不思議な茸 後編
ジョウロがまばゆい光を放つ!
金色の魔力水がジョウロに溜まった。
「ふーん、ピオは金色なんだね」
マーゴが太陽を見るように、手を目の前に翳した。
「ほぇ? 色って何か関係あるの?」
そもそも魔力に色があるなんて知らなかった。
「んっとね、金でしょ、銀、赤、青、緑、黒が基本色でー、人によって色の濃淡が変わるんだ。私はピンクだから、銀と赤の中間くらいってイメージかな」
「もしかして、金色って凄いの⁉」
「うーん、珍しいけどね。色はあくまでも特性を示しているだけで、魔力量は色と関係ないから」
「そうなんだ……」
「ちなみに金色の特性はオールマイティーってこと。どんな属性とも相性が良いんだよ」
「へぇ~、何か得した気分」
「ただ、赤色とか、緑色みたいに、特化した色の相性には勝てないんだけどね。要はバランス重視な色って感じかな」
「ふ~ん……」
そうか、色でそんな事がわかるなんて知らなかったなぁ。
よーし、帰ったらマスタールームの魔術書を読んで勉強しよう。
「ありがとう、んーっと、じゃあどれにしようかな……ん?」
木陰から離れた場所に、小さなフンゴ・オンゴが一本生えていた。
この子、可哀想だな……。
「じゃあ、この子にかけてみるね」
僕はドキドキしながら、小さめのフンゴ・オンゴに魔力水をかけた。
金色の魔力水がフンゴ・オンゴにかかって、飛沫が虹色の光を放つ。
「あ、あれ……?」
「変だな……吸収してたように見えたけど……?」
僕とマーゴは顔を見合わせて、首を傾げた。
フンゴ・オンゴは小さくも大きくもならない。
何だか、すーんとすまして、佇んでいるように見える。
「ま、まあ、こういう事もあるよ。また、明日やってみればいいんじゃない? 至高の存在も、ダンジョン内なら出ても良いって言ってたし……、ほら、散歩をルーティンにするとかさ」
マーゴが気遣うように言った。
「そ、そうだよね、うん、散歩かぁ、そうしよっかな」
「じゃあ、食材も手に入ったし、戻ろっか?」
僕はマーゴと来た道を引き返す。
途中、振り返って見たけど、フンゴ・オンゴはすましたままだった。
*
あの日から、僕の日常ルーティンに、『フンゴ・オンゴに魔力水をやる』が加わった。
僕にはマッピングスキルもあるので一度通った道はは完全に覚えている。
お蔭でマーゴが居なくても、全然迷わなかった。
「そうだ、折角だし、飛行術を試してみるか」
身体全体に魔力を循環させる。
次の瞬間、ぎゅんっ! と身体が宙に飛び上がった。
「うわわ! ととと……加減が難しいな……」
天井近くまで一気に飛び上がってしまった。
「うわぁ~! すっごい広い!」
マッピングスキルで大体の構造は把握している。
でも、実際自分の目で見ると壮観だった。
「あ、あの森ってあんなに小さかったんだ。へぇ~」
僕はゆっくりと森の傍に降り立った。
飛行術って楽しい!
地上で使ったら、もっと気持ち良かったのかな……。
「ま、くよくよしない! さてさて出発~!」
肩から斜めに掛けた紐付きの革袋を見て、僕の足取りが軽くなる。
散歩には必要だろうと、マーゴが作ってくれたのだ。
「ふふふ……、格好いい」
ちゃんと鳥の焼き印も入っている。
マーゴのサコッシュみたいに色付きじゃないけれど、革に焼き印ってのも味があって良い。
それに、手作りっていうのが嬉しかった。
「僕もマーゴに何か作ってあげたいなぁ……」
フンゴ・オンゴの自生場所まで来ると、僕は革袋からジョウロを取り出した。
鼻歌を歌いながら、ジョウロに溜めた魔力水をフンゴ・オンゴにかけた。
「大きくな~れ~、大きくな~れ~♪」
今日もフンゴ・オンゴに変化はなかった。
うーん、ちゃんと魔力は吸収してるはずなんだけど……。
量が足りないのかな?
ちょっと多めにあげてみよっと。
「ふんふ~ん♪ 大きくな~れ~♪」
よし、こんなもんかな。
明日こそ大きくなってるといいなー。
僕はジョウロをしまい、マスタールームへ引き返した。
*
「ただいまー」
「おかえりー、どうだったー?」
キッチンからマーゴの声がする。
僕はキッチンに行き、フンゴ・オンゴの事を話した。
「うーん、今日も変化なし……、何が駄目なのかわかんないよ」
「そっかぁ、こればっかりは私も……ん?」
僕の後ろを見て、マーゴの瞳孔がクワッと広がった。
「どうしたの? あ、あれ⁉」
振り返って見ると、そこにはあの小さなフンゴ・オンゴが立っていた。
「え? ちょ、フンゴ・オンゴって歩けるの?」
「いや……これは、ピオの魔力を吸収しすぎたのかな? 魔物化してる」
マーゴがしゃがみ込んで指で突く。
フンゴ・オンゴはよろけながらも、マーゴの指にじゃれついていた。
「ど、どうしよう?」
「……夕飯は作っちゃったしなぁ」
さらっと言うマーゴの後頭部から、ただならぬ気配を感じる……。
「元々、歩く茸ではないよね?」
「うん、ただの茸。まあ、害はなさそうだし、後で森に帰してこようか」
フンゴ・オンゴはステップを踏むようにくるくると回っている。
「あ、あの、もし害がないなら、そのぉ……ここで飼ってもいいかな?」
「えっ⁉ き、茸だよ?」
マーゴは耳をピクンとさせて、信じられないと言った顔で僕を見た。
すると、奥のモニタールームがぼんやりと光り、照らされた岩壁がチカチカと点滅した。
「あ、至高の存在だ!」
慌てて僕とマーゴは彫像の前に並んだ。
『ごきげんよう。あー、どうかな、調子は?』
「はい、特にトラブルもなく、順調です」
『そうか、それでその茸は?』
フンゴ・オンゴは、ササッと僕の後ろに隠れた。
「ピオの魔力を吸収し過ぎたみたいで、魔物化したみたいです」
『ふむ、まあ害はなさそうだな』
やっぱ、害はないのか!
よし、ちょっとお願いしてみよう。
「あの、この茸をここに置いてもいいでしょうか?」
『……茸を?』
彫像の眼が交互に点滅した。
「あ、その……飾るというか、インテリア的な意味合いです」
『ああ、なるほど。それなら問題は無い。職場環境の改善というものは、現場の意見が優先されるべきだからね』
「ありがとうございます!」
フンゴ・オンゴがトコトコと出て来て、彫像にお辞儀をした。
すると、彫像の眼からスポットライトのような光が照射され、フンゴ・オンゴを照らしてすぐに消えた。
『ふむ、なるほど中々面白い。ちなみにその茸だが……、毎日欠かさずに魔力水を与えれば、良いことがあるかも知れない』
「わかりました、やってみます」
「え~、食べた方が良くない? 茸だよ? 良いダシが出るよ?」
マーゴが不思議そうに小首を傾げた。
『オホン! どうしても食べたいのなら別の茸を採ってきなさい。もしくは、その茸の入浴の残り湯を使うなり工夫すること。じゃあ、二人とも励むように……』
「「お疲れ様です!」」
彫像の光が消える。
しかし、いつも凄いタイミングで光るなぁ。
やっぱ、神様的な存在なのかな?
どんな姿なんだろう?
「さーて、ピオ、夕飯にしよう」
「あ、うん」
マーゴとキッチンに戻ると、後ろからフンゴ・オンゴがトコトコ付いて来た。
僕が手を伸ばすと、ぴょんっと飛び乗る。
「見て見てマーゴ! 手に乗ったんだけど!」
「ふぅーん」
マーゴは全く興味が無さそうだった。
やっぱり茸は食材にしか見えないのかな?
その日の夜、ダンジョンレポートにフンゴ・オンゴの事などを記入し、部屋に戻った。
フンゴ・オンゴも付いてきて、枕元にちょこんと座る。
「ふふ、可愛いなぁ……」
フンゴ・オンゴを眺めていると、眠気が襲ってきた。
明日もあるし、そろそろ寝ようかな。
僕は明かりを消してベッドに入った。
ふと、目を開けると、部屋一面に見たことも無いような美しい星空が広がっている。
「え⁉」
驚いて起きると、枕元に居たフンゴ・オンゴの傘からまばゆい光が放出されていた。
「これ、君がやってるの……?」
返事はなかった。
フンゴ・オンゴにこんな能力があるなんて……。
「ねぇ、マーゴー! マーゴ!」
僕は眠そうなマーゴの手を引き、部屋に連れてきた。
「もう……ピオ、何をそんなに……え⁉ 何これ!」
「ね、凄いでしょ⁉」
「うわぁ……」
それから僕とマーゴは、二人で遅くまでお喋りしながら星空を眺めた。
マーゴも少しだけフンゴ・オンゴを見直したようだった。
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