのでは⁉」
『そうだ、外には、出られない。だが、行って欲しいのは他のダンジョンだ。私は外に出る事は禁じたが、ダンジョン間の移動は禁じていない』
「……」
それって、至高の存在が持つダンジョンの中なら、何処にでも行けるってこと?
もしかして、世界中にある全てのダンジョンを探検できる?
でも、どうやって?
それに、僕はこのダンジョンのマスターだから、離れるわけにはいかないんじゃ……。
『そう難しく考えなくてよい。移動は私が転送しよう、君は、ただ向こうでトラブルを解決してくれれば良いのだ』
「あの、ここは……留守にしても良いんですか?」
『それならば心配はいらない、コピーゴーレムがあるからね』
「コピーゴーレム⁉」
何だろう、初めて聞くワードだけど。
『後ろを見たまえ』
「は、はい……」
部屋の隅っこに、丸みを帯びた小さな人型の石像が置いてある。
もしかして、コピーゴーレムってこの石像のことかな?
ずっと、ただのオブジェだと思ってた……。
『それに魔力を注入すれば、魔力が切れるまで君の代わりとして働いてくれる』
「す、すごい……」
ていうか、これさえあれば、僕ってここに常駐する必要ないんじゃ……。
『ただし、今回はあくまで緊急対応。ゴーレムがあるからと言って、君がずっと留守にしていいとはならない』
「あ、はい……」
うぅ、見透かされてた。
『さて、では……早速マーゴと一緒に行ってもらおうか。二人とも魔力の注入を。ピオ、君は今日の供給分も入れておくように』
「「わかりました!」」
コピーゴーレムの前に立ち、僕はマーゴの真似をする。
自分の手と石像の手が逆になるように握手をして、両手を交差した状態で魔力を流し込んだ。
すると、ただの石像だったゴーレムは、次第に僕たちと同じ形になっていく。
「うぉっ! そっくりだ!」
マーゴのゴーレムはピンク色で、僕のは金色だった。
なるほど、この前、教えてもらった魔力の色と同じだ。
『準備は良さそうだね。ではこれから『ゴタンダ・ダンジョン』へ転送する。詳細は、向こうにいる助手に聞いて欲しい。では、健闘を祈る――』
*
「助手って……あれ?」
気付くと、見慣れぬ部屋に立っていた。
「もう、転送されたみたいだね」
マーゴが眠そうに欠伸をしながら辺りを見回した。
「助手って、マーゴみたいに猫なのかな?」
「さぁ、私にもそれはわからないけど」
それにしても……、ここがゴタンダ・ダンジョンのマスタールームか。
タチカワと同じく、壁一面のモノリスビジョンが。
その前には椅子じゃなくて、横長いソファが置かれている。
部屋の雰囲気に、どことなく女性っぽさを感じる。
装飾にフリルが付いたもの、赤やピンクが基調の物が多い。
壁にはメイド服や丈の短いワンピースなど、露出の多い物が多数掛けられていた。
「なんか、不思議な部屋だね」
「そう? 別に何とも思わないけど」
「えー、そうかなぁ……、あれ?」
祭壇の上に、白い虎の彫像が祀られている。
崖の上で雄々しくジャングルを見下ろしているようだった。
「こ、これって、至高の存在のやつ……?」
「多分、そうだと思う。へぇ、ダンジョンごとに違うんだね。格好いいなぁ」
マーゴは感心したように頷いた。
「おっと、こうしちゃいられない。助手さんを探さなきゃ」
僕とマーゴは、マスタールームからキッチンに向かった。
「こっちはゴミ置き場か。あっ! 結構良い冷蔵庫使ってるなぁ」
マーゴは冷蔵庫のドアを、開けたり閉めたりしながら言った。
僕は冷蔵庫に夢中になっているマーゴに「奥を見てくるね」と、声を掛け、奥に並ぶ小部屋のドアを順に開けて回った。
「すみませーん……、ここにもいないなぁ」
うーん、どこに行っちゃったんだろう?
突き当たりのドアを開けると、蒸気がもわっと立ち込めていた。
「な、なんだ⁉」
水蒸気で何も見えない⁉
もしかして、何かの事故で……⁉
た、大変だ、換気しないと!
僕はドアを開放し、風魔術で充満する蒸気を外に放出した。
「ウィンド!」
あっという間に、視界がクリアになる。
「ふぅ~、これでひと安心……えっ⁉」
目の前で揺れる、それはそれは見事な『たわわ』がそこに!
ゆっくりと目線を上げると、顔を上気させた全裸の女性がシャワーを浴びながら固まっていた。
――数秒後。
「ぎぃゃぁああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」